ダム事前放流しやすく、発電や水道、業者の損失補う、新制度、国交省が20年度に、貯水力高め氾濫防止


2020/01/14 日本経済新聞 朝刊 26ページ 1053文字
 水害が多発するなか、国土交通省は2020年度中に、台風や豪雨の前にダムの水位を下げておく「事前放流」をしやすくする新制度を始める。放流後に発電や水道などに必要な水量を確保できなくなった場合、それに伴う利水権者の損失を補償する。事前放流を効果的に行い、既存ダムの貯水力を高めて下流の河川の氾濫や堤防の決壊を防ぐのが狙いという。
 事前放流は台風や豪雨によってダムの下流で洪水の危険が予想された際、本来なら発電や水道などで使う水の容量の一部を放流し、事前に水位を下げる操作をいう。18年夏の西日本豪雨では愛媛県のダムで「緊急放流」が行われた後に下流で犠牲者が出た教訓から、効果的な事前放流を求める声が上がっていた。
 関東や東北に大きな被害をもたらした19年10月の台風19号でも、5県6カ所のダムで貯水量が限界に近づき、緊急放流を余儀なくされた。
 河川の増水時に緊急放流すると氾濫につながる恐れがあるが、6カ所のダムのうち、水沼ダム(茨城県北茨城市)や城山ダム(相模原市)など4カ所は事前放流をしていなかった。
 背景には事前放流後に水量が不足することへの懸念がある。事前放流の実施にはダムの建設費の一部を負担した電力会社や水道事業者など利水権者の合意が必要となる。事前放流後、ダムに流れ込む水量が想定より少なければ、発電や農業、生活用水に使う水を確保できなくなる。このため利水権者の合意が得られなかったり調整に時間がかかったりするという。
 国交省は、事前放流への合意を得やすくするため、事前放流後に利水権者に損失が出た場合、金銭で補償する新制度を創設する。補償対象の放流量や金額の上限などは今後検討し、20年夏ごろに運用を始める方針だ。
 一方、ダムに設置されている放流ゲートが上の方にあるダムは、放流ゲートの位置を下げないと多くの量を放流できない。ダムの建設当時は技術的な制約があり、放流ゲートを下の方に設けることが難しかった側面があるとみられる。
 構造上、事前放流をしにくいダムについては改修費を補助する制度を創設する。電力会社や自治体との事前放流に関する協定も締結し、実施する条件やタイミング、放流量なども個別に決めておくという。
 国交省によると、国内で稼働しているダムは1460カ所あり、貯水容量は約180億トン。ただ発電や農業のための貯水が多く、洪水を防ぐために空けておくなど治水に使える容量は約3割にとどまる。国交省は事前放流をしやすくすることで貯水ダムも有効活用し、治水機能を強化したいとしている。

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