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6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)から学ぶ山歩き 中編

こんにちは!一人ハイカー、一人ワンダーフォーゲル部のaishiです。
今回も安田夏菜 (著)の小説
「6days 遭難者たち」のご紹介とこの作品を教科書にして自分ならどう行動するか?をライトハイカー目線で解説していく中編です。

前編はこちらからどうぞ。


p72 坂本 未玖視点 1日目
「さあ、もう休憩終わり。さっさと山頂に戻って下山するよ」
「えー?」
亜里沙がまた甲高い声を上げた。
「温泉は?」
「もう、無理じゃね? だって今、かなりタイムロスしちゃったもん。ここから登り返して、山頂に戻って、そこからまた八百メートルの標高差を下るんだよ。最終のロープウェイは五時半だからまにあうけど、温泉に寄るには時間がなさすぎ」
「和栗のソフトクリームがー」
由真もんも、心底がっかりしたように大きな体をすぼめている。
「しかたないよね。美玖ちゃんの言うとおりにする」亜里沙が悲しげに言って、がりがりと塩飴を噛んだ。
休憩して少し疲れもとれ、わたしたちは再び立ちあがると、来た道を戻り始めた。
来た「道」といっても、道らしき道を来たわけではないから、記憶を頼りに雑木林の中を引き返しているだけだ。
けれど、かなり登り返しても「ああ、ここだった」という地点が見つからない。

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説
登り返して戻る判断をした美玖は偉いですね。
ただ大分闇雲に降りてきてしまいましたからここから登り返すのはかなり大変です。山に入る人はおわかりでしょうが、山ではちょっとした事で道を見失ったり、歩いて来た進行方向から見る景色と振り返った景色ではかなり見え方が違う事があります。なので慣れた方は定期的に迷いやすいところでは振り返って見える景色を目に焼き付けるという事をやります。
登山道のある道ですら見え方が違って道迷いする事があるんですから、登山道と現在地を見失ってから戻り返すのはかなり大変なのです。

p74 坂本 未玖視点 1日目
ぶいぶいと小さな羽虫が顔にまとわりついてきて、うっとうしい。手で払いのけながら、上へ上へと登っていく。けれど坂道はだんだん平らになり、やがて下り坂になった。
おかしい。わたしたちは頂上からここまで、ずうっと下ってきたんだ。来た道を引き返せば、ひたすら登り坂のはずだ。
「待って・・・・、ねぇ、待って。美玖ちゃん、ペース速すぎ」後ろから、亜里沙の苦しそうな声する。
「あ、悪い」
振りかえって立ち止まる。
正しいルートを見つけなければと、無意識に早足になっていた。つまり無意識に焦っている。
落ち着け、落ち着くんだ、わたし!
深呼吸して立ち止まる。
「この道、またまちがえてない?」
のんきな声で由真もんが言い、亜里沙は不安そうにこちらを見ている。
「んー」
言葉に詰まる。そのとおりだ。というより、完全に道に迷っているというのが、正解なんじゃないの?

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 中低山や裾野の広い山は闇雲に歩き回ると目印を見失い、尾根を超えて他の尾根や他の山に迷い込んでよりドツボにハマる場合も多いですね。
焦って歩き回るとそれだけ体力を消耗したりパーティーが分裂してお互いを見失ってより困難な遭難になる事もあるので闇雲に歩き回るのは控えたいところですね。

