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深夜にスライム作りを始めた結果、重曹と目薬を混ぜ始めた話
深夜11:00。
ひとり暮らしを始め、過去を懐古することが多くなっていた私はふと思う。
スライム…作りてぇなぁ……
かつて私が小・中学生の頃、絶世のスライムブームであり、放課後に集まっては友人とスライムを作りあっていた。
そうだ、作ろう。スライムを。
ひとり暮らしの良いところは"自由"という点にある。自宅で作れば「こんなもん作ってどうするの!」と母の怒号が聞こえてきたものだが、ここではそのような声は聞こえない。せいぜい聞こえるとしても隣人の鼻歌くらいである。
…とまぁ、そうと決まれば作るしかない。
目下テーブルの前にはドラッグストアで食料品と共に買った洗濯糊がある。
しかし私はしばらくの間スライムというものを作っていない、作る機会がそもそもないのだが。
たしか昔友人と作った時は何か洗濯洗剤のようなものを用いた記憶がある。
その僅かな記憶を頼りに私は自宅の洗濯洗剤。ア○エールジェルに手を伸ばす。
よく分からないがこれと洗濯糊を混ぜれば完成するはず、そしてスライムを作り私は満足感と共に就寝するのだ。
……。
…………。
………………??
出来ない
出来ないのである。
驚くべきことに全く出来ない。
スライムができる直前の粘り気すらも出てくる様子が無い。おかしい、こんなはずでは無い。
私は明日も朝から講義があるのだ。こんなスライム作りに手こずっている場合では無い!
その焦燥感と共に私はア○エールジェルを追加し、洗濯糊をかき混ぜる。
混ざらない
ただただ、良い香りが部屋に充満しているだけだ。
いい匂いがしすぎて頭がクラクラする。
洗濯洗剤とは素敵なものだ。
もうなんか絶望がすごい、寝てしまおうか。
このままこのスライムのなり損ない…いや、スライムと形容する事すらおこがましい"良い香りの洗濯糊"を冷蔵庫に入れて寝るのは私のプライドが許さない。
なにか使えるものは無いだろうか。
周囲を見渡す。
私の目に入ったのは重曹だ。
元よりスライム作りに必要なのはホウ砂水と言われている。(私はホウ砂が何かすらよく分かっていない)
……ホウ砂と重曹ってなんか似てない?
ごめん。本当に分からない。
ホウ砂の使用用途も重曹の使用用途もよく分からない。本当に生活力が皆無なのだ。
ここまで来たらもう戻れない。
作るしか無い。スライムを。
とりあえず混ぜるな危険、的なものだと困るので「スライム 重曹」で検索をかける。
アホの検索履歴である。私の死後、検索履歴を知人や家族に見られるのが本当に怖い。
大抵の検索履歴はアホ丸出しである。
とまぁ、そんな事はどうでも良い、1番上にでてきたページをすかさずに見る。
…ふむ。なるほど。重曹と目薬を混ぜればどうやらスライムが出来るようである。
重曹と目薬??
何を言っているのだろう。
重曹と目薬???全く意味が分からない。
いや、幸いにも、家には目薬がある。
私は目薬をさすのが絶望的に下手なためほとんど使用しておらず、新品同様だ。
目薬もまさかこんな使われ方をするとは思わないだろう。
まぁ、ここまで来たらやるしか無いのだ。
おそらく混ぜるな危険に相当しないであろうことも理解はできた。
それならばやる。それだけだ。
覚悟を決めて重曹をいれる。
量が分からない、なんか、すごい、白い粉だ。謎にシュワシュワしている。気分は科学者。
「こんな物質の名前が何も分からない科学者がいてたまるか」と内心ツッコミを入れながらも気分は完全に小学生である。
今日の目的をスライム作りでなく、小学生のワクワクを取り戻すことであれば目的はもう達成された。このまま寝てもいい気がする。全く良い訳は無いのだが。
重曹を入れても以前変わりはなく(ちょっとシュワシュワしてる、入れすぎてそこはジョリジョリしてる)、安定で謎の液体である。残された希望を目薬に託し、数滴垂らす。
……
…………うん?
すごい、なんか変化が現れた
私が歴史に名を残す位の文豪であれば何かカッコイイ言葉を残せたのかもしれないが生憎そんな語彙力は持っていない。
とにかくすごい、なんか変化が現れた。
それに尽きる。
この勢いで私は目薬を垂らし続ける。
目薬への罪悪感はもちろんある。
今後は目薬を自分で正しくさせるようにYouTubeで勉強するから許してくれ…そう思いながら目薬を垂らす。
あっ!!すごい!!!スライムがまとまってきた!!!!!
混ぜ続けると容器から少しずつ離れてくるスライム。
すごい!!すごいぞ!!!!
すごいぞ!!!!先人の知恵!!!!!
一体どういった理由で重曹と目薬を混ぜたのだろう。天才的だ、としか言いようがない。
すごい!!!気分がとても高揚している!!!!!!
……
ある程度まとまった。
私は期待を胸にスライムに触る。
ねちょ
ん????????
ん????????????????
見た目とは裏腹にねちょ、と手に粘りつくスライム。
「スライムって元々はドロドロしたって意味だし…まぁこれが正しい形なのかもな…」
私の脳は即座に現実逃避を始める。つくづくお気楽な脳だ。
もう手は尽くした、これ以上できることは無い。
私は失意を胸に箱ティッシュに手を伸ばし手にまとわりついたスライムを拭き取る。
…切ない。人生とはこんなものなのだろうか。
深夜の孤独が相まってとても感傷的な気分が訪れる。
というか重曹混ざりきってないせいですごく手に重曹がつく。
なぁにこれ。
……もう寝よう。
そして、明日、なんとかしよう。
寝れば明日が来る。人生は続く。
同様にスライム作りも続くのだ。
とりあえずは手を洗おう。
人生も、何もかも、そこからだ。