生まれつきだとこまらない『ポニイテイル』★43★
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2人の誕生日の前日。
7月6日火曜日の放課後の話です。
『宇宙に数頭しかいないゾウの物語』を、プーコに手伝ってもらいながら学校のバルコニーで書いていたときのことです。
「ねぇあどちゃん、このハナロングロングゾウはさ、生まれたばかりの赤ちゃんのときは、だいたい何メートルくらいの鼻の長さ?」
「うーん、そうだなぁ。10メートルくらい?」
「は?! 10メートルはない。10メートルっていったら、地面からこのバルコニーくらいだよ! バランスわるっ!」
「いいんだ10メートルで。ウチ、もう決めたんだもん」
あどとしては『10メートルがどのくらいか』なんて気にしないで進めたい。長さだとか単位だとか……ニガテというか、頼むからこの世から消えてくれって感じでした。そんなあどとは反対に、プーコは顕微鏡で観察するみたいに細かいところまできちんと想像するタイプです。
「赤ちゃんのころから10メートル? そんなに鼻が長かったらこまるよ。かわいそうじゃない?」
「こまらないよ、ぜんぜん。生まれつきだからね」
「生まれつき?」
「そう、生まれつき」
「あ、そっか! なるほど」
「ぬ? OKなの?」
「何が?」
「鼻の長さ。10メートルに決めちゃっていいの?」
「生まれつきだとこまらない。そっか。うん。確かにそうかもね」
「そ、そう? じゃあ、あとね……このハナロングロングゾウは、耳がないの」
「うへぇ! じゃあ、どうやって身の危険を察知するわけ?」
「サッチ? ああ、サッチね」
「あーっ! あどちゃん、察知ってことば、知らないんでしょ」
鋭く突っ込んでくるからといって、意地悪なわけじゃありません。知らないことばはちゃんと覚えるべきだとプーコは考えているのです。
「あ、うん、まぁ……サッチって、何かな?」
実を言うと、このときのあどは『ひろったユニコーンの角』のおかげで、『サッチ』が『察知』だと思いっきり知っていました。だけど、ハニワみたいな顔をして知らんぷりしたのです。プーコはそれにまんまとだまされ説明を続けます。
「サッチっていうのはさ、何ていうのかな、うーん、動物でいえば、自分が敵におそわれそうかどうかを予想すること。そうかそうか、わかった。その長い鼻がアンテナなのね。レーダーの役割をしているんだ、きっと!」
「いや、鼻はとくに役立たないよ。ハナロングロングゾウも、自分のハナが長すぎることにあきれているんだ。もうハナなんか切っちゃおうかなって思っているくらい」
「じゃあ、どうやって危険を察知するの?」
「あぶない場所にはよりつかないんだ。ハナロングロングゾウは、安全な場所を見つけ出すのがとても得意なんだ」
「うーん、それは納得いかないなぁ」
「不思議な動物だから。なぞが多いんだ。そこがいいところなんだけど」
「そっか。わかった。じゃあ——」
プーコの目はバンビのように大きく、キラキラとした瞳はあどをガッチリとらえました。そのシラカバみたいな細っこい身体が「にょきっ!」って伸びたかと思うと、長いハナを思い切り持ち上げたゾウのように、プーコは力強く宣言しました。
「図書館で調べてくるッ!」