p75 坂本 未玖視点 1日目
道に迷ったときは.......道に迷ったときは…..。
そうだ、まずは自分が今いる場所を特定することだ。折る思いで、スマホをポケットから出してアンテナを確認したけれど、やはり一本も立っていない。地図アプリさえ使えれば、一瞬で現在地がわかったはずなのに。
登山部の勉強会を、必死に思いだそうとする。退部を決意したあの日、部長が黒板に図を描きながら、スマホなしで、現在地を特定する方法を説明してたっけ。
たしか、コンパス・・・・・方位盛石を体の前に持ってきて、はっきりわかる頂上とか、尾想とかに矢印を合わせて・・・・。それから、度数線の数値がどうたらこうたらで、磁線を引いた地図をな
んたらかんたらで・・・・。
ああっ、忘れた。だいたい、わたしはこの勉強がいやで登山部をやめたんだ。
もしその方法がわかったとしても、紙の地図もない。コンパスだってない。
つまり今いる場所を特定する方法はひとっつもない、ということだ。
ドクンドクン、と心臓が強く打ち始めた。おき疲れたからじゃない。脳内にアラーム音が鳴り聞いていて、それに、心臓の筋肉が反応している感じだ。
やばい。これはマジで、やばい状況なんじゃないの?
胃のあたりが、ずしんと重くなる。

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 スマホの登山アプリをしっかり理解して使えていればこういう状況にはなっていませんでしたね。
ここで美玖がアナログなスマホ無しの方法を思い出そうとしていますが正直紙地図とコンパスを美玖達が持っていても厳しいんじゃ無いかな?と思います。
変にアナログ信仰がある人が少なくないですが、正直見通しのきかない中低山では目印を見つけるのも一苦労なんですよね。。紙地図やコンパスがあってもかなり難しいんです。だからこそスマホとGPS機能は山歩きの常識を変えてという事は言えます。使い方さえ理解していれば一瞬で現在地と戻るべき方向がわかりますからね。
まあ、方角を調べるだけならスマホのコンパスアプリ(iPhoneでは標準)で一発でわかるし、アナログ時計を持っていれば知識があればそれを使って方角を調べる事はできます。
美玖達は事前に地図を読み込んでいない、スマホの登山アプリを使えてない、予定に無いルートを通った、現在地を見失った、闇雲に歩いた…以上の理由で遭難しています。
これではデジタル、アナログ関係なくやるべき事ができていないので結果は変わらないでしょう。

p77 坂本 未玖視点 1日目
「そうだよね、頂上まで戻るには、まだまだ登らなきゃならないんでしょ?それだけ登ってまた下るって、ある意味回り道じゃないの?私、体力持たないかも。下りながら、どこか見通しのいい場所から、温泉の建物を探せばいいんじゃない?赤い屋根だから目立つし」
「あー」
「だからそこを目指して下って、温泉から送迎バスでロープウェイの駅まで行くほうが、疲れないし早く帰れるよ」
「あー」
「亜里沙ちゃん、かしこいー」
由真もんが叫んで、例のゆるキャラたいな笑顔になった。
「そうしようよ、なんとかなるよ」
いやいや、ますますやばいだろ。
ぼうっとした頭で考えた。下れば見通しのいい場所に出るのか?出たとして、そこは温泉の建物が見える位置なのか?ちょっと楽観的すさだろ。絶対、他の方法を考えたほうがいい。
けれどいくら考えても、よい方法はなにも思いつかない。それに、「やばい」と焦るより、「なんとかなる」と思うほうが、ずっと元気が出る気がした。
そうだ、元気は大切だ。第一、わたしから元気を取ったらなにが残る?

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 夏の中低山は木や藪が生い茂っていてなかなか見通しがきかないので目標物を2個以上見つけられる事は厳しいですね。
相当地図を読み込んでいて地形がわかり、目に入った山々と方角で現在地がわかる位ならここまで闇雲に動いたり道迷いはしないでしょうし。。
しかし道迷いの人は疲れてくるとどうしても「なんとかなるだろう」で降ってしまうんですよね。危ない精神状態に陥っています。
基本的には降っていくとさらに見通しの良い場所は無くなりますし、
大抵は沢にでてまわりが木々と岩に囲まれた谷へと陥ります。
そうなるとますます携帯電話の電波が届く確率は低くなってしまいます。
下手すると深い渓谷ではGPSの電波もロストしやすくなってしまいます。

