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#144 野生のキツネを見た日

大根のような大きさのフサフサとした尻尾を振りながら、一目散に駆け抜けて行きました。素早い、まるで旋風。先日、学校の野球グランドの土手近くで、キツネを見ました。私は、生まれて初めて野生のキツネを見てちょっと興奮しながら、「やっぱりっ」と頭の中で小さな”旋風”が吹いたのを感じました。

土手の深い穴

 キツネと遭遇する2月前ほど前のある日、いつもの出勤する歩道近くの土手に、入り口の狭い深い横穴が二つ出来ていました。前日までなかったもので、一晩であっという間にできていました。二つの穴は中で繋がっているのかわかりませんが、なんとなくそんな気がします。入り口近くには、大量の土が遠くまで掻き出してあります。きっとすごい勢いで蹴り出したのでしょう。モグラの穴は実家の畑で何度も見た事があるので、この仕業はモグラではありません。

 「これはきっと、キツネ殿に違いない。」と一人私は、考え始めました。昔、イギリス貴族がキツネ狩りをする時、足の短い胴長の猟犬を使って、細長い穴から狐を追い出すと本で読んだのを思い出しました。穴を見つけてから毎日通勤途中、その進捗状況に期待したのですが、遊びで掘ったのか一向に進展する気配がありません。もしかすると、トンネル一号を掘って翌日たくさんの人間が歩く”メインストリート”と知り、住処(すみか)にするのを放棄したのかもしれません。

「きつねのはなし」

 私のお気に入り作家の一人,森見登美彦さんの作品には,「きつね」と「たぬき」が出てくる話があります.(注)インスタントラーメンの話ではありません(笑)。 森見さんのタヌキが出てくる作品は、どこか笑える要素が散りばめられています。一方、きつねは、「奇譚」「怖い話」と言う言葉が当てはまります。「きつねのはなし」は、時間と空間の”スキマ”を、うまく描いている気がしています。(私には書けません。頭の中に四人くらいの思考回路を同時に持っていないと、ああ言う見事な発想はできないと思います。天才ですね、彼は。)

足の長さは、敏捷さ?

 考えてみると、二つの動物(狸と狐)の俊敏さの違いは、胴体に対する足の長さの比率の違いが原因と考えられます。私が見たキツネは動きが素早く「抜け目なく」身を処しながら「スルスル」と駆け抜けて行きました。

 実は3年ほど前、やはりキツネを見た近くでタヌキを見た事があったのですが、タヌキは私と目があったら、しばらく「死んだまね」?なのか動きを止めて、それから隙を見てゆっくり逃げました。

「キツネ見たことある人?」

 キツネを見た次の日、私の授業を履修している学生さんたちに「昨晩、近くでキツネを初めて見たんだけれど、この中で見たことある人いますか?」と聞いて見たところ、5、6人が手を挙げてビックリしました。「えっ、こんなにいるんだ。」と思わず驚きました。20年以上あの道を通っていた自分がまだ一回なのに、学生さん達にはすぐにその姿を現すとは? なぜ? 最近、どこか別世界から来た?

もしかすると、、

 あれから通勤途中に、グランド横の奥深い穴の傍(そば)を通るたび森見さんの「きつねのはなし」が頭をよぎります。 ケモノがここにいるのか? なんか、怖くなります。 でも、もしかすると、有頂天家族のタヌキたちが叡山電車ではなくキツネに化けて自分を騙していたりするのでは、、、、、。 

 ただ言えることは、「面白きことは良きことなり!」 明日も、あの土手を通りながら、森見さんの「きつね」と「たぬき」が、旋風のように頭の中を一瞬よぎります。 ビューウッ。