人はfootprintで、ファンドは財務諸表に,その生き様を刻む(ん?)
私の住む浅草も、4月も半ばすぎともなると、桜のお祭り騒ぎがひと段落して、さあ三社祭への気持ちが切り替わって、なんて行きそうなものですが、いやいや、桜ってのはソメイヨシノだけじゃないんです。浅草でも観音裏、なんて呼んでます言問通りを渡って浅草のさらに奥に入ったあたりを東西に横切る一葉桜小松橋通りという通りに320本の一葉桜がソメイヨシノの終わり頃から綺麗に、しかもソメイヨシノと異なって、鮮やかな葉と共に、より大ぶりな花が咲きだすのです。
桜はソメイヨシノに限らず綺麗なんです
この一葉桜小松橋通り、この名称で知っている人ってどれくらいいるんでしょうね。実際に通りに行くと確かにそういう標識も見かけるのですが、普段はあまりそんな名前で意識することはなく、浅草浅間神社と富士小学校、浅草警察署の間を抜ける通りで、5月の終わりと6月の終わりの植木市の時や11月の酉の市の時に出店が立ち並ぶ通り、もし東京銭湯マニアならば、アクアプレイス旭の前の通り、という方がわかりやすいかもしれません。
ちょうどこの記事を書いた週の頭に、運動不足解消に、と、人に会わないよう夜の散歩をしては眺めてきましたが、まぁ、我が家のネギ坊主や去年咲いた花から飛び散った種子から生えてきた青梗菜くらい元気に咲いていましたね。ついぞアクアプレイス旭の前で思わず手持ちのスマホで写真に収めて、 #東京銭湯 のタグと合わせてSNSに投稿してしまったのでご覧いただいた方もいらっしゃるかと思います(というか、これを読んだあなた、ぜひこちらもご覧ください)。
行動がネットに記録されるのは、私に限った話ではないのですが
さて、そんな行動を普段からしておりますので、多分に私がどこに行って何を眺め、何を食べて、どこで風呂に入ったか、というあなたにとってはあまり重要でない情報をあなたが目にする以上にSNSのなかに蓄積されて(そして、時と場合と機嫌が悪い人に対しては石を投げたくなるトリガーになったり、コメント欄を使って炎上するための薪になり)、私の行動パターン、私の生活の癖というものがデータの中で出来上がってきます。まあ、そうですよね。#みやたべろぐ の写真の色の傾向(カレーと揚げ物のおかげで、なんだか黄色偏重気味ですよねぇ)と、食べるお店の位置情報(一時期は、神田、五反田、最近はほぼ汐留駅から新橋駅の間)だけでも、私の食に対する好みだったり、私の生活エリア、行動パターンがある程度見えてきます。もう、これだけでも既に充分、SNS上で私のような食いしん坊で新橋・汐留周辺で働いている人に対して、今度うちの店を夜の会食で使ってみませんか、とか、今度のランチは当店で!いう広告を出したら、他の新宿や品川で働いている人への広告よりも効果が高そうに思えてきます。
たまに耳にする言葉:digital footprinting
こんなSNSでの投稿や誰かさんの投稿への「いいね!」、Googleでの検索履歴とその結果のウェブサイトの閲覧、などなど、あなたのスマホやPC上のブラウザーやアプリでの行動は digital footprintと呼ばれていて、知らない間にどこか(って、まぁ、あなたのブラウザーのクッキーという形と、それを読み出している Googleなどの検索エンジン兼広告出稿管理システムや、SNSと理解されている個人の投稿と広告の自動出稿管理システムなどなど)にかなり蓄積されています。その情報(例えば、あなたが、つい3分前に「セカンダリーファンド 日本 絶賛募集中」と検索をかけた事実)と広告を出したいと思う人の出したいと思う情報(弊社がこの2022年4月にファースト・クロージングを終えた Ariake Secondary Fund III LPに関するお知らせ)とがマッチしたら、あなたの見ている他のページ(それが日経の広告スペースだったり、全く関係のないブログだったり)にその情報が現れるので、多かれ少なかれ目にしたり体験されたことがあるであろう、時々別ウェブサイトとかSNSを眺めていると感じる、あれ、この広告ってさっき探していたもののだよなぁ、ちょっと見てみようかな、と思わずクリックしちゃう、その動機を作っているのです。それをちょっとうまいことすると、カリブの小さな島での政変を後押ししたり、Brexitや某国の大統領選挙で国を真っ二つにするような扇動行為を出来てしまう、という話にもつながるのですが、そのあたりは私の別のブログの記事の方で。