p80 坂本 未玖視点 1日目
後ろで亜里沙が、声をはり上げた。振りかえると、自分の腕時計を見て固まっている。
「も、もう…・・、三時半過ぎてる」「え?マジで?」
わたしも腕時計を見る。ほんとだ。三時四十分。もう夕方じゃないか。無我夢中で、そんなにたっていたとは思わなかった。まるで、時空間の切れ目に落ち込んで、タイムスリップしたみたいだ。
ー 最終のロープウエイは五時半 ー
そのことを思いだす。みんな、めっきり無口になった。
間に合うのか?ロープウェイの駅がどこにあるのか、さっぱりわからなくなっているのに?
あと一時間五十分のうちに、たどりつけないとしたら?こんな山の中で日が暮れて、真っ暗になってしまったとしたら?
不安と焦りで、ぞわっと全身の毛が逆立つような感覚に襲われる。口の中が、いやな味になる。
由真もんは空気を変えようとしたんだろう。目をキョトキョトさせ、おどけた声を出した。
「あたしたち、なーんか遭難してるみたい!」
わたしは笑えなかった。今いちばん、聞きたくない言葉だ。ちがう。ちょっと道に迷っているだけ。遭難なんかじゃない。

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 山の中は日が暮れるのが早いです。
低山だと場所にもよりますが夏なら16時30、冬なら15時30位で山の中だと暗くなった…と感じてしまう場合もあります。
暗くなってからの行動は危険を伴います。
山歩きの定石としては15:30を目処に下山していたいところです。
また道迷いや披露で動けなくなった場合は明るいうちに安全な場所を見つけてビバーク(野宿)する場所を決めておかなければなりません。暗くなってから適当なところで野宿すると滑落や水難、落石、熊などの獣の被害に合う確率が高くなってしまいます。

p81 坂本 未玖視点 1日目
どうする?どうしたらいい?
ふたりの顔を見た。あきらかに体力を清耗した顔だ。「道に迷ってるだけ」なんてレベルは、とつくに超えている。
ふっと、トガちゃんの声が聞こえた気がした。
いいか。迷ったときには苦しくても登れ。楽して下るとドツボだからなー
ああ、なんで今ごろ、この言葉を思いだしたんだろう。思いだすならもっと早く。さっき、「下ればなんとかなる」って考えたときに思いだせよ。

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 尾根を下ると大抵沢にぶつかります。沢に降りると大変歩きにくいです。
沢には水で押し流されてきた岩や木がゴロゴロしています。また岩は水で濡れたり苔むしてて簡単に足を滑らせてしまいます。そうやってどんどん体力は削らて下手をすると怪我をします。また天候が崩れた時には落石や土砂崩れ鉄砲水に合う確率も高まります。

p84 坂本 未玖視点 1日目
由真もんが、半泣きの顔になった。
「歩こう。きっとそのうち、ロープウエイの駅に着くよ」
「私もそれに賛成」と、亜里沙も同調した。
「第一、今日中に帰らないとママが心配するもの。心配しすぎて、体調が悪くなったらどうすんの?そんなの困るんだから!」
そう言い捨てて、岩がゴロゴロする坂道を下っていく。
唖然とした。
ふたりとも、なんでそんなに親のことを気にするわけ?
どんだけ親孝行なんだよ。それよか自分の心配をしろよ。今はむやみに歩き回るより、休んで体力を温存すべきだよ。
「ふたりとも、ダメだよ!これ以上歩いても無駄だから」必死に叫ぶ。
「ちょっと!リーダーの言うことを聞いて」
けれど、ふたりはなにかに取りつかれたように、どんどん下りていくのだった。
結局、赤い屋根の建物なんてどこにも見えないまま、空はオレンジ色に染まってきた。

