[翻訳記事] 99%Invisible: Missing the Bus [バスと移動と平等、まちづくり]
※この記事は、99%Invisibleによるポッドキャストの内容を個人的に和訳したものです。翻訳のクオリティは保証しませんが、大体の内容や主張は正しくカバーされていると思われます。ご指摘などございましたら、コメントお願いいたします。
元記事:99% Invisible Episode388: Missing the Bus
https://99percentinvisible.org/episode/missing-the-bus/
99% インビジブル エピソード388:Missing the Bus
[バスに乗り遅れる]
ローマン・マーズ:99%インビジブル こんにちは、ローマン・マーズです。
ローマン・マーズ:交通渋滞を解消し、都市をより平等にし、気候変動の解決に役立つ技術があると言ったらどう思いますか?
無人の車やハイパーループ、または最近話題になっている他の新しい輸送技術のことを想像されるかもしれません。
今週のゲストは、はるかに古くて魅力的ではない、あるマシンについての本を書いている方です。私たちの都市をより持続可能な、より住みやすく、より公正にするための鍵になると考えているマシンについてです。
慎重に考えてみてください。
それはオムニバスという技術、
そう。今、私たちが単純にバスと呼んでいるマシンです。
ローマン・マーズ:スティーブン・ヒガシデは交通機関の専門家であり、バスの専門家であり、「Better Buses、Better Cities」という新しい本の著者です。そして、この論文の主張は、バスが私たちの都市をより良くする力を持っているということです。しかし、その可能性を最大限に生かしたいのであれば、乗車経験をより良いものにする必要があると彼は言います。
スティーブン・ヒガシデ:アメリカ人はバスで年間47億回も移動します。しかし、それらの旅行の多くは惨めに終わります。バスは遅く、遠回りで時間がかかります。道路の脇に立って待たなければならず、時には歩道や屋根すらありません。ですから、それは本当に悲惨な経験です。
それでも、公共交通機関は人々を移動させる最も効率的な方法です。気候変動に打ち勝つためには不可欠なツールなのです。
ローマン・マーズ:なぜバスが気候変動問題のキーであり、輸送するための技術であると同様に環境のための技術としての役割があると言えるのでしょうか?
スティーブン・ヒガシデ:移動は今や米国における温室効果ガス排出の最大の原因です。それでは電気自動車などに切り替えてはどうかと思う方もいるかと思います。しかし気候予測を見ると、それが地方自治体レベル、州レベル、または全国レベルであっても、電気自動車への切り替えだけでは気候変動を抑制する目標を達成するのに十分ではないことがわかります。
そしてそれは、人々が車を極力使わなくて済む、もしくは必要のない都市や地域をつくる必要があることを意味します。そして、移動のひとつひとつが短い距離で済むようにしなければなりません。
これらを実現するために、公共交通機関は大きな役割を果たし、バスはその中で非常に重要な役割を果たすのです。
ローマン・マーズ:街中の最も多くの人々を移動させるという点でバスがどれほど効率的であるか、またその環境への影響について少し話していただけますか?