いわば、あなたの行動はあなたの性格や趣味、嗜好、行動パターン、そして購買能力の表れですので、行動からこれらを(統計的に)読み取ろうとするのはマーケティング的にも当然のことでして、そういえば、クレジットカード会社さんあたりは昔からカードの利用履歴や利用額から、購買能力や嗜好を推定して広告を送ってくるのはもとより、クレジットカードの過去の利用パターンから外れた不正利用かどうかを推察することまで行っていましたね。それが今ではQR決済のプラットフォームや電子マネーでも同じことが可能ですので、四六時中位置情報を取得しているスマホとその地図アプリやランニングアプリ、というより携帯電話会社も同様の情報を蓄積するので、警察への行動履歴の証拠情報から、匿名データによる道路の渋滞情報から駅や渋谷のスクランブル交差点のの混雑情報、果ては売上増の見込まれる会社の工場への出勤者の増減傾向まで、行動そのものもだいぶ情報化されていいようにも悪い(?)ようにも使われれていることに気付かされます。
目指せ、デジタルデトックスならぬ、デジタル・ジェイルブレイク
ですので、もしこういう形で自分の生活パターンを含めた情報を誰にも盗まれたくない、なんて思ったら、携帯の電源を切って契約を解約し、クレジットカードをやめて、なんなら銀行口座も解約して、現金生活するしかないですね。現金ほど足のつかない決済方法はありませんから。でも、少なくとも、今や、職につけば、仮に現金払いの会社であっても、お給料から差し引かれる社会保険と税金の都合でマイナンバーは雇用主に伝えねばなりませんから、自然と厚生年金と健康保険の支払い実績はねんきんネットで積み上がることが確認できますし、源泉徴収された税金の支払いとともに、年収は一番知られたくない税務署に自動的に伝わる仕掛けになっています。それが嫌だ、と言って自分で事業を始めるならば、これまた会社の設立登記であなたの住所氏名は確実に法務局に記録され、これまた税務署に事業主として数枚の書類が吸い込まれていく仕掛けになっています。無論、不動産を持って賃料収入だけで生きようとしても、不動産の所有者としての記録と、大家さんとしてのあなたの情報が店子さんや管理会社に伝わることになります。当然、賃料を現金で払ってくれる店子さんばかり、とは今時は行かないでしょう。そうなると、残される数少ないビジネスというと、思いつくのは現金で商品を仕入れて現金で売る、なんて行為ですが、法人相手に現金仕入れってなかなか出来ませんし、現金で売るという行為も、もはやキャッシュレスな現代社会ではなかなか出来ません。ふと頭をよぎった典型的な現金オンリーの売買なんて裏路地の暗闇で売るヤバいもの、って典型的なAMLの向こう側の世界くらいなので穏やかに生活できるようには思えません。今や世界的には(ぴー)し屋から人(ぴー)売買の取引までディープウェブ上で秘匿IPアドレスを使って仕事の依頼を受けてビットコイン決済の世界ですからなかなか普通に生活していると思いつくものではなさそうです(思いついた人、是非教えてください!)
お金を稼ぐだけでなく、生活するために買い物しようと街を歩けばコンビニから電灯まで、至る所に防犯カメラがあるし、街を走っている車の大半がドライブレコーダーを搭載していますから、あなたが何を買ったか、まではわからないものの、誰かが現金でいつ、あれとこれとそれを買った、というレジの情報と、カメラにこの時間帯にどういう見た目の人がいたか、という情報がある以上、正確ではないにせよ、情報をつなぎ合わせて類推され得る、くらいはされそうです(車のドライブレコーダーの情報がそこまで簡単につなぎ合わされる情報になるのかどうかは、さておき)。ちょうど昨日もtwitterでひき逃げされたライダーさんが情報提供募集をして、それなりにひき逃げした車の情報が集まりつつあるようですから、どうも気づいたら個人の行動というのは誰かがどこかしらに、でも自分で見ることなく、記録されてしまっている世界に変わっていたのかもしれません。
とはいえ、自然人、なんて呼ばれるわたしたちの行動が、今やありとあらゆる形で記録されている中で、でも、ちょっと(ぴー)10年前のピチピチだった子供の頃、自分が生活した記録、なんて言えば、親にとってもらった写真のたくさん入ったアルバム(って、あまりないよなぁ、貧乏だったから)、お小遣い帳(って、あまりないようなぁ、几帳面じゃなかったし、お小遣い、ほぼもらえなかったし)、あとは家の壁に書いた落書きくらいでした(もちろん、成績通知書とか、母子手帳とか、着ていた服とか、幼稚園や保育園、小学校で作ったお製作、はては思いついて始めたけど読み返すと恥ずかしい若い頃の日記など、言い出せばキリがないのですが)。でも、今は、日記はブログやSNSに、写真どころか動画もオンラインのアルバムに、そんな落書きすらほぼデジタルに置き換わって、自分が意識する、しないに関わらず(しかもどこかに)残っていっている、と思うと、なんとなく、世の中が便利になった結果の余波程度、にすら思えてくるのです。
ファンドのfootprintとは?
