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せいぜい毒グモレベルだろ『ポニイテイル』★14★

★14★ せいぜい毒グモレベルだろ

不気味なビルと隣のビルとの隙間は、子どもがようやく通れるくらいのスペースで、こんな壁のすき間をカニ歩きしても裏口なんてあるはずがない――赤いランドセルを胸の側にしょったあどの口から、あぶくのような文句がブクブク沸き立たち始めたところで、非常口らしきドアが見えた。

「ほら見ろ、優秀な助手だなオレは。おいカニ、ほめろ」

「でもさ、扉にカギがかかってたら意味なくないカニ?」

「カギ穴に何か突っ込んでみようぜ。ええと、お、そうだ。それ突っ込んでみよう。それがもし本当に魔法の角なら開くんじゃね?」

マカムラがあどの赤いランドセルにささっている角を握った。

「だめ! 先っぽが欠けたらどうすんの!」

あどは素早く助手の手を払った。

「これはね、もっとイザという場面で役立つの!」

「ん? あれ?」

マカムラが、冷たく光る鉄製の丸ノブをつかんで引いてみると、非常扉はあっさりと開いた。

「ラッキー! なんだよ、カギかかってなかったってオチ?」

「ちがう、ちがう」

あどはほほを紅潮させた。

「ユニコーンのフォースがマカムラッチの手に移ったんだよ。だからカギが開いたんだ、きっと。スゲーこの角!」

ギギギキキィーーー。

高い音を立てて、重くて厚い非常扉が開く。暗闇が拡がった。ずっと遠くの方に、わずかだが部屋の明かりが見える。その光のおかげで、せまくて真っ直ぐな廊下が奥の方まで伸びていることがほのかに判る。

「ちょっと! こわいんだけど!」

「声でけーよ。入るぞ」

「きゃあ、手! 手つないで」

「オイ、手なんかつないだら不意打ちに備えられないだろ」

それでもやせパンダは大きな暖かい手でハムスタの小さな手をしっかりと握ってくれた。

「ふ、ふいうちって?」

「ほら、ガタイのいい警備員がいきなり殴りかかってくるかも知れないだろ。映画とかであるじゃん。廊下の曲がり角で待ち伏せてて」

「帰ろう!」

「いや、行こう。ブラさんがいたら、ここはGOサインだ」

「ヤダ、帰ろう」

「鈴原を助けなくちゃ。なんちゃらの壁に吸い込まれたんだぜ。それにオレはまだ宝を手に入れていない」

「助けなくちゃって、もういいよ。別にさ、ホントはただどっかの入口からフツーに入っただけでしょ。明日学校で種明かしを……」

真神村は怯えるハムスタの手を強く引く。

「しっかりしろ、12回目の誕生日だ。つぼんでる場合じゃないぜ。いい感じにミラクルの予感、高まってきた」

「ヤダ! 痛いのはヤダ! ウチ、もう誰にも殴られたくない」

「もうって誰に殴られたんだよ」

「殴る人キライ!」

「平気だよ。せいぜい毒グモレベルだろ。足もとからそっと……」

「ひぃいい!」

「だから、声でけーつーの」

「もう。やだ……誕生日に死にたくない」

「大丈夫だよ。こんなの肝試しの町中バージョンだよ。こいつも夏休み前に終わらせちまおうぜ。映画じゃねーんだから、ヤバいことなんてゼッタイ起きない」

「ふうちゃん、ホントにこのビルにいるのかな。見間違えだったら? ここがこわいおじさんたちのアジトだったらどうする? 宇宙人の隠れ家だったらヤバいよ」

「そんときはその角で刺せ。いくぞ」


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ポニイのテイル★14★ ペタンンココユビピンノ

小学校に上がる前、カニの絵を描くことが好きで、カニばかり描いていた。あとその友だちというかライバルのタコ。あれから数十年、小笠原で自分が描いていたカニそっくりのぺったんこなカニが発見された。その名も、ペタンココユビピンノ。『本から飛び出してきた』という表現があるけれど、ラクガキから飛び出してきたみたい。ぺらっぺらで、まるで折り紙(笑)。

写真の馬の角は、だいぶ前に、ポニイちゃんが馬の学校に行く前につくってくれた角です。角の成分はいらなくなったプリント。授業中にいたずらされたんだけれど、かわいいのでそのままにしておきました。

さて物語。小学生の頃の自分だったらここで前に進むかな? マカムラくんみたいにGOサイン出る? 怖気づいて戻ってしまう? 暗さだとか怖さはあまり感じない方だけど、こういう場面でさらりと

せいぜい毒グモレベル

と言えるかな。小さな決断を迫られたり、面倒くささや疲れや好奇心の低下やかつての失敗体験によって出足が鈍る局面がしょっちゅうある。そういうのって数をこなせば減るのかと思っていたけれど、増える一方だ。そんなときにこそ『せいぜい毒グモレベル』と思って勇気を出したい。ん? 毒グモってかなり恐ろしいか。

つぼんでる場合じゃないぜ

ホント、そうだ。咲く前に枯れてどうする。チャレンジしないと起きるミラクルも起きない。さっきまで帰ろうと言っていた人が前に進もうとして、さっきまで行きたがっていた人が戻ろうとする。考えてみると、ここで戻ってしまう物語を見たことがない。戻らないことで冒険が続く。戻ったら……どうなるんだろう。桃太郎が鬼ヶ島行くのやめる、キジ、サル、イヌ、ごめんね。臆病なオレを見つめなよエンジェル、みたいな。もし、桃太郎が行くのをやめたら、桃太郎はどうなっていたのか。後世にも影響を及ぼす。男塾の剣桃太郎はどんな名前になっていたのだろうか。

自分でいけないときは、仲間に引っ張られてもいい。

そして自問自答。どうして自分は日常の局面で下がることが多いのか。

ん?

意外と下がってないかな。

アクティブ、前向き、行動あるのみ、というのともちょっと違う。物語の大きな流れをつかんで、それに身をゆだねる。見えない未来も試練、戻る現実も試練なら、行きたい方にいけばいい。

あなたにとって向いている方が前だ

といったのはペタンココユビピンノで、彼らは思いっきり前向きなのに、横にしか進めないという。その上、うすうっぺらい。普通「お前って、うすっぺらい人間だな!」なんて言われたらダメージ極大だろうけど、ペタンココユビピンノのはこれ以上ないくらい2D、うすっぺらくて、誰にも見つからなくて、後世に影響を与えない。永い間、せっかく影響を与えずにここまで来たのに、私、ペタンココユビピンノにほんのちょっと影響されていいのか、という気にさえなる。横にしか歩かず、水の流れにのってただようペタンココユビピンノ。かわい過ぎて涙がでそうだ。そしてカニぱんが食べたくなったところで、さっきコンビニで小さなパンケーキみたいなものを買ったことを思い出し、食べようと思ったらエッグマフィンだった。なんでだろう。人生甘くないがつぼんでる場合でもない。

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Jの先生 / 藍澤誠
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