スティーブン・ヒガシデ:市内の一般的な交通の典型的な車線は、大体1時間に1000から2000人を運ぶことができます。バス専用レーンがある場合は、1時間あたりの人数の運べる人数を最大4人から8,000人まで増加させることができます。つまり、はるかに効率的な訳です。
そして、もしさらに車線をバスに提供し、専用車線を作るなら、1時間あたり10から25,000人にまで増やすことができます。
これは都市の交通を考える際に不可欠な計算です。
ローマン・マーズ:ほとんどの人が、よりグリーンな未来について考えるとき、風力発電所と太陽電池の使用を想像するかと思います。
しかし、バスについてはあまり考えないかもしれません。
スティーブン・ヒガシデ:ええ、バスは非常に見落とされがちなのですが、バスが便利な都市にもっと多くの人が訪れれば、その効果に目を見張ることでしょう。
私の場合は、ロンドンで認識が変わりました。旅行中どこへ行くにも、目的地に向かう最速の方法はバスを乗り継ぐことだったのです。時には、2つ3つのバスを乗り継ぐことも含めてです。しかし、乗り継ぎはとても便利で、バスは非常に頻繁に運行されており、シームレスな移動を体感することができました。
まあ、完璧に見えたのは旅行者だったからかもしれません。ロンドンの人々が、乗り継ぎについて苦情を持っていることは知っています。それでも地元の人々は常に多くの問題があることを知っているので、実際には、どんな場所でもそこの交通を賞賛することは本当に難しいのです。
それをさし置いても、目を開かれるような体験でした。
米国には良い例があまりないので、アメリカ人が理解するのは少し難しいと思います。しかし、トロントのいくつかのバスでも似たような素晴らしい経験をしました。自転車を使うべきか、Uberを呼ぶべきか、バスに乗るべきかを確認するために携帯で調べた結果、多くの場合はバスに乗ることしました。Uberよりも速かったのです。これは、米国の都市を移動しようとしているときとは大きく異なります。
ローマン・マーズ:では、なぜ米国ではバスが受け入れられなかったのですか?
スティーブン・ヒガシデ:その理由はいくつかあると思います。
1つ目は、米国では、新しい技術に対する執着と、交通技術を革新したいという考えがあるのではということです。そして、自動運転車またはハイパーループに対する過剰な期待があると思います。イーロン・マスクがシカゴにハイパーループを提案したことは知っています。これは1時間に2000人を運ぶということでしたが、実際には通常のバスで運べる人数よりもはるかに少ないのです。
そして、その多くは政治的な力と、今日米国でバスに乗るほとんどの人々が低所得であるという事実に帰着します。そんな人々の多くは有色人種です。彼らは常に大部分が政治システムから遮断されてきた人々です。
交通事情を改善するためには、多くの利用者を組織し、新たな交通政策を構築することが必要です。
ローマン・マーズ:そして、認識を変えるための少しの努力も必要ですよね。映画の中で、主人公に悪いことが起こって仕事を失ったり、何か悪いことが起こったりすると、次のシーンはバスに乗っていることが多く、ほとんど敗北の象徴のように使われています。
スティーブン・ヒガシデ:米国のメディアには、まさしくそんなバスに対する偏見がありますね。「アトランタ」という舞台の冒頭シーンの1つは、主要な役者がバスに乗りながら、自分の人生が望んでいた通りになっていないと不満をぶちまけるというものです。
本当に、バスと、負け犬であることが関連づけられているんですよね。一方で、バスが公園や歩道のように普遍的であるアジアや英国では、人気のあるメディアにおいても、そのような表現はないのです。バスは日常生活の一部であり、妙な社会的偏見がなく、多くの方法で必要な場所であるため、バスが普通に現れるシーンがたくさんあります。アメリカの場合だと、バスは多くの人がたまたま使わなければ行けなくなるような表現です。加えて、適切に設計されているバスは、非常に幅広い状況の人々に適しています。
ローマン・マーズ:バスに対する認識を向上させ、人々が乗りたいと思うようにする最も直接的な方法は何だと思いますか?