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 ここからの描写は遭難者の心理を上手く描いていると思います。
不安にかられてそれを打ち消すように歩き回ってしまう。
そして体力を無駄に消耗してしまうんですよね。
そして即席パーティーだとリーダーの統率力が発揮できずにパーティー分解はよく聞く話です。まだ若い子達でしかも美玖を含めてほば山歩きの経験が無いと言っていい3人。
こうなってしまうのも無理はありません。
だからこそ正規登山道を外れて歩くような事は初心者はすべきではないですし、
バリエーションルートを歩く場合はそれなりのスキルと準備が必要になってきます。

p85 坂本 未玖視点 1日目
見ると五時三十分。たぶん、あと一時間と少しで日は沈む。
そして今、最終のロープウェイが下っていったことだろう。
亜里沙も由真もんも、岩だらけの地面にぐったりとしゃがみこんでいる。疲労と不安で、もう口もきけないようだった。
「だから言ったじゃん! 人の言うこと聞かないから、こんなことになるんだよっ」思わずふたりに向かって声を荒らげ、さらに非難の言葉を浴びせたいのを必死に我優して、無しとどめた。とにかく明るいうちに、ビバークできる場所を見つけなければ。
ビバーク、と言葉は軽めだけれど、事態は深却だ。こんな来たこともない山の中で、ひと晩を過ごすのだ。
そのうえテントもない。シュラフもない。地面に敷くマットもない。エマージェンシーシートもない、というないないづくし。いったい全体、どうしたらいいのか。
すがる思いで周囲を見わたす。両側の切り立った面の一部に、ややゆるやかに見える場所がある。細いけれど、しっかりした木が何本か生えている。
「あそこから、登ってみよう」
ふたりは光の消えたような目で、わたしを見上げた。

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 闇雲に降ってしまった3人。状況は悪くなるばかり。
ただしまだ陽があるうちにビバークできる場所を見つけられたのは良かったですね。雨風や木々のさざめき、虫、獣の影響は確実に人を疲労させ精神を蝕んでいきます。それだけ雨風がしのげる場所で暮らせるというのは有り難い事なんですよね。可能ならやはり何かあった時の為にツェルト(簡易テント)や保温の為のシュラフがあれば多少の野宿でも安心感が違います。
けれど気分は遠足の延長ですし中々そういった物を用意して山に入る人は少ないから中々責められないですね。
ただ自分は一人で山に入る事が多いので何かトラブルが起きても1週間位は動けなくなっても生きていられるような装備を持って入ります。
しかし装備を充実させれば重くなって行動に支障が出る場合もありますし、
何を持っていくか、持っていかないかのバランスはしっかり考える必要がありますね。グループ登山だと共有できる物は分担するのが良いでしょう。
またツェルトやテントなどもしっかり建てるには技術が要りますから購入したら何度も張る練習はした方が良いでしょう。
ツェルトは緊急時には張らずに頭から被って雨風避けにしたりもしますが。
自分はライペン(ARAI TENT) ビバークツェルト・ソロ をお守り代わりに持っていっています。まあこれはツェルトというよりはポンチョに近いのですがソロ山行ですし緊急時に保温や雨風凌げれば快適性は二の次、携帯性重視という考えです。
あと緊急を要する物はすぐに手の届くところに入れておいて何かあったらすぐに取り出しやすいようにしています。雨具なんかもそうですが「面倒くさい」が先行してしまうと使うタイミングを失って窮地に陥るなんて事があります。
なので「面倒くさい」を可能な限り排除して適切なタイミングで使えるようにしておきましょう。
マットもビバーク時に地面から熱を奪われたり、硬い場所で寝ると疲労するのであった方が良いですね。携帯重視なら座布団サイズの折りたたみマットを用意子ましょう。テント泊などならマットは必需品。基本は縦長なので慣れた人なら足元などクッションが要らない部分をカットして使ってたりもします。
カットした部分を座布団代わりに持ち歩いても良いですよ。
テント泊だとエアマットを使ってる人もいますしそこは好みです。
エアマットの方がコンパクトになるというメリットがあります。
エア漏れを気にする方もいますがちゃんとしたアウトドアブランドの物ならそこまえで破損など気にする必要は無いと思います。万が一穴が空いちゃってもダクトテープで補修すればいいし(笑)
ただし、高山などにいくと疲れてテント場に帰って来た時にマットを膨らませる必要がある、ただでさえ空気が薄いのにマットを膨らませて息も絶えだえになるという場合も。。

