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リンゴのお酒『son of the smith』/雑誌ソトコトで書くということ。
最新号の雑誌『ソトコト』7月号で、リンゴのお酒『son of the smith』を作るリンゴ農家に取材をしました。(特集6ページ)
ソトコトの仕事ではいつもできるだけ取材先の人に関係するものを買ってきて、原稿書きに煮詰まった時に食べる、飲む。そして、どんなにちびちびと食べても飲んでも、書き終わる前に食べ終わってしまう。
今回は当然、リンゴのハードサイダー『son of the smith』を手に入れました。やんちゃな華やかさがありながら軽やかで、後味は上品にスルリと逃げていく。ああ、これは飲みやすい。
上善如水。書く文章もそういうものを目指したい。一読してすべてがわかり、それでいて何度繰り返し読んでも新たな発見があり、後味にキレがあるような。※ぼくの『son of the smith』もインスタグラムのstoryのごとく、気が付いたらキレよく消えていました。
『son of the smith』について書くとき、書きたいと思ったのは「息子」ということと、彼らの「キャラクター」でした。
とにかく好奇心のまま行動し、計算が無い。まず、どうやったら売れるのか、バズるのか?といったことを考えていない強さがあります。
それがなぜ強いのかというと、興味の対象に100%の力が注がれているから。周辺のことに脇見せず、まっすぐ前を向いている人は、当たり前だけど強いのだ、ということに勇気をもらいます。
むやみに背伸びすることで耐震補強を怠り、始まって数年は一歩頭抜きんでたとしても、やがてもろくも崩れ去る。そうならないためには、「面白そうじゃん!」の対象をど真ん中に据える必要があります。
とはいえ、『son of the smith』は生真面目で面白みがない、ということではありません。ちょっとこれは書けないね(といっても笑い話ですが)、というストーリーもたくさんあって、発端は無邪気な冒険心でありながら、それがやがて清濁併せ吞む大人の深みになるのだなと感じ入りました。裾野は広いほど山は高くなるのです。
いくらでも別パターンを書けるな、と思った今回の取材原稿でしたが、文中、締めの『son of the smith』は、ダブルミーニングにしてみました。父を通じて、日本中の息子たちも娘たちも先祖にも思いを馳せる6月(父の日の準備はお済みですか?)。どうぞお手に取ってみてください。父の日に『son of the smith』もアリですね。
ソトコトは、夏目漱石との対決である。
さて、そのソトコトは、制作段階において、レイアウトのアタリ文章が夏目漱石の「吾輩は猫である」になっています。※‟アタリ”とはここでは、本番データが入る前のダミー文章のことです。
つまり、ソトコトの仕事とは、漱石の文章を各ライターが自分の文章で上書きする、という仕事なのです。なんと恐れ多い。
※漱石は現代の言文一致を実際に機能させた文人で、それまでの書き言葉を話し言葉のように更新しました。今では当たり前のことですが、この当たり前が無ければ、現代の書物はすべてまったく違うものだったでしょう。
ソトコトがいつからそうなのかはわからないけれど、一番最初にアタリの文章を夏目漱石にした人はすごい。編集者にとってもライターにとってもこんな高いハードルは無いし、そのハードルを毎回超えていかなければいけないのだから。毎度、奮起。挑戦です。
余談ですが、あまり酒の強くなかったという漱石は、臨終の間際、医者のはからいで最後に口にしたのは、ひとさじのブドウ酒だったそうです。
いつか、リンゴのお酒にもそんなストーリーが加わる日も来るでしょうか。
(小澤さん、宮嶋さん、池内さん、ありがとうございました。次回はぜひBBQで!)
■発起人として、がんばってます。中学生と取り組む、「問い」を起点に地域を発信するプロジェクト『房総すごい人図鑑』