スティーブン・ヒガシデ:バスの認識を改善する最も直接的な方法は、バス自体を良くすることです。
ローマン・マーズ:はい。
スティーブン・ヒガシデ:バスのサービス自体をより良くし、より多くの人が乗り始めるようになれば良いということです。より多くの人が使えば、バスの認識を変えられます。バスユーザーの増加はバスをさらに改善する政治的エネルギーを生み出し、好循環につながります。
イメージの向上は、小手先のマーケティングやコミュニケーション、あるいは新しくフレーミングすることから始まる訳ではないと本当に思っています。それは実際にユーザーを直視して、その人々に自信を持って提供できる製品を作ることからしか始まりません。
ローマン・マーズ:バスにもっと多くの人を乗せることがバスのサービスを改善することであるなら、都市計画に関わる方はスティーブンの本を読むのがよいでしょう。
基本的には、バスシステムを改善する方法のマニュアルとなっています。
設計上の工夫により、誰もがバスに乗れるようになった全国の都市の例を参考にしました。スティーブンは、バスサービスを改善するためにできる最も基本的なことの1つは、バスをより頻繁に走らせることだと言います。
スティーブン・ヒガシデ:交通プランナーであるジャレッド・ウォーカーがよく使う言葉は、「(運行)頻度は自由度だ」ということです。
想像してみてください。車を持っていて、その後ろに1時間に1回しか開かない巨大な壁があり、それが家を出て運転に行くことができる唯一の時間だと。これはまさに、1時間ごとにしか通らないバス路線の近くに住んでいるようなもので、30分ごとのバス路線の近くに住んでいたとしてもそれほど変わりありません。
15分ごと、10分ごと、5分ごとの運行のレベルに到達して初めて、他の誰かのスケジュールに沿って自分の人生を計画しなくて良くなるのです。これが本当の自由です。
いつでも好きなときに道に出れば、バスがもうすぐそこに来ると確信することができる自由です。つまり、運行頻度はシームレスさと自由を生み出します。これは本当に重要であり、その頻度はネットワークを機能させるためにも本当に重要です。
スティーブン・ヒガシデ:一人一人にバスでドアtoドアの運行をすることは、実際には不可能です。それはいわゆるトランジット(輸送)とは反対の概念です。トランジットというのは、ほぼ同じ場所からほぼ同様の目的地に多くの人々を連れていくことです。
都市内で移動ネットワークを形成し、効果的に運用する方法の1つは、交通グリッドを作成し、頻繁な接続を作ることです。ここでは、バスにのって必要な場所でシームレスに乗り換えることができるという確信や信頼が必要です。どこかの交差点で降りて、次の25分間、どのような環境に置かれてしまうのかを気にする必要はありません。頻繁なサービスを非常に重要にしている理由はそれなのです。
ローマン・マーズ:さて、ステップ1はバスをより頻繁にすることということですね。納得できました。
ステップ2も非常に直感的です。これはバスを高速化するということですね。
もはや、我々がバスに強力なエンジンをつけることや、バスの運転手がノンストップで運転することについて話しているのではないことは明らかです。これはつまり、バスを渋滞から解放するということですね。交通プランナーはどうすればそれが実現できますか?
スティーブン・ヒガシデ:はい、バスを高速化したい時、都市や交通機関がには非常に多くのできることがあります。まずはバス停の配置方法によって、非常に小さなことでも大きな違いを生むことが出来ます。たとえば、バス停が信号機の前にある場合、バスが赤信号に巻き込まれる可能性が高いため、バスが遅くなる傾向があります。信号の後にバス停を置くと、より速く出発できる傾向があります。
もう1つ、大きな違いを生むのは、バス停が互いにどれだけ離れているかということです。これは非常に直感的だと思います。そして、バスへの乗り方についてもできることがあります。一般的にアメリカでは、人々はかなり長い列に並ぶ必要があり、バスの前で1人ずつ乗車しますよね。
交通量の多いルートでやるべきことは、どのドアからでも乗れるオールドア乗車*です。バスの後ろにあるリーダーでカードをタップする方式にすると、1人あたり5秒かかっていたものが、2秒に短縮されます。
*訳者追記:日本では信用乗車方式と呼ばれている
そして、都市の最も混雑した地域に本当に必要なのは、バス専用車線またはバス専用道路です。ニューヨーク市やサンフランシスコやシアトルなどの最も混雑している場所で導入され始めてきており、自家用車は多かれ少なかれ禁止され、バスに道を譲らなければ行けないシステムになっています。
ローマン・マーズ:バス専用道路という点では、最近ベイエリアでサンフランシスコのマーケットストリートが自家用車を禁止しました。それはまだ新しい例ですが、マンハッタンでも同様のことをしていることは知っています。
その取り組みについて説明してもらえますか?
