見出し画像

第430回  < 半導体関連ビジネスについて >

最近の日経平均株価の上昇をけん引している半導体関連銘柄群には、実に様々な企業が含まれています。「産業のコメ」と呼ばれ、現在あらゆる産業に不可欠となっている半導体ですが、日本の企業は半導体関連事業においてどのような役割を果たしているのでしょうか。1980年代後半には半導体売上シェアでトップを誇っていた日本ですが、いまでは台湾、韓国、米国に大きく後れを取っています。しかし、半導体製造の工程毎に見てみると、特定の分野にはリーディングカンパニーが存在します。今回のコラムでは、複雑なサプライチェーンを持つ半導体関連ビジネスについて勉強してみたいと思います。

半導体を使った製品は、車、家電、パソコン、スマートフォン等多岐に及びますが、これらの製品には半導体チップと言われる集積回路が搭載されています。まずは、この半導体チップができるまでのプロセスを見てみたいと思います。現代の半導体の原材料はシリコンですが、原料となる珪石を電気炉で還元分解して金属シリコンとします。その後、化学反応を利用してできた多結晶シリコンから単結晶シリコンのインゴットが製造されます。最後にスライスして研削、研磨された単結晶シリコン(シリコンウェハ)が半導体メーカーに出荷されます。このシリコンウェハ製造の世界での市場シェアは日本の上位2社が60%以上を占めています。ウェハの製造には精密な機械加工技術と化学薬品を用いた研磨や洗浄の技術が求められており、日本企業が優位な立場を維持しているようです。

製造されたシリコンウェハの表面上に電子回路を高集積で形成して、集積回路(半導体チップ)を製造する過程が半導体製造における「前工程」ですが、その前に回路を設計する工程が入ります。設計工程では、必要な機能を実現する回路を設計し、シミュレーションを重ねて効率的なパターンを検討します。さらに、透明なガラス板などの表面に実際よりも大きく回路パターンを描き、前工程においてウェハに転写するための原板とします。設計等に特化して自社で製造工場を持たないことから「ファブレス(工場を持たない)」と呼ばれていますが、この業種の現在の最大手が今話題の「エヌビディア[NVDA]」です。この分野では米国の2社が40%以上の市場シェアを占めており、日本企業のシェアはほぼゼロとなっています。シリコンウェハ製造の市場規模が1兆5千億円程度等に対して、ファブレスの市場規模は約15兆円と、半導体関連ビジネスの中でも非常に重要かつ大きな分野となっています。

半導体チップを作り込む「前工程」は、さらに素子形成、配線形成、ウェハ特性検査の工程に分けることができます。素子形成や配線形成では、洗浄、成膜、フォトロソグラフィ、エッチング、ウェハ検査が繰り返されます。これらの工程の多くはチリやホコリのないクリーンルームで行われ、古い工場ではヒトの手もかかりますが、最先端の向上では自動化されている部分が大半です。求められる要素技術としては、薬品や機械を使った洗浄技術、配線の役割を果たす金属膜や絶縁のための絶縁膜をつける成膜技術、設計段階で作成した回路パターンをウェハ上に成膜した薄膜上に紫外線などで照射するフォトリソグラフィ技術、さらに形成した回路パターンに沿ってシリコンや薄膜材料に形成加工を施すエッチング技術等があげられます。このほかにもウェハにイオン化させた不純物を注入することで電気的な特性を変えることや、熱処理を加えるなどの技術を活用して用途ごとの半導体チップが完成します。また、これらの工程間では常に様々な検査が行われ、歩留まりの向上が図られますが、この検査自体も半導体製造の中で重要な技術となります。

前工程での技術進歩の一つには「微細化」があります。有名な「ムーアの法則」によって半導体性能は18ヶ月で2倍になると予見されました。事実、半導体チップのサイズは技術進歩によって微細化が進み、高集積化、高機能化してきました。1971年にインテル[INTC]が開発した4ビットのマイクロプロセッサにはトランジスタが2,300個含まれていましたが、2024年3月のニュースでエヌビディアが2,080億個のトランジスタを搭載したGPU(画像描写時に必要となる計算処理を行う半導体チップ)をリリースしたとあります。この「前工程」では様々な技術が使われているため、要素技術に業務を担う会社が異なりますが、米国の大手企業アプライドマテリアルズ[AMAT]や欧州のASMLホールディング[ASML]等が大きなシェアを握っています。

このような「前工程」のあと、「後工程」では、ウェハ上の半導体チップを切り分け(ダイシング工程)、フレームに搭載し(ダイボンディング工程)、接続し(ワイヤボンディング工程)、そして最終的に樹脂で回路を封入する(モールド工程)作業が行われます。半導体パッケージングとも言われるこれらの「後工程」でも、様々な技術革新が起きているようです。IoT、生成AI、5Gの普及によって通信トラフィックが爆発的に増大する中、半導体デバイスの高速化、大容量化が必須となる一方、「前工程」での微細化には限界が到来するとの見方もあります。その際、パッケージ技術の高度化によってメモリチップを積層化するなど、情報伝達速度を上げるための取り組みがなされています。半導体の後工程技術においては、後工程の加工に使われる材料製造等では日本企業に優位性があり、期待されている分野です。

「産業のコメ」である半導体には、実に様々な技術が盛り込まれており、今回解説したように関連するビジネスも多岐にわたります。TSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー)の熊本第1工場を開所のニュースで更に注目を集めている半導体ビジネスですが、全体像を理解しておくことは重要だと考えています。




いいなと思ったら応援しよう!