TENET考察のまとめまとめ。
TENET、4回観ましたが、まだまだ腑に落ちないところが多い。
この映画は作中で多くが語られないことから、察しなければいけない部分が多いために、何回も観る羽目になってしまうやつです。
1回観ただけで全部理解できる人はほとんどいないはずです。
ということで、1回目を観終わって、頭の中に「?」がたくさん浮かんでいる方、何度も観ているが、観る度に疑問が増えていく方(私だ!)のために、各所の解説・考察のまとめをわかりやすかったポイント毎に紹介します。
もちろん、以下は全部ネタバレですのでご注意ください。
注意)公式パンフレットには、かなりの情報と解説がすでに展開されています。こちらを読むだけでも、かなりの疑問は解決されます。各解説を見る前に、一度公式のパンフレットを一読することを強くオススメします!
▶よくある混乱の原因
各解説を紹介する前に、パンフレットを読めばだいたい理解できる、よくある混乱の原因について挙げておきます。
・タイムトラベル(好きな時間・場所にすぐ行ける)のではない。あくまでも任意の場所における特定の時間から、時間を逆に進むことができる。ということ。つまり、10年前の特定の時間まで遡るには、10年間ずっと逆行する時間を眺めつづけている必要があります。(だからさ、ニールはすでに数年間どこかで逆行していたんですよ…。究極の先回り。)
A→B と物事が進む時、Aの時点に戻りたいなら、
A←B のように、Aの時点につくまで一旦逆行する
このとき、
A→B の間が例えば30分なら、30分は逆行世界にいることになる。
30分後、戻りたかったAの時点に帰れる。
その時点で、もう一度ゲートをくぐると、Aの時点に戻れる・順行世界に帰れる。
・エントロピー云々はそこまで気にする必要無い気がする
逆行のしくみ、の裏にある理論を理解したいのであれば、この解説がわかりやすいです。
研究所か大学で、逆行する銃の説明をするシーンは、たしかに裏側の理論を説明するのには必要だったかもしれないけど、物語としてはミスリーディングな気がしてなりません。(あの能力が使えるようになるのかと思ってしまうよね。)
▶作品全体の流れについて
過去のノーラン作品の傾向と対策から、エントロピーの拡大についてまで、ざっくりまるっと全体を解説しています。
さて、ざっくりわかったとしても、細かい所が気になってしまうのがこの映画だ。
以下、各論の検証に入ります。
▶TENETというタイトル、「祖父殺しのパラドックス」
特に「祖父殺しのパラドックス」については、いらすとやを大活用した図解付きでわかりやすく説明されています。
ちなみに、上の記事で断言されているニール=マックス(キャットとセイターの息子)説も、観た直後は「あるかも」と思いましたが、今はちょっと懐疑的。母親を助けに過去に戻る、というのであれば、ニールの動機がわかりやすいのですが、それよりは主人公との友情に起因している気がしています。(これから主人公が進む未来で、ニールのために主人公が命を落としていたとしたら…?とか考えてしまう。)
全体的にキャラクターのモチベーションがわかりにくい映画ではありますね。
▶逆行カーチェイスシーン
セイターに外に連れ出されたキャットがなぜ撃たれた状態のそのままにイスに座っているの?と頭が混乱していたのですが、「キャットは常に順行」であると理解すれば、(ちょっと頭の中で整理は必要ですが)整合の取れたシーンだということがわかります。上の解説記事は、それを説明と色分けで表現しており、とても分かりやすいです。
▶気になるあの暗号
作中で意味深に登場する”We live in a twilight world(我々は黄昏に生きている)"の暗号。CIAの暗号なのでしょう。1回目はCIAの立場として利用して、2回目セイターにカマをかけられた際にはとぼけています。2回目に関しては、主人公がCIAの手先であるかどうか確かめるために(反応をみるために)投げかけられたものだと思います。
(このシーンの後、手渡された金塊についている血に絡め取るようにして、床の土を採取していることにも注目。すぐ後のニールとの会話に繋がります。よくできたプロットだ…。)
ところで、twilight/黄昏=日が沈むまえの光がぼんやりした時間 であり、その後日が沈むと dusk/宵=日暮れ になるわけですが、これをtwilight=物語の最中=何が起こっているかまだ全体像が見えない時間、dusk=物語の終わり、だと考えると「And there are no friends at dusk (宵に友なし)」というのは、ニールがいなくなる物語の終盤を揶揄しているようにも聞こえて切なくなります。
▶主人公名前無い問題
私も観終わって友人と会話するまで気づかなかったのですが、「Protagonist=主人公」には人物名がないんですよね。