スティーブン・ヒガシデ:ここ数ヶ月、ニューヨーク市は14番街で車を本質的に禁止しており、これは実質的にトランジットを最優先とし、自家用車にストリートスペースを渡さないと決めた都市に何ができるかの大々的な宣伝となっています。
14番街を歩いて、バスが行き交うのを見ていてすごいのは、乗り継ぎが速いだけでなく、周囲の環境がとても良くなったことです。車がなく、とても静かです。救急車が渋滞にはまることもありません。この通りではトラックは侵入許可されているため、通り沿いの企業にとっては非常に便利であり、車両交通量が非常に少ないため、人々は基本的にどこでも安全に通りを横断することができます。通りはより快適な場所となり、車を最優先にせず、その場所で素晴らしいトランジットの仕組みを整えると、そのような環境を多く創出できるのです。
ローマン・マーズ:車とバスシステムの間には常に緊張関係がありますか?
スティーブン・ヒガシデ:基本的に、自動車ベースの交通システムをスケールアップして都市に適合させることはもはや出来ず、それをすべての人のために機能させることはできないため、自動車と都市の間には緊張が続くと思います。
車が登場した20世紀初頭には、多くの人が車が都市の構造に大きな害を及ぼしていることに気付いていました。例えば、世論は自動車に強く反対しており、車が都市にもたらした暴力について、多くの重要な歴史が記述されています。
気をつけないといけないのは、時々都市主義者(アーバニスト)たちは車両を禁止することの効果について少し大げさに話すことがあるということです。それはいくつかの都市では妥当な主張ではあります。しかし、広大な米国の多くでは、公共交通の乗り継ぎだけでは車と同じ仕事や機会にアクセスできないという事実は考慮しなければなりません。
そしてその1つの解決策は、規模を拡大し、優れたトランジット(運輸網・システム)を作成することに他ならないのです。確かに車両交通とバスシステムの間には、ある種の緊張関係はありますが、自らのまちを自動車の支配から脱出し取り戻す方法を見つける必要があるのです。
ローマン・マーズ:バスと関連するネットワーク全体について考えるのは興味深いと思います。あなたが言及したことの1つは、バスに乗り降りする経験を簡単にし、それをわかりやすいシステムとして統合しなければならないということです。では、活気に満ちた機能的なバスシステムを作成する上で、それはどのような役割を果たすのでしょうか。
スティーブン・ヒガシデ:トランジットに関しては、歩くという行為は本当に重要です。ほとんどの人が移動の際、少なくとも一部では歩いているのです。そのため、歩くという体験は実際には移動体験の一部なのです。
頻繁かつ高速で信頼性の高いバスを提供することはできますが、バスを降りるときに8車線の道路を横断する必要があるなら、それは歩道とは言えず、待つ場所がないのと一緒です。そんな環境では素晴らしい乗り継ぎ体験として移動することは出来ません。
これは本当に重要かつ難しい問題なのですが、多くの場合、歩道を管理する主体は、バスサービスを提供している行政機関や部署とは異なっています。そのため、バスや公共交通と歩行空間の関係を再構築し、何らかの定期的なプロセスを作成するために、すべきことが沢山あります。歩きやすさはアメリカでは大きな問題です。
オースティン、ナッシュビル、デンバーといった場所では、歩道に10億ドル相当の改善すべき場所があります。これらの膨大な量の道路網には歩道がないのです。そして、フィラデルフィアやニューヨークのような場所でさえ、縁石や道のコーナー部分に充分な余裕がないことによる訴訟が多く起こっていたりするのです。
ですから、歩きにくさは都市にとっての危機であると本当に思っています。語られることは少ないですが、公共交通機関に確実に影響を与えています。
ローマン・マーズ:バスサービスを改善するもう1つの方法は、より公平で安全なバスにすることです。誰もがバスを快適に感じるには、どうしたら良いのでしょう?