さて、自然人ではない、我らがファンドの話をそろそろしないといけませんね。
ファンドって法律によってその存在を裏付けされている、いわゆる(広義の意味での)法人、なんて言い方をすることが多いです。この中にはファンドだけでなく、会社なんてものも入るのですが、この法人ってやつは影も形もありません。法律に基づいて存在するので、そのものを目に見ること、といえば、会社ならその会社の登記簿の情報を印刷したものとか、そこそこ大きければその会社のオフィスの表札に書かれた文字、ロゴ、ウェブサイトで説明する情報、といった具合です。ということは、法人が歩くことがなければもちろん食事をすることもないですし、桜を見て写真を撮ってinstagramにアップする、なんてことは出来ません。ん?法人アカウントでinstagramに写真が上がってるじゃないかって?あれは中の人、と呼ばれるその会社の役職員の方の知恵と努力の結果であって法人そのものの活動ではない、ですよね。
ですが、会社が営業活動して、その一環で接待と称して美味しいものを役員さんが飲み食いして、商品を作り、在庫として管理して、売って現金化して、お給料払って、オフィスの賃料や材料費などを払って、残った売上を出資者にお返しして、という一連の企業としての活動をしているのは、法人がしている、のではなくて、その役職員の企業としての活動の表れなのです。
ということは、投資して回収するのがファンドのビジネスですので、上記と同じように、営業活動してくれるプレースメント・エージェントさんに報酬を払い、(接待する必要はないでしょうけど)、投資先に出資をする、持分を取得する、回収した資金を受け入れる、運用するチームに報酬を払う、登記上のオフィスのレンタルフィーや年次登録料を払う、必要に応じて事務代行や弁護士や監査人への報酬も払って、残ったものが投資家さんに支払われる、ということを繰り返しているのです。ということは、ファンドの行動、というのは銀行残高と入出金履歴に集約されているように思えてきます。
じゃあ、お小遣い帳でいいんじゃない?
となると、子供の時につけ(させられ)ていた小遣い帳(もしくは、それを格好いい言い方で呼ぶと単式簿記)でいいんじゃないか、と思えてきます。でも、これって単純に、今いくら資金が残っているのか、しか教えてくれません。もちろん、これはこれで大事なことです。今いくら資金がある、からあと何に追加投資できるのか、もしくは投資家にお返しできるのか、いやいや、これからあといくら位経費がかかる予定だからどれくらい残さなければいけないか、と考えるきっかけは充分くれます。
でも、小遣い帳は、小さな子供をはじめとする金銭概念のない人にとって、いくらあるからこれだけ使っていいよ、というサインを与えるだけで、今までいくらもらったか、とか、これくらいの期間にどれくらい使っていたか、とか、何に多く使う傾向があるのか、とか、買い物をした結果、手元にお金以外に何が残っているのか、なんてことは教えてくれません。まぁ、わたしたち自然人ならば、買ったものは服から本、鞄やコンピューター、テニス部の練習会に参加するためのラケットやシューズなど目に見えてわかるもの、と食べたり飲んでしまって消費してしまうもの、の二つがあるので、財布の中のお金と自分の部屋を見回して見えるもの、でそんな情報を再確認しては、空っぽになった500円のチリワインの瓶の山を眺めて、あれ、昨夜これも開けちゃったんだっけ、酔った勢いって怖いわ。。。と反省することまでは出来ます。でも、そもそも影も形もない法人です。出資してくれた出資者や今貸している人、将来お金を貸してくれたり出資してくれた人に対して、何をいくら持っていて、何に使ったか、というその活動の内訳を説明するには、小遣い帳では見づらいし空き瓶のような証拠を別途見にいくなんて出来ないので使い物にならなさそうです。
ということで、簿記の時間です
そこで、複式簿記と呼ばれる、いつ、何をどの目的でいくらどの口座から使ったか(受け取ったか)、というものを記録して、その目的や口座別に異動情報を集計し、結果として、資産と負債、資本金/出資がそれぞれいくらあって、費用としてどういう内訳でいくら使い、収益もどういう内容で売り上げたか、というのをある一定の期間とその最終日時点の状態で説明する「財務諸表」という一覧性のある資料にまとめることが必要になります。
