日本のものづくり経営を進化させる。i-GARAGE HUBが生むブレイクスルーの裏側を産総研が語る
福井大学と産総研がタッグを組み、地域企業とイノベーション対話を重ねながら事業開発への貢献を目指す「i-GARAGE HUB」。
産総研デザインスクールnoteでは、これまで参加企業や学生にその魅力をお聞きし(記事)、また発起人となった福井大学の米沢晋さん、勝木一雄さんにプロジェクトの狙いや大学の役割を語っていただきました(記事)。
第三回目となる最終回では、「デザイン・シンキング」や「ものづくりのトランスフォーメーション」を軸にi-GARAGE HUBをサポートする産業技術総合研究所メンバーへのインタビュー。
小島一浩(産総研デザインスクール事務局長/人間拡張研究センター主任研究員)、牛島洋史(北陸デジタルものづくりセンター所長代理/人間拡張研究センター副研究センター長)、村井健介(関西センター産学官連携推進室)にブレイクスルーの裏側を聞きます(役職は取材2024年3月時点)。
産業の支援者たちが、絡み合いながら創設につながったi-GARAGE HUB
ーー さっそくですが、みなさんがi-GARAGE HUBの創設や運営に関わられた背景を教えてください。
小島:
この悪巧みの発端は、牛島さんと米沢先生ですね(笑)。
牛島:
発起人である福井大学の米沢先生が、以前から産総研デザインスクールに興味を持たれていたんです。デザインスクールは、未来の社会をつくる「共創型リーダー」を育成する教育プログラム。そのショート版を大学でやってほしいというお話でした。
それでデザインスクール設立者の小島さんが来られることになって、福井大学も「どうせなら学生と地元企業をつなげるプラットフォームを作りましょう」と。それで米沢先生がi-GARAGEという住民共創型のプラットフォーム構想を考案されました。
小島:
i-GARAGE構想には「HUB(イノベーション対話によるアイデアソン)」と「BASE(プロトタイピング)」の二本柱があるのですが、まずは予算をかけず身軽にできるHUBから始めています。
ところで、i-GARAGE HUBと産総研は別の角度からもご縁があるんですよ。
産総研はもともと、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)や福井県と連携して県内企業を支援する三者協定を結んでいます。
その拠点となる「産総研福井サイト」が福井県工業技術センター内にあって、当時そのセンターの所長だったのが、i-GARAGE HUBのもうひとりの発起人、福井大学の勝木先生でした。
村井:
そして、その福井サイトと関西センターがある大阪を行き来していたのが僕です(笑)。
牛島さんの取り組みと平行して、コロナ前から福井大学とはオンラインで議論をしていました。僕はデザインスクールの三期生でもあって、自分が学んだことを福井に還元するかたちでi-GARAGE HUBに関わることになったわけです。
ーー みなさん色々なルートから絡み合うべくして同じ場所に辿り着いたんですね。
自分の「好き」「欲しい」と向き合うことで、新しいビジョンが拓ける
ーー これまでi-GARAGE HUBに参画されて、印象的だったことはありますか?
小島:
2021年に参加された企業は「短期的に売れる次の商材を作りたい」って話だったんですけど、学生との対話の中で「自分が本当にやりたいのは、家族を大切にする商品」だと辿り着きました。
じつはその経営者の方は、先代、先々代からも「お前は何がやりたいんだ」と言われていたそうです。そういう「経営者のマインドを変える」という狙いがうまく実現できました。
マーケット・ドリブンで考えることも大切だけど、学生を触媒にすることでビジョン・ドリブンの商品開発・サービス開発へとつながっていくモデルですね。
牛島:
2022年に始まった松文産業のプロジェクトでは、はじめ学生もコンサバに「マスクを作りたい」と言っていたけど、「それ本当に欲しいものか?」となってきて、だんだん赤裸々に自分の好きな「サウナ」と言い始めたあたりから雰囲気が変わってきました。
小島:
しかも松文産業さんは会社の枠を超えて、視点が高くなったのも嬉しかったですね。地域で潤いましょうよ、一緒に文化を作っていきましょうよって。
経産省が言っているデザイン経営の中で「経営者が何をしたいのかを発見する」ということがあるんですけど、その出発点を体現された事例です。
まわりも応援したくなりますよね。こういう動きが地方で広がっていくといいなと思います。
村井:
企業って小さいうちは自分たちで何でもやりますけど、組織が大きくなるにつれて外注も増えて、逆に「自社ではここまでしかやりません」と限定的な発想になってしまう。それがいま弊害を生んでいます。
あらためて、自分のテリトリー以外にもちゃんと目を配らせていくことが求められる時代になっています。その意味で、今回は材料系の研究室と経営系の研究室の学生がi-GARAGE HUBに参加してくれたのが大きいですね。
福井県は日本のものづくりを進化させるためのベストな実験場
牛島:
福井県内の企業は、ほとんどが中小企業か零細企業です。大企業が手を出せないニッチな商品でも、中小企業にとっては年商1億円あれば万々歳。だから最大公約数のものづくりではなく、ドンピシャを狙う発想がマッチしています。
誰か一人をターゲットにすれば、より詳しいペルソナがわかるし、似たような人が1000人いれば1000万円、1億円のものづくりは成立する。
日本のものづくりを活性化してトランスフォームしていくための実験場として、東京・大阪は規模が大きすぎますが、福井は企業規模も人口規模もちょうどいいサイズ感でした。
ーー 産業支援を通じた地域活性のあり方として、規模感以外にもポイントはありますか?
