ケライがこれだけは 『ポニイテイル』★58★
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ペガサスやユニコーンのような架空動物は、自分が大人になると感じたとき、12才になったばかり子どもに、自分のシンボルをプレゼントする習性があるというのです。架空生物の生態については、本だなに並ぶたくさんの参考書の、どのページにも書いていません。シンボルをプレゼントされるなんて話は、ウワサにも聞いたことがありませんでした。ユニコーンの角には驚くほどの力があって、手に入れた子どもの頭は別人のように良くなるそうです。
「じゃあさ、もし、もしだよ、キミの話がほんとうだとすると、ええと……こんどの水曜日にユニコーンが角を渡しに来るのね。そうすればわたしのこの受験勉強も終わり?」
「ほんとうだとするとって失礼だなぁ! 架空動物がウソをついてどうするんだよ。まあでも、プーコが疑い深いのはデータで調査済み。受け取ってもらえる率50パーセントだよ。これは12歳になる子にしては低すぎるって。ちょっとは反省しなよ」
「低すぎる? 半分もあるじゃん」
「あどちゃんなんて300パーセントだよ。ユニが心配するのもムリないな。うん。だからさ、そこでまあ何て言うの? ケライにもいろいろ世話になったことだし、ここはペガ様が『受けとり率』をマックスまで上げといてやろうと思ってさ。やさしいだろ。まぁ百聞は一見に如かず、ここに実物を……あれ、あれ?」
ペガはクビをふりながら、前足を曲げて、自分の銀色のたてがみをゴソゴソといじりましたが、そこからは何も出てきませんでした。
「実物の角があるの?」
「あれあれ……ゴホン。まあ、今は、誕生日前だから見せられないけれど、とにかく失礼なことを言うとあげないぞ!」
自分のシンボルでもないのに、ペガはいばりました。
「ごめんごめん。でも、なんだか、そういう角を手に入れて合格するのって……」
「ズルイって思うタチなんだろ。予想どおり面倒くさいヤツだな」
ペガは機嫌悪そうにいいました。
「ちがうちがう、わたしだってラクして入りたいよ、もちろん! ただなんだかね、角を手に入れて合格するのって、わたしたちがしている空想の話みたいだなって思って」
「空想の話? あ、そうだ! ありがとうっていわなくっちゃ!」
ペガは手遊びをやめ、プーコの方に向き直りました。
「プーコはあどちゃんと、いつも西の空にむかって空想してくれてたな。いつもいつも」
ペガは本当に2人の少女のことをよく知っています。
「ありがとう。どうもありがとう」
まだ会ったばかりだけれど、プーコには、ペガがこんなこというのはめずらしいことのように感じられました。さらにペガは感謝の気持ちを表しているのか、きれいな銀色の翼をバタバタと上下にはばたかせました。銀色のポニイの体が、フワリとゆかから30センチくらい持ち上がっています。
「わあ! すごい。飛べるんだ!」
ペガはそんなプーコの驚きの声は聞き流して、さっきまでとは別人のように、真面目な調子でいいました。
「ケライがこれだけはプーコとあどちゃんに会ったら、必ず言っておけって。キミたちが空想してくれるおかげで、ボクたち架空動物が絶滅せずにすんでいる。ホントにありがとう」
プーコは嬉しいような、恥ずかしいような気持ちになりました。
あどちゃんとバルコニーでしていた空想なんてぜんぶ遊びで、とても感謝されるような代物じゃないし、どのように役立っているのかさっぱり見当もつきません。けれどペガの生意気な口から出てきた「どうもありがとう」という感謝の言葉は、プーコの胸に、外国の童話に出てくる天使のラッパのように、美しい音色で鳴りひびきました。
ペガはプーコの目の前に顔を寄せ、銀色のひとみでまっすぐプーコを見つめました。2つのひとみは、学校のバルコニーにある銀色の水飲みボウルのように光っています。
「ボクからひとつだけ、プーコに大切なお願いがあるんだ」
「うん」
「誕生日にユニが来たら、ちゃんと角を受けとってくれる?」
「もちろん」
「断ったりはしない? ちゃんと受けとってくれる?」
「うん。だってそれがないとテストにゼッタイに受からないもの」
「もっとハッキリ約束して。急に気が変わったりしないでよ。やっぱズルして合格したくないからいらないとか、ヘンなこと言ったりしないでよ。ボクはこの約束をするためだけにここに来たんだ」
「ペガの親友ユニから、わたしは角をちゃんともらいます。ぜったいにぜったいの約束です!」
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