こう堅苦しい表現をすると分かりづらいかもしれませんが、例えば、4月1日にファンドの預金口座Aに投資家Xさんから出資金が100万円振り込まれたことを
4/1 : 預金口座 A ; 100万円 / 投資家X 出資 ; 100万円
という形で記録し、また、4月10日に、ファンドの預金口座Aから企業Pに株式として50万円出資した、なんてことを
4/10: 企業P株式 ; 50万円 / 預金口座 A; 50万円
と記録したら、結果として、預金口座Aには 50万円が残っていて、その代わりに企業Pの株式を 50万円相当保有したけど、それは全て投資家Xさんからの100万円の出資に基づくものだった、ということですので、財務諸表の一つで、貸借対照表と呼ばれる何をいくら持っているか、という情報をまとめたものは
資産:
企業P 株式; 50万円
預金口座 A ; 50万円
———————————
資産計: 100万円
負債:
該当なし
出資金:
投資家X 出資分 ; 100万円
——————————————
負債/出資金計: 100万円
という形になり、この財務諸表が出来上がっていく、と見せられると、何となくイメージが出来てくると思います。
これなら誰がやっても同じように出来て楽勝、なんだよ経理なんてちょろいじゃないか、って夢を一瞬だけ見られそうですね。
桜の種類と同じように、帳簿の付け方も色々違いがありまして
さて、上記ではすごく簡単な話にしていますが、世の中そんなに簡単ではないですよね。例えば、証券会社で個人が株の売買をすれば取引手数料が取られます。大口の取引をするヘッジファンドや投信だって、手数料率は違えど、手数料がかかります。プライベート資産の時でも間に紹介者が入れば同様です。マイホームを買ったことのある方ならご存知でしょう。不動産を買っても売っても、売買を取り次いだ宅地建物取引業者さん(いわゆる宅建業者さんですね)が3%以上の手数料を請求しますよね。不動産だと、移転登記を行うので司法書士さんに報酬を支払わねばなりません。
日本の会計ルールだと、取得した時や売却した時の取引に係る手数料は取引の価格に入れていいことになっています。例えば上記の例だと、4月10日の取引で1%の手数料を紹介者 Pに支払うことになったとすると、紹介者に支払っているはずなのですが
4/10: 企業 P株式 0.5万円 / 預金口座 A; 0.5万円
という経理処理をするので、先ほどの貸借対照表は
資産:
企業P 株式; 50.5万円
預金口座 A ; 49.5万円
——————————————
資産計: 100万円
負債:
該当なし
出資金:
投資家X 出資分 ; 100万円
———————————
負債/出資金計: 100万円
としていいことになっています。ところが、世界的な会計報告基準 (IFRS – International Financial Reporting Standard)では、このような手数料は費用計上することを求めていますので、
4/10: 取引手数料 0.5万円 / 預金口座 A; 0.5万円
として、貸借対照表も
資産:
企業P 株式; 50.0万円
預金口座 A ; 49.5万円
———————————————
資産計: 99.5万円
負債:
該当なし
出資金:
当期損失. ; (0.5万円)
投資家X 出資分 ; 100万円
——————————
負債/出資金計: 99.5万円
そして、利益と損失をまとめる、損益計算書には
売上:
該当なし
経費:
取引手数料; 0.5万円
経常利益/(損失)
(0.5万円)
当期損失
(0.5万円)
という表示がされることになります。
このようなルールは、日本とIFRSだけでなく、米国やまだ、IFRSになっていないその国独自のルールを採用する国があればその国の数だけありますから、ソメイヨシノと一葉桜の咲き方の違いだけじゃなく枝垂れ桜など桜に色々あるように会計処理のルールもいろいろあるのです。そのため、投資をする人はこれを読み解く力が必要になりますが、 #カリスマファンドアドミまたは史上最強のコントローラー はこれを理解して財務諸表を作り、また理解できることが必要になっていきます。
