もしひまなら、ぼくと宇宙へ行かない? 『ポニイテイル』★75★
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「さあ、プレゼントタイム!!」
頭の中にひびいたこの声は、ハナロングロングゾウのパナロだそうです。プーコもまだハナしか見たことがないそうです。この図書館の司書なんですって!
「いいか、みんないっせいに、同時にわたすんだぞ!」
ペガは銀色の瞳を鋭くさせていばりました。
「ねぇ、ペガ。その翼、何の役に立つの?」
あどにとっては出会ったばかりなのに、目の前のペガサスとはもうお別れです。
「ギリギリでややこしい質問するなよな。まず、これはカッコイイだろ。つぎに……まあ、いろいろ使ってみるといいよ。とにかく大切にな」
「うん。その翼、ウチの宝物にするよ!」
「おや? この翼、なかなかぬけないぞ。意外としっかりくっついている」
「ちょっと! 早く早く!」
* * *
「12歳の誕生日ぴったりに渡すのって難しいね」
プーコは金色のユニコーンの頭をひとなでしました。
「よかったです。無事にこの日をむかえられて」
「もしかして、3頭と3人が、こうやって同時に渡せるなんて、スゴいことじゃない?! わたしが読んだ『ポニイテイル』でも、最高で2人同時だったもん。3組とかきっと世界最高新記録だよ!」
「ふふ。まあ、それもペガのおかげ、って言えばおかげです」
もしかしてペガは最初からこれを狙っていたのでしょうか。心配症のユニが先に渡してしまわないように。あるいは奥手のミヤコが渡し遅れないように。何でもお見通しのパナロさんと相談して、3人同時に渡せるタイミングを作ったのかもしれません。架空動物はおとなになれば何もかも忘れてしまうというけど、同時におとなになれば、お互いのことを少しは何かを覚えているのかもしれない——
「でも、ぜんぜん関係なくて、たまたまかもね」
「ふふふ」
「でもペガに『ユニの角だけはゼッタイにもらえ』と約束させられたんです、わたし」
「頼んでもないのにまったく。思いっきり気ままなんだから。先が思いやられます」
「その気持ちよーくわかります」
「あどちゃんとは仲良くね。それとあそこのハレー少年だけど」
ユニは銅のポニイと少年の方へ首を傾けました。
「彼はプーコさんの『一生の友だち』になるんですって」
「え?」
「パナロさん情報なんですけど……あ、ナイショだったかな」
「そ、そうなんですか! 知らなかった……」
「では、いろいろとありがとう。胃もお大事にね!」
「この角、ありがとう! いっぱいいっぱい使います!」
「あ! まだ抜かないでね。最後の合図でいっせいに渡すんだから」
* * *
ミヤコはぐるりとクビをしっぽの方にまわしてココアみたいな銅色のしっぽをくわえて、グイッと引っぱり、何本か引き抜き、ハレー少年に差し出しました。
「このしっぽで三人分の腕輪をつくるといいかもしれません」
「腕輪?」
「はい。親友のあかしとしての腕輪です。旅のお守りにもなります。あどちゃんとプーコさんとハレー少年、三人おそろいで身につけて宇宙へ旅してください」
「ありがとう。ねえ、キミたち三人はおとなになったら、このあとどこへ行くの? 西の空?」
「たぶん、そうです」
「じゃあ、いつかぼくが運転できるようになったら、ロケットでそっちを通ってみるよ。できるだけ早く会えるように計画してみる」
「あまくておいしいココアごちそうさまでした。にんじんもおいしかったです」
「うん。ありがとう。かならず行くよ!」
「あ、まだ持たないで。みんな同時だから」
* * *
あどとペガ、プーコとユニ、ハレーとミヤコ。
7月7が誕生日の、3頭の馬と3人の少年少女。
ハナロングロングゾウがカウントします。
そのカウントに合わせて、みんなもさけびます。
「さん」
「さん!」
「に」
「に!」
「いち」
「いち!」
「ゼロ! おめでとう!」
金のポニイ。
銀のポニイ。
銅のポニイ。
角と翼としっぽを三人の子どもへ同時に手わたすと、3頭は3すじの光となって、屋上から西の夜空へと、ものすごいスピードで飛び去って行きました。
ユニの角を右手に持ったプーコがつぶやきました。
「行っちゃったね……」
ペガの翼をかかえたあどちゃんがため息まじりに言いました。
「みんな、カッコよかったね」
ミヤコのしっぽをにぎったハレー少年が、ちょっと緊張した声で提案しました。
「あのう……ちょっと…」
プーコとあどちゃんがハレー少年を見つめます。
「明日ひま?」
「え? ヒマって言えばウチらはいつもヒマだけど?」
「わたしは勉強が——あ、勉強はもうないんだった!」
「もしヒマなら」
ハレー少年は、ポニイたちの消えた空を見上げて言いました。
「ぼくと宇宙へ行かない?」