スティーブン・ヒガシデ:交通機関について、多くの利用者が身の安全が心配なために利用を控えてしまうという調査データがあります。しかし、交通機関は、安全性が懸念事項であることは認識しており、多くの場合、非常に迅速に警察と連携して対処します。そしてそれは、一部の乗客には有効な解決策です。
しかし、それは逆に、乗客に身の危険を感じさせる可能性もあります。機関を利用することで移民ステータスに影響を与えたり、刑事司法制度に巻き込まれたりする可能性があると感じる環境を作りたくありません。また、安全性には、照明、駅の設計、人間の存在など、法執行機関であるかどうかに関係ない、他の多くの側面があります。
これらは本当にコミュニティレベルで議論をしなければならないものであり、その場における安全性の定義とは何かについて話さなければなりません。
そして、公平性については、運賃が本当に重要だと思います。交通機関への支払い方法、金額、および人々が本当に平等に扱われているかどうか。いくつかの例を挙げましょう。
交通機関の多くには、月間パスがあり、一定の割引がされているので、裕福で交通機関を良く利用する層は、利用額を抑えることができることがわかっています。しかし、低所得の乗客は、毎月のパスを前払いすることができません。代わりに、乗車するたびに料金を支払うこととなり、この積み重ねは、毎月のパスの費用よりもはるかに多くなります。
この事態に対して、いくつかの交通機関が始めていることの1つは、運賃上限と呼ばれるものです。乗車料金を支払う場合は、毎月のパスと同じレベルに達すると、それ以降の当月の乗車はすべて無料となる制度*です。ですので、月間パスのコスト以上のお金を払う人がいなくなるというシステムです。
*訳者追記:日本でも大阪のPiTaPaなど、同様の制度を導入している例がある
https://subway.osakametro.co.jp/guide/page/mystyle.php
ローマン・マーズ:乗客を早くさばくためには、全てのドアで乗り降りできるようにすることだと言っていましたね。ですが、それはタダ乗りを許してしまうことに繋がったりはしないのでしょうか?
まあ一方でそれほどの利益が失われるとは思えないとともに、それよりも大きな問題を引き起こすので、おそらくそこまで問題にはならないかとも思うのですが。それについてはどう考えているのでしょうか。そしてあなたが考えてきたものにどのように適合するのですか?
スティーブン・ヒガシデ:そうですね。つまり、タダ乗りを回避するには、顧客重視のアプローチを取ることが本当に重要だと思います。バス運賃のタダ乗りの場合、ほとんどの場所で実際にバス代を払うのが難しい状況が作られているという事実に立ち向かう必要があります。一部のシステムでは、現金で支払う場合、ちょうどのお金を用意して支払う必要があります。また、乗換券を購入できる場所が非常に不明確な場合もあります。ワシントンDCでの場合、タダ乗りの率が最も高い地域は、貧困が多く、乗り継ぎ券が販売されている店舗もない場所であることがわかりました。これにより、いくつかのことがわかります。
まず、タダ乗りを犯罪化する場合、ある程度まで貧困を犯罪化することになります。これは公平ではなく、サービス提供者の欠点を人々に押し付けることにもなります。
パスをチャージしたい場合、どこでそれを行うかはわかりやすくしておかなければ行けないはずです。それがアプリ上にあるかどうか、コンビニエンスストアにあるかどうかは、本当にわかりやすくあるべきですが、ほとんどの場所ではそうではありません。そして、人々は文字通りそれを買う余裕がない可能性についても問わなければならないと思います。交通機関はそれにより莫大な収入を逃しているわけではありません。それを取り締まるならば、それは人々が交通機関に乗る気をなくすことを意味し、同時に彼らが仕事や医療に行くつもりも、彼らがする必要がある移動をするつもりもなくしてしまうことを意味します。
ローマン・マーズ:この後、より良いバスを持つことで都市をより良くすることについての詳細についてお話いただきます。
(休憩)
ローマン・マーズ:スティーブンと話をしたときに私が驚いたことの1つは、都市をより住みやすく、持続可能にするために必要な技術はすでにあるにも関わらず、その技術を最大限に活用していないことです。