みんな理論だけは語れる資産の評価方法。すっかり見向きもされない負債の評価方法
ところで、上記でさらっと、企業P株式を50万円ほどで取得していますが、運用する弊社のような立場でも、そして出資している投資家も、4月10日に50万で買ったのはいいとして、翌年の3月末である今だけどこの株、いくらになったかな?というのが気になります。日本の会計原則だと、もしPが上場企業ですと、この3月末の取引所での終値がその会社の株式の一株当たりの評価額ですので、東証の終値を持ってくればいいのですが(それを日々データを取り込んで損益評価して、日本語で言うところの「有価証券未実現損益」勘定に反映させる、って作業を国内の投資信託の受託や投信投資顧問のみなさんが買い叩かれた運用報酬のなかでやっている、ってかわいそうだと思いません?これが日本でインフレの起きない理由ですからね。)、未上場企業だったらどうすればいいでしょうか。日本で設定される日本の未上場株式投資をするファンドが大抵使う「投資事業有限責任組合」という仕組みですと、その契約書の雛形を経済産業省というところが発表しているのですが、その雛形の一部に組み込まれている証券評価に関する別紙というのが、いわゆる太田昭和モデル、と呼ばれる評価方法を示していまして、たいていのファンドさんはそれをそのまま使っちゃっています。ほら、省庁の出した雛形だから誰も疑問を持たずに使っちゃいますから。
ちなみに、その評価モデルだと、もし企業Pがなんちゃらラウンドと称して株式の新規発行とその割り当てをしまして、その価格が取得価格よりよければその新規割り当ての価格を使えますし、企業の調子が悪くて継続性に疑問が生じる状態に陥っていたら、その度合いに応じて取得価格の 25%とか、50%とか、75%を減額した額に評価し直す、としています。まぁ、資金調達ができる企業さんの評価をしなおす、というのはまぁ、実勢価格よね、って言えますし、会社が悪くなったなぁ、という時に評価を下げるのは妥当ですよね。その下げ方がとてもデジタルなのはある意味簡便ですが、本当にその額?って考えちゃいますよね。
言い換えると、そういうイベントの全く生じない、資金調達不要なのに事業が無茶苦茶好調な、ある意味手間の掛からないいい子ちゃんな会社はその企業の評価額がいくらであっても、取得価格のまま、という不思議な状態に陥るのです。と言って、評価額を上げるために無理に資金調達して持分が希釈するとか、そのために追加出資をその資金調達で行って平均取得価格を上げる、ってのも変な話ですよね。
というところがあるのか、それとも、海外の投資家の間では本流であるIFRSやUS-GAAPでは試算評価は公正価値を使っているのよ、って話を踏まえて、海外投資家を呼び込むには必要だから、という海外投資家を呼び込むためのその他のもっと大事なファンド運営のためのインフラに手をつけないまま形だけの対応をしている、としたいのか、よくわかりませんが、国内ファンドでも、資産の公正価値を算出してファンドの評価に反映させよう、という話が盛り上がってるそうです。そういうキャッチーな話はうちの社長に任せておきますが、実際のところ、ケイマン諸島のPrivate Fund Actの要請などを見ていると、確かに公正価値評価の議論も大事なのですが、実は、ファンドの現実としての純資産(資産から負債を引いた額、ですね。投信なんかで無駄に毎日正確に出せってうるさいアレです)の計算において、資産評価はこの引き算の片一方しか見ていないことがわかります。
ん?負債の公正価値?どういうことって思いますよね。単純に考えると、請求書を受け取ったり、銀行から借り入れたり、債券を発行して資金を受け取ったその瞬間に支払い「債務」が発生して、その満額を支払う義務を負っているのだから、その公正価値評価もへったくれもなく満額であるんじゃないの、って考えたくなりますよね。どうやら、IFRSでは、その反対側に立った債権者たちが「債権」と認識してその公正価値を計上するのだから、その反対側の債務者も同じように負債を評価すべき、と考えているようです。まぁ、税務調査で債権サイドと債務サイドとで反対調査を行うのと同じ、と言われれば、納得できる、のかもしれません。ただ、この場合、評価を考える際には教科書的には「第三者に移転した場合にいくらになるのか」と「債務履行できない時のリスクを勘案すること」とされているのですが、パッとイメージできませんよね。