牛島:
以前読んだ本で、地域イノベーションには地域外の常識がわかる「よそ者」、既成概念に縛られない「若者」、場の空気を読まない「馬鹿者」の3要素が必要という話がありました。
それでいうと産総研は「よそ者」「馬鹿者」で、「若者」である学生をうまく取り込んでいくことがすごく大切なんですよ。
とはいえ、僕らはあくまで素材の一部で、それを料理する主役は地元の人です。素材を上手く使ってもらえるよう、デザインスクールの学びにふれた若者たちが頭の固い大人たちをうまく触発してくれるといいよね。
村井:
同じメンバーで議論しているとなかなか動かないことでも、この3者がきっかけでブレイクスルーが起きる、というモデルが今回はうまく働きました。
また立場が全く違うから、対話の中でぽろっと出てくる悩みにも「そこは僕たちが解決できるよ」「そこは私たちができる」とお互いにやれることもあります。
大企業ではないからこそフットワーク軽くできる部分もあって、その積み重ねで固定概念をぱっと打破できる環境がありました。
小島:
i-GARAGE HUBがあるおかげで、我々も一緒に探究させてもらえてる部分もありますよね。場づくりは大変だけど、それ自体もまた研究として面白い。地方で共創をもとにした地域産業は今後広がっていくと信じているし、広がってほしいですよね。
これからは、社会とつながった志やアイデアを自己表現できる技術者が必要
ーー i-GARAGE HUBでは科学技術を軸にイノベーション対話を重ねていますが、今後参加する学生たちに伝えたいことはありますか?
小島:
僕個人としては、志、ビジョンを持ってほしいですね。工学部の学生は言われた仕事をするパターンが多いですが、ただ論文を書いて有名になるだけではなく「社会とつながった志」を見つけてもらえたらと期待しています。
これまでプロのエンジニアは「歯車」としての性能を求められていました。大企業だとそういう人も大切ですが、これから社会を変えていく人が自分の研究に志を重ねあわせることで、地方が活性化していくんじゃないかなと思ってます。
牛島:
自分がものづくりに取り組む中で「誰が欲しくて、誰の役に立つの? 自分で買う?」って考えたとき、究極のものづくりって自己表現だと思うんですよ。
技術という日本語は英語でテクノロジーと訳されるのが一般的だけど、アートという言い方もある。芸術や音楽をやってる人たちと研究者は、表現するツールこそ違えど、自己表現する人として共通だと考えています。
村井:
言われたことをこなすだけじゃなく、自分のアイデアを加えてもっと良くする味付けを入れていけるのが、デザイン思考の醍醐味ですよね。
アイデアだけあっても具現化しないけど、技術を学んでいるからこそ入れられる味付けがある。学生のみなさんには、ぜひその意識を持ってほしいです。
と同時に、ほかの人と交わらないと聞けない話、出会えない考え方もあるので、i-GARAGE HUBのようなコミュニティをぜひ活用してみてください。
〜おまけ・取材中の一コマより〜
(インタビュアー:山崎 瑠美)
▼ i-GARAGE HUBインタビューシリーズ
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