p87 坂本 未玖視点 1日目
水のお茶はすべて飲みきってしまい、朝に買い足したニリットルのペットボトルの水が、一本と五分の一くらい残っていた。これだけか・・・・・・・。
夕方には山を下りられるはずだったから、計画どおりであれば十分の量だった。けれど、今となってはあまりに少なかった。ひとり分、せいぜい八百ccくらい。これでは、節約してもあと一日も持たない。
いや、ネガティブに考えるのはやめよう。明日、帰ればいいのだ。なんの問題もない。
「とりあえず水分補給するよ!」
水をマグカップに一杯ずつ、配給して飲んだ。ふたりともまだ飲みたそうで、わたしも同じだったけれど我慢した。貴重な水を、今ここで全部飲み干すわけにはいかなかった。
「今日のお昼の残り物もあったよね。出して」
あたりはノロノロと指示に従い、亜里沙はパウンドケーキの残りを、由真もんはパンの残りを、それぞれ出した。
「とにかく、食べて元気出そう。残っててよかった」パウンドケーキ半分。
それから、くるみとレーズンのパン、大きめのメロンパン。
麦労と不安で、おいしいのやらまずいのやらもわからなかったけど、体は栄養を欲していたのかガツガツと食べた。

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 最近は「正常性バイアス」という言葉が浸透して独り歩きしているようにも思います。
登山で遭難する場合にこの「正常性バイアス」が強く働いて美玖達のように遭難してしまう場合が多々あります。
しかし「正常性バイアス」に陥らないようにする事とパニックになる事は違います。ここを勘違いしていると闇雲に行動して更に状況を悪くします。
何か問題が起きたらまずは冷静に状況を確認する事。
山ではまず一旦休憩して行動食などあればしっかり食べる。
行動中の甘い物は疲れを癒やして頭の働きも良くしてくれるのでよいですね。
仲間がいれば状況を整理して今後の行動と対処法を考える事が大事です。

89 坂本 未玖視点 1日目
ペットボトルのふたを閉めながら答えた。ならなければ詰む、と心の中でつぶやいた。
「とにかく、今日はここで過ごして、明日こそ帰るよ。あ、その前に雨具を着て。夜は冷えるから、防寒のために」
それぞれ雨具を取りだした。わたしと亜里沙のは、上下セパレートのレインスーツだったけれど、由真もんのは百均の、薄いビニールのレインコートだった。
なんとか皮下間肪でしのいでくれ、とわたしは思った。

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 ビバークする場合は身体が冷え切る前にできる限り持ってるもので着れるものはおれる物があれば全部着込みます。足が冷える場合はリュック(ザック)の中身を全部だして足を突っ込んでおくのも良いでしょう。
ゴミ袋があればそれも着たり巻いたりすれば身体を保温する事ができます。
夏といえど夜の山中は冷えますからどうにか低体温症にならないようにしたいところです。グループ山行なら身を寄せて抱き合って寝るのも良いでしょう。


p91 河合 亜里沙視点 1日目
「なんとかしてよぉ」
ザザーッと風が吹き、木々が揺れる音がする。なにも見えない中、音だけがおどろおどろしく耳に突き刺さって、さらに恐怖をかきたてた。
「怖いよ。怖すぎる」
隣で由真もんもうめいて、程に体を寄せてくる。その腕にしがみつく。由真もんも私の腕をつかんできて、お互い抱き合った。由真もんの体が小刻みに震えている。
パッと明るくなった。反射的に顔を上げると、美玖ちゃんの姿が見えた。
頭にぐるっとストラップが巻かれ、おでこの真ん中に光が知って、あたりを照らしている。
「ヘッドランプ」
自分の頭を指さして、美玖ちゃんがポツンと言った。
「登山部では必品でね。いつもこれだけは忘れんなって言われてて。その習慣で今回も持ってきて、ほんとよかった」「明かり、あったんだ・・・・・・・」心の底から、安心がこみ上げてきた。
「うん。けどね」
パチッと光がえて、再び闇が戻ってきた。

