一時帰国中に起きたふしぎな出会い
祖父の一周忌に参列するため、一時帰国しています。
まずは、帰国して一番はじめにすること=美容院へ。かれこれ10年近く切ってもらっているので、他の人は考えられないと常々思っているのだけど、今回まさかの担当の方が産休中。一瞬パニックに陥ったけれど、その美容院で前からよく話す美容師さんに代わりに切ってもらって事なきを得ました。私の髪の遍歴も見てきているし、何より話していて気が合うのでとても楽しかった〜。
その後は、すぐ近くにある代官山蔦屋書店へ。東京にいるときはよく通ってたな〜。料理本の品揃えが素晴らしいので、3時間くらいあれこれ見てたくさん買い込んでしまった。
それから、神楽坂へ。先輩が二度目の結婚をされたので、奥様と初対面。うまくいってるようでよかったよかった。あっという間に時間がたって、終電の時間に。私はそこから家に帰らず、六本木で飲んでいる友人のところへ。
友人と、友人の後輩、友人の元カノと一緒に楽しく飲んでいると、一人で飲みに来ていたインド系の男性が話しかけてきた。英語やフランス語はもちろんのこと、日本語がとっても堪能で、これは只者じゃないな…と思っていたら、やっぱり只者じゃなくて元GSの投資家でした。慶応で客員教授もしてるそう。名前はAさん。
ポンポンと合いの手を打つ私たちを「東京で、こんなにクレイジーな四人組に初めて会った!」ととても面白がってくれて、ビジネスの話や趣味のことなど、英語と日本語まじりで、たくさん話をした。気が付くとお店が閉まる時間の4時。でも私は始発まだだし、お店の人もいいと言ってくれたので(Aさんが常連なので)居座ることに。
友人と友人の元カノは先に帰って(あれあれ〜?w)、友人の後輩とAさんと私で延長戦。Aさんは、人を分析するのがすごく好きで、私たちを傍から見ていて感じた印象なんかを話してくれた。みんなの印象、けっこう当たっていて(性格とかではなくて、もっと本質的な何を求めているかみたいな話)すごく面白かった。私はAさんから見えない位置にいたから、分からなかったみたい。けどAさんの経歴や肩書に気後れしない私を気に入ってくれた。
私と話してからの印象はホントにベタ褒めで、「あなたは、頭の回転がとても速くて賢い。話も面白い。鳥のようにたくさん話すけど、何かを隠している。でもそれが何かわからない…」それから、「自分に自信がない」とも。
私も、そのすべてにとても心当たりがあって、「自分でも自分が何を隠したいのか、恐れているのかわからない」と言った。その頃には後輩も帰って、私とAさん二人でペリエを飲んでいた。Aさんは、どうしても私の隠している何かを探りたかったみたいで、何がしたいの?何を求めているの?と、クリティカルな質問を繰り返した。
私は、遊んで暮らしたいとか、楽しいことだけして生きたいとか、そんなことを話した。ふとAさんが「あなたは本当に面白いね」と言ったので、「日本人女性の中では、でしょ?」と返した。「私は特別じゃない」と。そこで、Aさんも私もピンと来た。
「私は、私が特別な人間だと思うのがこわいんだ」ということに。
大げさな話だけど、この十年、就職が決まってからずっとモヤモヤしていた。悩んでいた。自分の仕事選びが間違っていることはわかっていたし、自分らしくない選択をしたことにも気がついていた。けれど、自分ではどうすることもできなくて、勇気がでなくて、軌道修正ができずにここまで来ていた。
私はモヤモヤの十年の間に、それまで持っていた根拠のない自信をすっかり失っていた。嫌いな勉強をするみたいに、頑張っても頑張っても、達成感や興味が湧かなくて、気力も体力もジリジリ削っていくような生活をしていた。
海外に暮らしてからは、少しマシになったけれど、自信を喪失している状態で何かをするのは本当につらい。うまくいって褒められても素直に喜べないし、失敗するのがこわくて挑戦できなかった。こわいのを払拭するために情報収集をすると、自分でどんどんハードルを上げてしまうことになって、ますますこわくなった。
だから、私はいつの間にか自分の本心を隠していた。いつもあんなにクリアーに、心のままに生きていたのに。「私ならできる」「私は恵まれている」「私は特別」って、あんなに無邪気に信じていたのに。
Aさんに会ってそのことを思い出して、目の前の霧が晴れるような気持ちだった。私は少し涙ぐんだ。するとAさんは、私にこんなことを言った。
「今から、本当に率直なことを言うね。聞く準備はできてる?いい?あのね、あなたは、まず体重を落とす必要がある。運動をして、体重を落とせばきっと失った自信を取り戻せる」と。彼は私の体重も言い当てた。10キロくらい落とした方がいいと言われた。
え?と思うかもしれないけど、私は「この人は本当に私のことをよく見ていて、わかってくれているな」と思った。実際、海外に住んでから怠惰やストレスで10キロ近く太った。自分でも、やばいレベルまで太ってしまっていることに気がついていた。だからライプチヒに引っ越してから、ちょこっとランニングをしたり、ごはんをヘルシーにしていたんだけど、ベルリンで友人に会ったり、日本に帰国したせいで小休止していた。
20代のときにも何度かダイエットをしたことがある。そのたびに5〜6キロ落として、服のサイズが1つも2つも下がったことがある。確かに痩せているときは、自信がみなぎっていた。私にいま必要なのは、それだ。バカみたいだけど、人間ってけっこう単純で、なんでもないことが自信につながったりするんだ。
Aさんとは連絡先を交換して、それで別れた。この夜のふしぎな出会いに、十年間のモヤモヤが晴れたことに、私はとても興奮していた。世界が、まるで変わってみえた。眠くて、疲れていた。けれど、頭はどこか冴えていて、ずっと頭の中で彼と話したことを反芻していた。私は、これからの人生にワクワクしながら始発電車に乗った。