子育てフリーランス歴10年。川口真目さんに聞く“子育てしながらちょうど良く働く”ためのヒント
子育てと仕事の両立は、みんなが普通にやっていることだから自分にもできるはず。
過去の私もそんなふうに思っていました。でも、いざ子育てする立場になってみたら、めちゃくちゃ大変…。時間にも心にも余裕がなくなってしまう日もあります。
そんなとき、選択肢として現れたのが「フリーランス」という働き方。会社員よりも融通が効きそうだけど、安定するには厳しそうだし、実際のところどうなのでしょうか…?
そこで今回は、『子育てしながらフリーランス』の著者であり、子育てフリーランスのコミュニティを主催しているイラストレーターの川口真目さんにインタビュー。
日本で働くお母さんの選択肢としては、まだまだ認知されていない「フリーランス」という働き方をどのようにして実現したのか、実際に子育てしながらフリーランスライフは楽しめるものなのか。詳しく話を聞きました。
イラストレーターを目指して会社員へ。「狭き門」の潜り方を探して
——フリーランスのイラストレーターになって現在(2023年)で13年目の川口さん。どのようにイラストレーターになられたんですか?
川口さん:
もともと、子どものころからずっとイラストレーターになりたいと思っていました。
めちゃくちゃ絵がうまいわけではなかったので、美大には進学しませんでしたが、大学生になってからも夢を諦められず、すでに活躍しているイラストレーターさんが、画力以外でどうやってイラストレーターになったのかを調べていました。その過程で知ったのは、美大を卒業して賞をとっても、イラストレーターになれる人は、ほんのひと握りであるということ。厳しい現実であることを知りました。
一方で、デザイン会社でグラフィックデザイナーとして働いたあとに、独立してイラストレーターになる…という道のりを辿る人が多いことにも気が付いたんです。「これだ!」と思い、先人たちに倣って、私も同じようにデザイン会社に就職しました。単純ですよね(笑)。
——いきなりイラストレーターになるのではなく、会社員になっているんですね。
川口さん:
はい。でも、会社員にはまったく向いていなくて、結局1年で3〜4回も転職をしました(笑)。
特に、最後に就職したデザイン会社はとてもいい会社で、同僚や先輩にも恵まれましたね。
イラストレーターになりたいことをまわりに伝えていたところ、「じゃあ、やってみる?」とイラストの仕事をまわしてくれたりして。先輩たちのほうが断然スキルもクオリティも高かったのですが、怒られながらもたくさん勉強させてもらいました。
ポンコツで、絵もうまくない。それでもフリーランスになるしかなかった
——そんな居心地のいい職場から離れて、独立を決意されたのはなぜですか?
川口さん:
入社したときから、社長には「イラストレーターとしていつかは独立したい」と伝えていました。でも、まわりの人に恵まれすぎて、その目標をすっかり忘れていたんですよ…!
でも、あるときに景気が悪くなって、先輩がリストラされたのを目の当たりにした際に、「そうだ、私はイラストレーターになる予定だったんだ!」と思い出して。そのタイミングで「私も辞めます」と伝えました。
会社ではポンコツキャラで、絵もうまくなかったので、まわりには相当心配されました。でも、描くことは人一倍好きで、みんなが面倒に感じる営業も全然苦ではなかったんです。
今となっては、そのあたりのマイペースさもフリーランス向きだったのかなと思います。
——川口さんには、フリーランスが合っていたんですね。
川口さん:
うーん、合っていたというか、フリーランスになるしかなかったんだと思います。私の場合は、本当に会社勤めが向いていなかったんです。朝起きれないし、満員電車もとても苦手。
あと、会社員だと急にリストラされることもあれば、転勤の辞令が出ることもありますよね。それもとても嫌だったんです。
私は「好きなところに住んで、好きな仕事をしたい」というのが第一にあったので、それならフリーランスになるしかないな、と腹を括りました。
フリーランスの「自由」には、「責任」と「孤独」がセット
——「フリーランス」と聞くと自由なイメージがあるのですが、実際ははどうなんでしょうか?