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

p92 河合 亜里沙視点 1日目
「やだ!もいちど明るくしてよ」
「ダメッ」
厳しい声だった。
「なんで?どうして明かりがあんのに、点けてくれないの?意地悪しないでよ!」「この状況で、意地悪なんかしてどーすんだよ」
怒ったような、けれどいつもとちがう、かすれた小さな声だった。
美玖ちゃんも怖いのかもしれない。私たちと同じくらいに。
「・・・・このヘッドランプ、卒業した先輩のおさがりなんだ。もらってから一度も電池を替えてないから、いつまで持つかわかんない。むやみに点けたら、いざというとき点かなくなる。ふたりとも、他に懐中電灯とか持ってんの?持ってないんでしょ?」そばで由真もんが、無言でうなだれた気配がした。私も黙りこんだ。そんなの持ってたらとっ
くに点けている。
「お手洗いに行きたいときは言って。そのときだけこれを貸してあげる。これを頭につけて、どこかそこらへんに行って用を足してきて」
そこらへんで用を足す・・・。そう、その犬みたいな行為を、私は今日すでに経験していた。谷をさまよっているとき、トイレに行きたくてどうしようもなくなったのだ。

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 山に入る時ヘッドランプ、ヘッドライトは必需品と言われていますね。
最近は防災意識も高まっているので買っておくのも良いでしょう。
性能は昔に比べるとLEDライトになってから随分よくなって長持ちするようになり
電球が切れる球切れも無くなりました。(LEDの故障は勿論無いことはないですが随分長持ちになりました。)
電池の管理はしっかりしておきましょう。
明かりがあれば暗くなっても多少は行動ができますし、安心も得られます。
ヘッドライトの値段も明るさや機能、軽さなどにより様々です。
本格的に山歩きをするなら良いものを買った方が安心感も耐久性も使いやすさも違うので良いと思いますが、取り合えず日帰りハイクが殆どでお守り代わりに持っておきたいという方であればAmazonなんかで売っている2000~3000円位の物でも十分使えます。ただしザックに入れっぱなしにする事無く山へ行く時は内蔵バッテリーや乾電池の容量を確認して液漏れなどしていないかどうかや点灯する事をしっかり確認してから持っていきましょう。

山中でのトイレですが基本は垂れ流さないのが基本です。
特に富士山や高尾さんのような人が多く来る場所は皆が皆そこらじゅうで大小してしまうと悪臭がして環境も崩れてしまいます。素直にトイレを利用しましょう。
ただ排泄問題は時代で価値観も変わって来ていますが個人的にはあまり人が多くない場所なら小の方はしても仕方がない場面もあると思っています。
人があまり来ない山はトイレなどもありませんからね。
ここら辺はかなり個々により判断やNGのラインが異なるので結構メディアなんかは濁してしまいます。まあかなり難しい問題だからしょうがないのですが。
名だたる登山家だって割とあっちこっちでしてるんですよね。
ただやはりエベレストのような多くの登山家が押し寄せている山では排泄問題が起こり今では良識ある登山家は排泄物を持って降りているようですね。
そういう事もあってやはり線引は人が多い場所かどうか?がひとつのラインかなと思います。
勿論排泄のルールはありますよ。
1.登山道や登山道近くではしない。少し脇道に入ってする。
ただしトイレをしようとして滑落なんて事故のあるので気をつける事。
2.お尻を拭いた紙は持って帰りましょう。
3.環境に最大限配慮するなら携帯トイレを使うのが望ましい。
4.しょうがなく大をするなら穴を掘ってそこにする。
お尻を拭いた紙は持って帰る。

