遠距離恋愛にもほどがある!『ポニイテイル』★76★
宇宙なんて来るんじゃなかった。3日もたつのにまだアリス星につきません。
試験官である背の高い男はとてもきびしくて、ふたりの女の子に客室とコックピットの間の自由な行き来を許してくれませんでした。あどとプーコは、こっそりロケットの前の方に侵入したとき、運転席の窓がものすごく広くて、映画の大画面みたいだということをつきとめました。だんぜんあっちがいい。客室についているこの、ただ1つの丸い窓ときたら、パナロのハナがようやく通るくらいの小ささです。宇宙食はしょっぱいおとなの味つけのものばかりで、はやくもあまいものが恋しく感じられます。目的地は『アリス星』——すてきな名前のくせに、これで小さい隕石みたいな星だったら許さない。ふたりの女の子は不満たらたらです。
「なんで宇宙まできて望遠鏡みたいな窓?」
「ホント最悪だよ、あの試験官!」
「あどちゃん、どうする、もうやっちゃおうか!」
「うん。やっちゃおう!」
やっちゃおうというのはもちろん、いたずらに決まっています。ここまでがまんしてきましたが、もうかんべんなりません。船内をさぐっていると、試験官のものと思われる、大きな宇宙服を発見しました。これはたぶん宇宙船の外に出るときに着る服です。あどは黒のペンを取り出して、その宇宙服の白くてぴかぴかしたおしりの部分に、ポニイのしっぽの絵を描いたのです!
「くっくっく」
「どう、あどちゃん、気がすんだ?」
「いや、まだまだ」
「そうよね。じゃあ次の探査に向かおう!」
「タンサ?」
「エモノをさがすこと!」
ロッカーの中におとながよく使っているエラそうなスーツケースがありました。
「ほほう、これはなかなかすてきなものを見つけました、隊長」
「でかしたぞ、あど隊員。どれ! 見せてごらん」
船内は走ってはいけないのに、やせた女の子がかけよります。見つけたのは5枚つづりの手紙でした。
「なんと! こ、これはわたしたちの星でいうところの……」
ふたりは声をあわせました。
「ラブレター!」
試験官の名誉のために、ここにそのラブレターの内容は引用しません。でもその5枚に連ねられていたのは、アリス星にいると思われる女性面接官への愛のことばでした。
「遠距離恋愛にもほどがある!」
「いかがしましょう。パイロットに報告しますか」
「ああ、その方がいい。この情報はいざというときに役立つかもしれないからな」
プーコ隊長はユニコーンの角をしっかりにぎりしめました。この角をにぎると記憶力がぐんとアップするのです。5枚の恋文くらいなら、完全に暗記できます。
アリス星はやっぱり隕石みたいな星でした。ひとまわり小さい月というような感じです。アリス星につくやいなや、厳しい試験官によってハレー少年は面接試験につれていかれそうになりました。ふたりの少女は一瞬のスキをついて、ハレー少年に例の情報を耳打ちしました。手紙5枚分の耳打ちをがまん強く聞いたハレー少年は、決定的な強みとなるデータを得てくれたふたりに対して、右手で力づよくグッドマークを作ってねぎらいました。あのいじわるな試験官と3日間もいっしょに運転席にいたのです。ハレー少年にも相当なストレスがかかっていたはずです。
ラブレターを隠し持っているくせに、試験官はこわい表情を作って、あどとプーコに、おとなしく船内に残るように指示しました。ふたりは声をあわせて「はーい」と答えました。
女の子たちのぶんの宇宙服はいちおう用意されていましたが、これは緊急用の宇宙服でこの旅では使う予定はないようです。ぜったい外に出てはならないよといい残して、試験官は向こうに見える宇宙基地にふわふわと歩いていきました。そのおしりには、あどが描いたポニイのしっぽがゆれています。
「あのふわふわ歩き、体験したい!」
「ヤツが好きな面接官の顔がぜひとも見たい!」
ふたりはさっそく宇宙服にそでを通しました。宇宙服にはチャックやらボタンやらヒモやらチューブがたくさんついていて、着るのにやたら手間取りました。
「これで大丈夫なのかなあ」
「たぶん大丈夫だよ。行こう! やった! 初宇宙だ!」
「待って! やっぱりこわいよ。わたし出られない」
隊長がひるんでいます。あど隊員はこんなときのために用意しておいた銀色のペガサスの羽を1本、こわがりの隊長に手わたしました。するとどうでしょう、プーコ隊長の心にみるみる勇気がわいてくるではありませんか。
ふたりは記念すべき、歴史的一歩を踏み出しました。
「すごい!!!」
こんな軽ければ、ペガサスのように空をかけられるかもしれない。ペガサスにとって、わたしたちの星の重力はとても小さいのかもと隊長は考えるのでした。
うかつにも試験が行われている宇宙基地のドアには、カギがかかっていませんでした。当たり前です。いたずらの女の子2人組をのぞいて、侵入してくるものなんて考えられないのですから。基地の廊下をあてずっぽうに歩いていると電気がついている部屋があります。部屋には大きな窓があり、のぞきこむと中にハレー少年と試験官と面接官の3人がいました。
「がんばれ! ハレー!」
ハレー少年はリラックスした表情で、おとな相手に堂々と答えているようすでした。
「すごいね」
「うん、すごい……カッコイイ!」
この試験にくるまで、ハレー少年は6回もの試験をクリアしたそうです。ふたりにはわかりませんが、どの試験もおそろしくむずかしいもののようです。廊下には中の声はもれてこないのですが、聞こえたとしてもふたりには何もわからないでしょう。
「で、どう? 見える?」
「こっちの角度なら見えるかしら」
ようやく見えた面接官の顔はふたりの予想に反して、とても整っていました。というより、悔しいくらい美しい人でした。あど隊員が首をひねりました。
「どこかで、見たことがある顔だなぁ……」
「わたしは見覚えないけれど……」
「思い出した! ホコリ姫! あの人、わたしの想像していたホコリ姫にそっくり!」
「じゃあ、あの試験官がチリ星さまってこと? ショック!」
ホコリ姫とチリ星、どちらも架空人物です。ふたりはよく学校のバルコニーで、さまざまな物語を空想していたのです。プーコ隊長は危険をかえりみずにホコリ川をわたってくる、ほこりまみれのチリ星さまのファンでした。
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