川口さん:
自由だと思います。ただ、「自由」という言葉はいい言葉に取られがちですが、そこには責任や孤独もついてきます。
自分ですべて責任をとって、孤独も乗り越えられる人であれば、自由を謳歌できる。でも、それができなければ、イメージする自由とはまた違うかもしれません。
私は多少の責任や孤独が伴ったとしても、自由でいたいんです。
ただ、子育てフリーランスは孤独になりがちですから、それをカバーするために子育てフリーランスのコミュニティを立ち上げたり、交流会に行ったりしています。自由のデメリットもカバーできれば、よりフリーランスの自由を楽しめるのかな、と思います。
——川口さんはよく「ゴロゴロしたくてフリーランスになった川口真目です」と言っていますが、正直なところ、子育てをしながらゴロゴロする時間はありますか?
川口さん:
ありますよ! 冗談ではなく、私はずっとゲームをしていますからね!
デザイン会社で働いているときも、修正の返事待ちのためだけに残業することがよくあったんですけど、そのときから、「え、待ってる時間にゲームしたらあかんの? 漫画読んだらあかんの?」って思っていて。実際に、漫画を読んでみたら先輩に怒られました(笑)。
でも、フリーランスだと、待ち時間や隙間時間に好きなことができるじゃないですか。休憩や食事をするのと同じように、私は大好きなゲームもしています。そういう時間があるから、また仕事も頑張れるんですよね。
——オンとオフはっきりしているんですね。
川口さん:
私の場合は、仕事もゲームもどちらも「オン」という感じです。どちらも同じくらい好きなので、区切りがないんですよ。土日に家族とゲームで遊んでいても、アイデアがひらめいたらすぐにスマホにメモしますし。
でも、自分のなかでオン・オフがないぶん、仕事を頑張ったら「ちゃんと休むこと」を心がけていますね。それができるのがフリーランスの醍醐味なので。
全部両立するのは絶対に無理。ときには明るく諦めよう
——フリーランスには有給も、自分の代わりに仕事してくれる人もいませんよね。「子供の都合で急遽休みを取らないといけなくなった…」となることに不安に感じる人も多いと多いと思います。
川口さん:
私は、そういう心配をされている方には、「明るく諦めてください」とお伝えしています。フリーランスだからこそ、「もうこの時期はしょうがない」と諦めるしかないし、仕事の量は調整できますから。
その点では、同僚や上司に申し訳ないと思いながらも、代わりに仕事をお願いせざるを得ない会社員のほうが大変に思えます。
——川口さんもお子さんが理由で、納期に間に合わなかったことはありますか?
川口さん:
もちろん、ありますよ!最近は私に「子育てフリーランス」というイメージがあるからか、子どもが風邪を引いたと伝えると「わかりました。調整しましょう」と言ってくださる会社さんが多いです。
とはいえ、スケジュールがギリギリで絶対に提出しないといけないときは、やるしかありません。そんなときは、子どもが起きている昼間の作業は諦めて、夜にがんばって仕事します。
たとえ遅くまで作業することになったとしても、提出してしまえば、翌日にはゆっくり寝たり、昼寝したりできます。それはフリーランスだからこそできることですよね。
——ちなみに、私自身、3歳と5歳の子どもを育てる親として、小1の壁*がとても不安です。川口さんはどのように乗り越えられましたか?
川口さん:
私はそれほど悩まなかったですね。
出社を伴う会社員の場合、お母さんたちにはいろいろ心配があると思うんですが、フリーランスは働く時間も場所も自由なので、あまり小1の壁は関係ないんですよね。いざとなったらすぐに迎えに行けますし、子どもの成長や気持ちに寄り添って仕事を調整しています。
——親がPTAの活動や宿題、習いごとをフォローしたりしなければいけない! というイメージがあるんですが…。
川口さん:
宿題やPTAに関して、悩みを抱えながら働いているお母さんは本当に多いですね。でも、宿題は学童やフリースクール、塾などに頼ればいいと思うんです。ここも、明るく諦めるポイントです。
すべて自分で完璧にやろうとがんばりすぎてしまうのは、無意識のうちに、「自分の母親を理想にしている」からではないでしょうか。
これは働き方に関わらずですが、自分の親の“母親像”にとらわれず、今の生活や環境にあった母親でいたいですね。
子育てフリーランスを始めるのに、ベストなタイミングは?