スティーブン・ヒガシデ:私たちは交通機関の技術革新については多くのことを話します。しかし、本当に必要なイノベーションは行政の革新または公共プロセスの革新であり、それこそが移動をより迅速に構築できるキーなのです。私が本で書いていることの1つは、多くのバスレーンプロジェクトが、幾度にもわたるデザインの変更と多数の会議を伴う高速道路のプロジェクトのように行われているという残念な事実であり、バスレーンを路上に置くのに6〜8年、場合によっては10年かかることもあるということです。しかし、私たちの都市を持続可能なものにしたいのであれば、かけられる時間はそんなにはありません。
これらのプロジェクトをより迅速に実現するために、公共ができる様々なことがあります。実際に、ボストンや現在のワシントンDCなどの都市では、「戦略的な輸送」と呼ばれるものが採用されています。そこでは、道路にコーンを配置するか、道路をペイントしてバスレーンをテストし、実際のパフォーマンスと乗車率などに関する実測を行っています。そして、全体のプロセスには、数年ではなく、おそらく数週間または数ヶ月だけなのです。
ローマン・マーズ:はい。バスの大きな利点の1つは、設計段階で非常に柔軟性があり、レールが必要ないことだと思います。輸送システムのすべての良い特徴を兼ね備えています。バスにできることは沢山ありますが、例えばもしルート変更でこれまで10年間ずっと曲がってきた角ではなく、その1つ手前を曲がることとなった時でも、ドライバーと利用者にそれをちょっと伝えるだけで済むのです。繰り返し柔軟に対応できることは、交通デザイナーにとって夢のような特徴ですね。
スティーブン・ヒガシデ:そうですね。都市でやらなければならないことの多くは、実際にその約束を実現することです。プランナーはバスが柔軟であると話すのですが、その後、40年の間コロンバスでバスネットワークの再設計が行われていないのを見て、「さて、実際にはどれだけ柔軟なのだか」と問うでしょう。
米国では、多くのビジネスと経済発展の支持者が世界クラスの交通機関を求めており、多くの場合それは路面電車などが欲しいというようなことです。そして、実際に世界クラスの交通ネットワークと呼ばれるものを見に行くと、それは鉄道などとうまく連携した堅牢なバスサービスなのです。バスは交通システムの毛細管があらゆる場所に届くようなものなのです。
ローマン・マーズ:バスシステムに投資しない場合の損失(コスト)とはどのようなものでしょう?
スティーブン・ヒガシデ:バスに投資しない都市は、都市の平等性に深刻な問題を抱えることとなります。たとえば、(バスシステムの貧弱な)ニューオーリンズでは、ニューオーリンズに住んでいて車にアクセスできる人の場合、市内の仕事の80〜90%に30分以内にアクセスできます。あなたが徒歩と交通機関でしか移動しない場合はその割合は10%、15%、20%に程度に減少します。とてもチャンスの少ない人生となってしまうのです。
そして、都市がバスや交通に投資しない場合、彼らは本当に低所得世帯を、車を購入せざるを得ない状況に追い込みます。しかし、自家用車の購入はそれ自体が経済的な落とし穴となりえます。米国では、自動車の負債が歴史上最も高いレベルになっており、財政的に持続可能でないどころではありません。もっとうまいやり方は他にもあり、その中でもバスがは大きな役割を果たします。
ローマン・マーズ:そして、その延長線上で行くと、バスが非常に限られている状況では、人々の民主主義への参加を制限することにもつながります。
スティーブン・ヒガシデ:著書の中では、ニューヨーク市立大学のCUNYにあるオットー教授による、ハドソン渓谷のバスで何人かの人々との対話について引用しています。ニューヨークでバスシステムを変更する計画があり、バスの乗客は、変更が彼らにとって良いことになるかどうかについてお互いの間で話し合っており、本当に豊かな議論でした。
バスの運転手が言うんです。「ああ、君たちは本当に良いアイデアを持っている。市役所に行って、あなたが言っていることを彼らに知らせるべきです。」 バスの乗客たちは、これをただちに却下します。市役所に行って証言しても、帰りのバスがもう走っていないので家に戻ることができなくなるからです。
ですから、私たちが考えなければならないのは、仕事へのアクセスだけでなく、市民参加へのアクセス、食べ物へのアクセス、教会へのアクセス、図書館へのアクセス、私たちが本当に生きるために本当に必要なすべてのものへのアクセスについてなのです。バスと公共交通機関について話すときの本質はそこなのです。
ローマン・マーズ:では、この本で取り上げた都市の1つであるヒューストンについてお話いただけますか。このケーススタディで私を驚いたのは、この都市が本当に大きな包括的な絵を描いて、それを実際に目指したということです。ヒューストンのアプローチと、それが都市の通常のやり方とどのように違っているのかを説明いただけますか?