まだ、比較的簡単に話の説明できそうな前者に限ってお話をすると、これって言い換えれば「いくら払ったら、その債務を誰かさんに肩代わりしてもらえるか」ということです。債務に(当然ですが負の)市場価値(って、引き受ける人が複数いて、いくら貰えたら引き受けるよ、という比較が出来る)前提になりますよね。とはいえ、当然債務者の地位の移転なんて債権者が許容するか、という譲渡性の議論が出てきてもおかしくない(譲渡性の制限、ですね)でしょうし、だったら(この手の話で出てくる言葉である)期限の利益を放棄してもらってそこまでの経過利息と額面の全額返済して終わらすよ、と思いたくなるでしょう。でも、もらえるはずの利息を放棄してまで早期回収をしたい人ばかりでもないことを考えると、予定される元利金の支払い負担の時価評価を現在価値に引き戻して考える、というようなちゃんとしたキャッシュフロー分析が必要になるでしょうし、事実、資産評価で使われる収益アプローチを負債でも使うという話にもなっています。だんだん、資産の評価の議論と同じになってきましたね。
でも、こんな話って、多分IFRS導入を検討した企業の財務担当者さんが頭を抱えて対応した以外に、あまり表に出てこない話でしょうね。事実ファンドの世界でこんな話はほぼ出てきません。あまり借入しないから額面評価で足りる短期間の請求書等の支払いくらいしか使わないし、仮にレバレッジの目的で借りたとしても、額面 +経過利息の未払い費用計上、で終わっているような話、です。とはいえ、海外でこの公正価値評価の議論をすると、資産だけでなく負債も対象なのよ、と言われるのは覚えておいて損はないと思います。
まとめ:会計士しか出来ない仕事?私、そんな資格持ってませんが何か。
閑話休題。なんだかだいぶマニアックな話ばかりが続きました。
本当は、投資事業有限責任組合の年次報告の最後の方の消費税負担の表記のところで、8%の支払い負担をしたという記録が出てきたら、どういうわけか飲み食いを持ち帰り弁当かケータリングでしたっぽいけど、お腹を空かせるはずもないファンドが飲み食いをしていること自体おかしい話だからこんな表示があったら気をつけたほうがいいですよ、的な実用的でもっと役に立つ話をする予定だったのですが。。。
とはいえ、こんな財務諸表を作るような仕事、ファンドアドミやコントローラーとしてやるには会計士資格が必要なんじゃないか、ってちょと青ざめそうになっていませんか。大丈夫です。こんな話は個別の取引をいかに計上して積み上げた結果として財務諸表にするか、というところの知識だけが必要で、会計士先生たちが知っているような情報のごくごく一部でしかないのです。そのおかげで、こうやって偉そうなことを書き、毎年監査で会計士先生たちとあーでもない、こーでもない、とお話を楽しく(ええ、本当です。先生方はどう見ているかは知りませんが。。。)させていただいているのですが、私、簿記もそういえば受けに行ったことないです。門前の小僧なんとやら、なんですね。とはいえ、とあるファンドさんではバックオフィスに会計士有資格者をずらっと並べているらしいです。そんな給料を早く払えるようになりたいものです。考えてみてください、フロントで運用に携わる、証券アナリストの人たちも企業分析をするのに財務諸表は読めます。でも会計士資格まで持っている人ばかり、ではないですよね。それと一緒です。
それ以上に大事なことは、こういった財務情報はその裏側に個別の細かい取引が積み上がってあって初めて出来るものですので、その細かい取引がどういう意味なのかを推察して、できれば検証する、という感覚の方が大事だと思っています。それは、くたくたに疲れ切って家に帰って、さて寝ようか、と思ったらフローリングに脱ぎ捨てられた一組の靴下を見て、
脱ぎっぱなしなんて、ちゃんと洗濯かごに入れなよー、とただ怒るのか
よほど日中疲れていたんだろう、脱いで足を楽にしたかったんだろうな、と思いやるのか、それとも
落ちていることを見て、でも疲れて寝たいから見ぬふりをするのか
の、どの選択肢を普段から取っているか、に現れるのかもしれません。
お後がよろしいようで。