——お話を聞いていると、フリーランスの働き方は魅力的ですが、私はまだ会社員を辞める勇気が持てずにいて…。子育てフリーランスを始めるなら、タイミングはいつがベストですか?
川口さん:
本格的に働くなら、「6時間以上寝れるようになってから」がいいと思います。子どもが小さいうちは、なかなかまとまった睡眠時間が確保できませんし、産後の身体の変化も人それぞれです。
私が目指してきた「いい感じに働く」というのは、しっかり寝て、しっかり働くということ。毎日3〜4時間しか寝られない状態だと、まったくいい感じとは言えません。「6時間以上しっかり寝れているか」を基準に考えてみるのもひとつだと思います。
——なるほど。それは基準としてとてもわかりやすいですね。それでも正直、まだ不安は残りますが…。
川口さん:
うんうん、めっちゃわかります。私も「フリーランスになるべきか」「会社員に戻るべきか」と、よく聞かれるんですが、何事もやってみないとわからないので、一度やってみたらいいと思うんですよね。
会社員を辞めるかどうか悩むのであれば、会社員を続けてもいいですし、フリーランスから会社員に戻りたいと思ったら、戻ってみればいい。
まずはやってみて、違ったら戻ったり、別の方法を試してみたり。結局フリーランスになってからも、毎日が試行錯誤の繰り返しですから、みなさんにも変化を楽しんでほしいです。
「面倒くさい」は「やっていいよ」のサイン。子育てフリーランスになりたい人へ
——私のように、フリーランスになることに漠然とした不安を抱えている人は、何から始めたらいいでしょうか。
川口さん:
まず、ロールモデルにする人を3人見つけてください。
自分の理想の働き方を実現している人や、やりたい仕事をしている人を調べながら、「この人は環境が似ているな」「この働き方いいな」と分析していきます。
そして、その人たちがどうやってフリーランスになっていったかのヒントを集めながら、自分なりにフリーランスになるための地図を描いてみてください! まさに、私がイラストレーターになりたいと思ったとき、やったことと同じです(笑)。
——なるほど。スクールやセミナーなどで勉強するのはどうでしょうか?
川口さん:まずは、独学で始めてみるのがいいと思います。フリーランスはつねに自分で学んで実践の繰り返しですから。
ただ、もしお金をかけてスクールやセミナーに通うのであれば、「自分の理想の道に合っているか」はしっかり事前に確認してほしいです。
たとえば、イラストレーターになりたくてイラストのスクールに通うなら、「講師の人にきちんと実績があるのか」は要チェックです。
セミナー講師としては有名だけれど、その道で仕事の実績はない人だった…というパターンもあるので、そこはしっかり調べてほしいですね。
——ありがとうございます。最後に、フリーランスに興味を持っているお母さんたちに向けて、アドバイスをお願いします。
川口さん:何か新しいことをしようとするときや、変わろうとするとき、誰しもが「面倒くさいなぁ」と思いますよね。でも、それは、ある程度「やるべきこと」が明確に想像できているからだと思うんです。
面倒だからこそ、実際にやってみたら道が開けたり、「やって良かったな」と思えたり。乗り越えた先に、また新しいものが見えてくるはずです。
「面倒くさい」は「やっていいよ」のサインだと思って、どんどん挑戦してほしいなと思います。
・・・
今回、川口さんから具体的なアドバイスをたくさんいただいたことで、子育てフリーランスの働き方が明確になったような気がします。
さらに、子育てフリーランスのリアルが知りたい方は、ぜひ川口さんの著書『子育てしながらフリーランス』も読んでほしいなと思います。
本書では、川口さんがフリーランスになるために始めた自己分析方法や、実際にフリーランスとして働いている方々のリアルな子育て、仕事についても紹介されています。
フリーランスという働き方が気になり始めたお母さんたちの、第一歩としておすすめの一冊です!
また、川口さんが主催する『川口真目の【子育てフリーランス】のお茶会』は、育児をしながら“いい感じ”に働くための情報交換ができる場所です。子育てフリーランスの方をはじめ、「気になるからまずは話だけでも…」という方でも参加できるそうなので、ぜひチェックしてみてください。
〈取材・文=田口愛(@ai_kansas)/編集=いしかわゆき(@milkprincess17)〉