ポンチョや簡易ツェルトがあると排泄する時や生理用品の取り換えの時の目隠し代わりに使えるので便利です。
穴を掘る時は軽量のハンドスコップなどがあると便利です。
雪山で雪洞を掘る時なんかにも良いですね。

p100 河合 亜里沙視点 2日目
「なんのなんの」
丸顔に笑みを浮かべ、由真もんはリュックをゴソゴソして、黒い携続ケーブルを取りだしている。
「これ持ってきたこと、きのうの夜思いだせばよかった。そしたらスマホのライト機能も使えたかもなのに、パニクってたから思いだしもしなくてさ。これでモバイルバッテリーとスマホをつなげば、すぐ充電できるからね」
片がの端をバッテリーに差し込み、もう片方をスマホに差し込もうとして「あれ?」と、手を止めた。
「なんで?差し込み口に入らないよ?」「・・・・・・ちょっと、見せて!」
私はそのケーブルとスマホをひったくり、つなごうとして絶望した。
「これ、タイプがちがう。大きさが合わないから入らない。由真もん、なにかちがうもののケーブルと、まちがえて持ってきたんじゃないの?」
「ええっ」
あわてた様子で、ぼうぜんとケーブルの先を見つめている。
「ほんとだ.・・・・。これ、スマホにつなぐ線じゃなくて、母さんのハンディ扇機の線だったかも」

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 ケーブル類は色んな端子の種類があるのでそこら辺にあるものを確認せずに持ってくると折角モバイルバッテリーが使えない!なんて事もありますね。
山にモバイルバッテリーは必携ですがケーブル類も確認しておきましょう。
しかし物によっては断線していたり安物だと発火したりする場合もあるので、できればケーブルもモバイルバッテリーもしっかりとしたメーカーの物を2本位は携帯しておきたいところ。
iPhoneなどのマグネット充電に対応している物ならケーブルが無くても充電できるのでそれも便利です。マグネット式の充電ならケーブルの端子が濡れて充電できなくなるというリスクも避けられます。

p105 河合 亜里沙視点 2日目
どうか私を、今日中にママのいる家に返してください。
ママは今どんなに心配しているだろう。心配しすぎて、がんが再発したら私のせいだ。
「あー!」
いきなり、美玖ちゃんの大声が上から降ってきた。
なに?今度はなんなの?
「登りきったと思ったら・・・・・なんだよ、これは」遅れてたどりついた私の目に入ったのは、あたり一面のササ原だった。
ササ原というより、ササの海みたいだった。大型のササが、遠くのほうまで生い違っている。
ササの海はゆるやかな登り斜面になっていて、ずうっと向こうに林が見えた。
「道もないし・・・・・・・とにかくあの林まで出よう。このササをかき分けていくしかないな」美玖ちゃんが先頭に立って、ササ原に突入していく。由真もんがあとに続いていく。
ササの背丈は高かった。超たちの背と変わらないくらいだった。ちゃんとついていかないと、姿を見失いそうだ。必死にササをかき分けかき分け、進んでいく。
ガサガサガサガサ
「痛っ」
頬を押さえる。ササの茎が機のようにしなって、ピシッと頬を打ったのだ。

6days 遭難者たち 安田夏菜 (著)

解説 低山ではバリエーションルートを歩いたり、正規登山道から外れると笹藪の海にぶつかる事が結構あります。
先が見えない不安、長袖長ズボンでないと藪が肌を傷つけてきます。
またマダニやマムシなどの毒蛇がいたりと危険がいっぱいです。
場所によっては熊と鉢合わせなんて事も。熊と出会う場合に一番危険なのは出会い頭で鉢合わせしてしまう事。見通しの利かない場所では熊鈴やラジオ、笛、大きな声でお喋りなど音を発して歩くのが良いでしょう。
そんな笹薮ですがしかし通らずにはいかない場合もあるのでその場合はなるべく肌の露出をさけて、足元が崩れたり崖になってないかの注意をし進んで行くしかありません。
可能なら夏でもドライな長袖を身に着けてグローブもあった方が良いでしょう。
また見通しが利かないのでパーティーがバラバラにならないようにも気をつけたいところ。

さて美玖達はどうなってしまうのか?
後編へ続きます。


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