再びメルボルンでブランチの約束を
わたしには苦手なことがたくさんある。
電車の乗り換え、待ち合わせ、お釣りの計算…。
ただ日常を過ごしているだけなのに、「はぁ」とため息をつきたくなるような時がある。
中でも昔から苦手意識があるのは、早起きだ。
正確に言うと、ただ純粋に早い時間に起きるのが苦手というよりも、アラームをかけて起きることにものすごくストレスを感じてしまう。
だから大体目覚ましはセットしないのだけれど、そうすると遅刻するし、たまに怒られたりもするから早起きは嫌いだという結論になる。(あまりに嫌なので、自由出社の会社か、フリーランスとしてしか働いたことがない)
世の中で「朝活」という言葉が聞こえてきた時には、ああ、朝に好きな本を読んだり、のんびりストレッチをしてから働き始められたらどんなにすっきりと1日を始められるだろうと夢みたが、3日と続いたことはない。
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一昨年の冬、私はカフェの街として知られるオーストラリアのメルボルンへ片道チケットを片手に飛び立った。
苦手なことが多いくせに、そういえば旅に出る時は全く気にならない。
よく道に迷うが、旅先であればそこで助けてくれた見ず知らずの人の優しさに触れたり、電車を乗り過ごしても、素敵なお店を知るきっかけになると前向きになれる。
今までに一度も行ったことがないのに、ガイドブックを全く開かずにメルボルンに到着してしまった。
日本で25年間を過ごした当時のわたしは、身の回りが「知っている」「知られている」で埋め尽くされて身動きが取れない気分でいた。
だから、誰も知り合いがいない、よく知らない街へと向かったのだった。
でも、到着して間も無く「知りたい」と自然に思うようになったから不思議だ。
この土地の美味しいもの、綺麗な景色、新しく出会った人々のことをもっと知りたいと思った。
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「飲みに行こうよ」
お酒が好きな私はよく自分もそう声をかけるし、かけられる。
けれどメルボルンでは、それよりも多いくらいに「ブランチ行こうよ」と誘われた。
ブランチの定義は曖昧だ。
朝ごはんのような、昼ごはんのような。
食べる時間も、メニューも、朝と昼の中間くらい。
アボカドディップがたっぷり乗ったトーストや、エッグベネディクト、パンケーキなんかが定番で、それにエスプレッソベースのコーヒー「フラットホワイト」を合わせる。
ブランチの約束に向かう時、街の空気はどことなく清々しく、早起きが苦手な私でも“朝”を感じて足取りが軽くなった。
初めての約束でも、仲良くなった友達とも、同僚ともブランチをした。
ロンドンに初めて行った時、アフタヌーンティーを楽しむ文化を随分羨ましく感じたけれど、ブランチもそんな贅沢な時間な気がした。
普段何気なく見過ごしてしまう時間に名前をつけて、穏やかに時間を過ごす。
そういえば、オージー達はハッピーアワーも大好きだ。
早起きが苦手なのは、待ち合わせが苦手なのは、間に合わなければいけないと焦ってしまうからだ。
モーニングに間に合わなければ、ブランチを楽しめばいい。約束より早く着いてしまったら、ハッピーアワーを楽しめばいい。
普段見過ごしていた時間を「ラッキー」と、楽しむ人たちを見て、スッと心が軽くなった。
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ロックダウン中のメルボルン。
それでも友人達のSNSには、家で淹れたであろう温かなコーヒーの写真があがっている。
そのコーヒーを片手に、きっと大切な人と時間を過ごしているのではないかと想像する。
再び旅ができるようになった時には、わたしは大切な人と一緒にメルボルンにブランチを食べに行きたい。
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