んざんかいりゃー?『ポニイテイル』★37★
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「それより、ええとね……そうそう、マカムラッチがね、夏休みに行っちゃうでしょ。そしたらウチ、書きたくてもあの物語の続き書けなくなっちゃう。まあスキ見て頼めばいいのかもしれないけど、冒険に出る前のマカムラッチに頼むの、何か悪い気がしちゃって。今も調べることが多くて忙しいみたいだし、旅の準備もあるだろうし」
「おお、あどちゃんが未来とか空気を読んでる! どうした?!」
「それにマカムラと続き書きたいんだけど、正直なんだか、前とちがって書ける気がぜんぜんしないんだ。あれ以来、いっつも触ってるんだけど、ユニコーンの角持ってもほとんど何も感じないし。原稿用紙100枚くらいってのも、どのくらいなのか想像つかないし……これはまだウチが書くときじゃないってことかな?」
「ねぇ、キモい。なんか……フツーの女の子としゃべってるみたい」
「ふざけないでよ。真面目バージョンで答えて。どうしよう。角は反応してくれないし、自力じゃゼッタイ書けないし。せっかくふうちゃんが物語の募集を見つけてきてくれたのにごめんね。締切すぎちゃったらどうしよう」
鈴原風は笑った。
「キミ、顔が毒キノコだよ」
花園あどは毒キノコ続行。笑わない。
「どうしよう」
「ねぇ、そんなに心配するのやめなよ」
「やめられないよ。ウチ、最近ぐるぐる考え過ぎちゃう」
「イイこと教えてあげる。ええとね、ポニイテイル、締切はなくなったよ」
うるんだハムスタの目と、輝いたバンビの目が、見えない線でまっすぐ結ばれる。
「締切が……なくなった?」
「うん」
「ホント? 何情報?」
2台のロープウェイがすれ違うように、2人の顔が接近する。
「そんなの世界中の人が知っている情報だよ。ほら、コレ見て!」
パソコンの画面に映っているのは【ポニイテイル】という文字が掲げられている、乙女チックなサイトだった。
「ありり? ページがリニューアルしてる! 雰囲気がぜんぜん違うじゃん!」
「いろいろ見てみてよ」
あどは使い慣れないマウスで、画面をゆっくりスクロールさせた。かわいらしいミヤコウマたちの写真が以前より見やすくレイアウトされ、それぞれの詳細なプロフィールが添えられている。
目のつきやすい所に、ミヤコウマが絶滅に瀕するようになったいきさつと現在なされている対策、将来の見通しがていねいにまとめて書いてある。そして例の『原稿募集』のリンクは見当たらない。
「どう? かわいいでしょ!」
「うん。でも……ミヤコウマ文学賞は? もしかして無しになっちゃった?」
「無しになっちゃったっていうか、あたしがいったん無しにした」
「無しにした? ふうちゃんが?」
「今日からこのポニイテイルの管理人になったんだ。もうサーバの移行も完了したし、完成まであとちょっと」
「管理人? どういうこと?」
「ふふふ。説明メンドーだから教えなーい」
「は? なんか気持ち悪いんだけど、ウザっ!」
「まあね、カンタンに言うと、ポニイテイルのサイトはね、沖縄のおばあちゃんがやってたの。たった1人でいろいろと調べながら。ふふふ。かわいいおばあちゃんだったなぁ」
「リンリン、沖縄まで行ったの!」
「はいたい、ちゃあがんじゅう!」
「うぉ! すげぇ! それはもしや、沖縄の言葉!」
「あどちゃんが出ていっちゃったあとにね、ミヤコウマの絶滅の危機のこととか、いろんなことを初めてパパに相談したら、なんと一瞬にして飛行機に乗るはめに」
「ええ? なんで!」
「頭の中で考えてないで、いますぐ現地に行ってこいって。10分後には飛行機の予約がとられてた」
「早っ!」
「びっくりだよ。沖縄もそうだけど、宮古島に自分が行くなんて」
「ん? 沖縄はギリわかるけど、宮古島って……どこ?」
「沖縄からさらに何百キロも離れてる小さな島。沖縄よりさらに言葉がディープ。んみゃーち! んざんかいりゃー?」
「すげー! 呪文だ。カッコいい!」
「イキナリの展開でびっくりだよ。で、途中でパパもあっちで合流していろいろ探検して。もうね、どっから話していいのかわからない」
あどはテレビで見るようなキレイな沖縄の海と、ポニイテイルのサイトで見たのんびりした島の風景と、かわいらしいミヤコウマたちの姿を想像して、思わずヨダレを垂らしそうになった。
「ズル! いいなぁ!」
「あどちゃんがつぼんでる間に、こっちはもう開きっぱなしだったよ」
鈴原風は小さな口を、南国の花のように精一杯大きく開いた。
「ウチだってつぼんでないよ! いや……つぼんでたかな」
「あれから1週間? なんかね、先週の自分が自分じゃないみたい」