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投資運用苦楽第438回  < 2024年11月ニューヨーク出張報告「Public to Private」 >

今回のニューヨーク出張では、米国における大手機関投資家やファミリーオフィスの担当者との面談を多く持つことができました。彼らに対して、日本のベンチャーキャピタルやスタートアップ企業の発展状況や近況について、国内大手のベンチャーキャピタルの皆様と一緒にアップデートを行い、最終的には海外投資家に日本への投資を増やしてもらうことが目的です。ちょうど、大統領選挙の翌週ということもあり、第二次トランプ政権を踏まえて、米国投資家も今後の投資方針を練っている最中、興味深いディスカッションが出来ました。

まず、米中関係の悪化、中国経済の地盤沈下については当面継続することが議論の前提となっていました。これまで相応の規模で中国を中心としたアジア地域へ投資してきた米国投資家は、ここ数年で中国への新規投資を縮小してきました。さらに大統領選挙を経て、投資の凍結のみならず、既存投資についても資金回収、撤退を検討しているように見受けられました。一方、アジア圏での投資先として、日本の相対的な地位が上昇してきたところ、日本におけるより具体的な投資案件についてリサーチを強化している様子も見て取れました。今年に入り若干上昇することになりましたが、米国との比較では引き続き極めて低い日本の金利を背景に、レバレッジをかけることのできる不動産投資やバイアウトファンドへの投資が人気の投資対象になります。しかし、今回の私たちの出張のテーマであるベンチャーキャピタルやスタートアップ企業への投資についても、これまでにない米国投資家の興味を見ることが出来ました。

かたや、米国のベンチャーキャピタルのファンド募集状況は2022年前半をピークにこの2年間は減少を続けており、ファンドの募集金額は2023年、2024年の2年間、約30%ずつ前年を下回る金額となったとの話を聞きました。これは、コロナ禍後期に電気自動車、SaaSビジネスやAI関連に巨額の資金が流れ込んだ結果、過大な評価額で調達を行ったベンチャー企業のExitが停滞していることも一因のようです。米国有数の大手ベンチャーキャピタルのアンドリューセン・ホロビッツ(a16z)の担当者の話を聞く機会がありましたが、状況としては前回の金融危機後の2009年に状況としては似ているとのことでした。その当時も新規資金のベンチャーへの投資が滞ったものの、一方で第二次ITブームとSaaSビジネスの進展が見られ、結果的に絶好の投資のタイミングとなりました。2024年下旬現在、生成AIの分野でのビジネスが育ち始めており、投資資金がもたついている今は、振り返ってみれば絶好の投資のタイミングだったとなるのではないか、という話でした。

2024年はその前数年に比べて、投資家やベンチャーキャピタルにとって上場やM&A等の資金回収の機会、金額が減少しているものの、非上場株式市場における投資機会は過去に比べて大きく成長しています。今回の米国出張においてあらためて感じたことは、資本市場における「Public to Private(公開市場から未公開市場)」というパラダイムシフトがより鮮明になっているということです。米国の上場企業数は過去25年で半分に減少する一方、時価総額は大きく上昇しました。減少した上場企業の中にはファンドによる買収を経て非上場化した企業も少なくありません。また、ベンチャー企業の中でも、スペースXに代表されるような超大型未上場企業も存在します。この10-20年で資本市場における非上場企業時価総額に大きな変化が起きていることが分かります。

日本においても徐々に同様の流れが明確になってきたように思います。コーポレートガバナンスの浸透や、国内外機関投資家からの資金的な圧力もあり、上場企業の中にはMBO等による非上場化を選択肢とするところが増えています。また、スタートアップ企業へのグロース資金の流入が増加していることから、大規模スタートアップ企業の候補が増加しています。投資家の資産運用を請け負う資産運用会社としても、これまでの流動性の高い上場株式や国債運用だけでは資本市場の一部だけをカバーすることになってしまい、資産配分としては不十分な時代になってきたと言えます。私たちもこのような時代の変化を踏まえて、投資戦略の開発や運用に取組んでいきたいと思います。





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