#190 本「表紙」鑑賞のススメ
本の表紙(front page)、意外とお目にかからないのでは? 書棚に所蔵されているときには,背表紙(back cover)だけを皆様にさらしております.背表紙のタイトルを見て、「読みたい!」と思って手にして、初めて表紙をマジマジとみることの方が多いのではと推測します.本の表紙,”表”(Front)のはずなのに,実は背中だけ見せて並んでいるのがほとんどです.正しい並べ方は,表紙を見せて並べるのが理想?(とても広い本棚が必要なので実際には無理ですね.)
『東京會舘とわたし』 「上巻」 と 「下巻」 は, 「旧館」 と 「新館」 ”二つ” で ”一つ”。
『東京會舘とわたし』(辻村美月)は、お気に入りの小説の中の一つです。
実在する東京會舘の改築前の建物(旧館)と改築後の建物(新館)とで、それぞれ上と下に別れて2冊で一つのお話です。現在の東京會舘は、2回目の改装後なので、「新新館」とでもいうべきかもしれません(笑)。
この2冊を読み終えて、並べた表紙を見て初めて気づきました。二つ並べると、一つのシャンデリアが出来上がります。それが、このNote記事の写真です。このシャンデリア、作品中で繰り返し描写されているので2冊を読み終えた後には、すっかり自分の頭の中にイメージが出来上がっています。自分のイメージと、この表紙絵とはやはり少し違います。でもこれを作者が表紙に選んだ(正確には出版社?)ということは、この本のイメージはこのようなシャンデリアなんだと想像して自分のイメージの方を、少し本のシャンデリアよりに寄せます(笑)。
シャンデリアから魔法の力?
東京に出かける機会があった時、少し寄り道して現在の東京會舘を見に行きました。やはり豪華な建物で場違いな自分が入っていくのに気が引けましたが、幸い結婚式などのパーティが催されていなかったので、作品中の第一話の登場人物になったつもりで、建物内に入り見学をさせてもらいました。建物の外観、ファサードはさすが和モダンを感じさせる意匠で統一されていて、内部のドアノブや照明の造作と壁の絵などの内装もカッコ良かったです。消火器の収まりも妙に目立たず、しかしそこにいざという時に役に立つよう控えているというのがわかるデザインでした。エレベータでなく階段を上がっていくと、あのシャンデリアがありました。”オーゥツ!”思わず声が出ました。作品中の登場人物たちが眺めたあのシャンデリアが、今自分の目の前にある。自分があの作品いくつかの小作品の各物語に入り込んだ錯覚を一瞬感じた気がします(気の迷いです。笑)写真をとって、一人眺めていたらスタッフの方が、「写真お取りしましょうか」と優しく声をかけていただき、一枚お願いしました。あの中年の物腰柔な男性も、作品の中の支配人に見えてきます。(おーっ、東京會舘マジック。笑)
「本には不思議な力がある」と、何かで読んだ気がします。もしかして、『東京會舘とわたし』は、読み終えて2冊並べると「シャンデリア」が浮かび上がり、それに気づいた読み人は、魔法の力で東京會舘を訪れて現地でシャンデリアの”魔法の力”で作中の人物達と会ったり自分がその中を歩き回るようにできている、、、なーんてことは、あったり、なかったり? (そんなことを考えてみたりするのも、読書の楽しみの一つかも知れません。)
写真
東京會舘で撮影させていただいたお気に入りの写真たち
現存のシャンデリアは一基ですが、壁面ガラスに反射してあたかも二つが並んでいるように見えています。
車寄せ玄関から見上げた正面ファサードの様子。