スティーブン・ヒガシデ:そうですね。バスのルートを変更する典型的な方法は、そこここでの微調整です。長年にわたる変更が積み重なることとなりますが、はっきりと変更の理由を説明できる人がいないくらい全貌があきらかではありません。ヒューストンで採用されたアプローチについて本当に新しいのは、彼らがネットワークをゼロから設計したということです。
彼らは、バスネットワークが人々にとってますます重要性を失い、多くの点で何十年も根本的に変化していないことを実感していました。そこで彼らは、人口統計、雇用の中心地がどう動いているかなどの今日の知識に基づいて、最適なシステムをゼロから設計するとどうなるかを考え始めました。その結果、100万人の追加の仕事と100万人の追加の世帯を運行頻度の高い交通にアクセスできる徒歩圏内に置くシステムができました。これはかなりの成果です。
ローマン・マーズ:それはもっと多くの人に知ってほしい成果ですが、私がよく目にする交通システムの改善についての記事は、新しい技術などきらびやかな印象のものが多い気がします。
スティーブン・ヒガシデ:交通政策に関係する多くの人々が技術革新に集中しているのは何らか秘密の理由があると思いますし、彼らは自らの責任から逃げており、全てが市場によって解決されることを望んでいるかのように見えます。しかし、民間の交通関連会社が私たちに与えたものは、裕福な人のためのサービスでです。私たちが必要とするのは手頃な価格の広範囲な交通サービスであり、それは公的なリーダーを必要とします。
ローマン・マーズ:ええ、そしてそれはまた、公的なリーダーと、その存在無しには決して行われていないという認識を必要とします。問題を解決する技術的な万能薬があるという考えがあり、それで問題は解決されるという考えが蔓延しているのではと思います。もっとも、そんなことで解決できる問題ではありません。これは単に地域のメンテナンスとケアの問題であり、都市とあなたの地元コミュニティについて考えることです。シリコンバレーの考え方とは異なる発想ですよね。
スティーブン・ヒガシデ:ええ、それは重要なポイントだと思います。
都市は変化しており、交通システムはそれに応えるために適応しなければなりません。私が本で書いていることの多くにとって本当に重要なことは、行政組織の役割と、プロジェクトのパイプラインを構築したり、市内全域でバス優先プロジェクトを計画および実施したり、市民とのコミュニケーションを取理、何が有効で何がそうでないかを地域と密着して行う組織の必要性なのです。
これらはすべて、スキルを持った人材を雇用し、多くの場所に存在すると考えられる公共部門の空洞化を解消することを必要とします。私たちは急進的であるように見えるかもしれず、常にオープンであるべきと考えていますが、ほとんどの都市で提供するバスサービスの量を3倍か4倍にすることを求めるのはまったく過激なことではないと思います。
様々な場所での経験は、それは現実的であり、人々が使うことができる交通システムを作ることができるということを示していると考えています。