彼があまりにも個人的動機ではなく、組織や物語の都合にのみ則って動く存在であるため、人物が己の自我よりも運命とか物語に動かされているということの象徴だと理解しました。
ノーラン作品としては初めての黒人が主人公を演じる映画。しかし、あくまでも物語の「器」でしかないこのキャラクターについての考察を、人種の問題から深めているのがこの解説です。また、キャットの女性としての描かれ方も、ステレオタイプ的であることについても触れられています。
個人的にはアジア人も中米系・中東系もちょこちょこ出てくるので、そこまで気になったことはないのですが、やはりまだ白人男性優位な空気を崩すには至っていないというのは、妥当な指摘だと思います。女性キャラクター(過去の作品にもファム・ファタールが多い)についても、言わずもがなです。
▶監督、人間に興味がないのでは説
上で人種や女性に対する描かれ方についての指摘がありましたが、一方で、監督に対してはこのような意見もあります。
※「ノーラン 人間 興味」でTwitter検索すると色々出てきて面白い。
インセプションもインターステラーも、そこに起こっている現象や、その現象が起こる背景のしくみについての理解を楽しむタイプの物語であって、割と人間ドラマは二の次だったような気がしています。(私はインターステラーの「愛」ですべて片付けてしまう態度は結構それだと思っている。)
重力や時間の概念などを解体し組み立て直す作業は、それだけで理解するのにかなりの時間が必要です。そして、その「現象としての理解」が追いつかない上に、私達の頭の中ですでに出来上がっているもう一つの現実、つまり人種や性別に対するステレオタイプの破壊が重なると、それは想像以上の混乱を巻き起こす原因になる可能性も確かにあるかもしれないと感じます。
それをやってのけてほしいなあとは思うのですが、監督には今の所そこまでの問題意識はなさそうだなあというのが私の今の見解です。しかしナチュラルにそれが行われる日が来ることは期待したいと思っています。
▶個人的に楽しんだ点
以下は私が個人的に好きなポイントです。
・色んな種類の英語が聞ける
登場人物は結構多様です。キャットはイギリス上流階級、博士も特徴あるイギリス英語、セイターは(すごくわかりやすい)ロシア訛り、主人公はブラック訛りのあるアメリカ英語、アイブスはハッキリとしたアメリカ英語、ニールはヨーロッパ系の訛り、プリヤはインド訛り。発音やイントネーションだけでなく、いい言い回しの違いも特徴が分かれば楽しいと思います。
・何度も観ることで自分も時間を逆行してやり直している気になれる
しかし、「起こったことは起こるのだ」というしょうがない気持ちも実感することができます。
・逆行している時には音楽が逆再生される
IMAXで観る際にはとにかく音楽が、今回の場合は特に重低音がすばらしく良いです。逆再生シーンでは音楽も逆再生されているものが用いられています(最初のオペラハウスのシーンから!)今回は初めてテーマ曲を設けたというだけあって、それがどこで利用されているのか探すのも楽しみどころ。
気にしないと気づきもしないような効果音(ヨット滞在中の波の音など)もちゃんと入ってます!
・バスがいい感じに使われている嬉しさ
バスって悲しい出来事や惨めなことがあった後に、寂しげに乗ってたりするシーンが多いのですが、この映画の中では結構カッコよい感じで使われていたので、めちゃめちゃテンションあがりました!飛行機を飛行場に突っ込ませたり、プルトニウムを奪取するための秘密の作戦は、バスの中で話されていたって良い!
映画にでる公共交通大事!そこで作られるイメージも大事!
・シーンや関係性の対称性
意識的なのかどうなのかはわかりませんが、鏡合わせになっているのではないかと思うシーンや人物の関係性があるなあと思っています。
例えばキャット/セイター夫婦の関係性(夫が妻の立場や地位を利用する)のと、プリヤ/サンジェイ夫婦の関係性(妻が夫を利用する)という夫婦の関係の対称性。
バスの中で飛行機の作戦を話すニール/プルトニウム奪取のための車についての作戦を立てる主人公。
メタ的には、これまで主人公(白人)を助ける役割が多かった黒人のサイドキック(マジカルニグロ)の関係性を、反転させているのかな。
とかね。
▶まだわかんない点
・プリヤ、結局どうしたかったの?
アルゴリズムが揃うまえにセイター殺しても大丈夫だったのでは?でもこれ記録に残ってたらダメなのか?でもセイターに9つ集められるように仕向けたのプリヤじゃない?謎。
・エスプレッソ
なんであの時エスプレッソ頼んだの?笑
▶最後に
すでに何回も繰り返してい見ているガチ勢のこの方の、常に更新されるであろうこちらもおすすめです。
ま、細かいことなしに飛行機がクラッシュするのを「うおー!」って観たり(何度観ても気持ちがいい)、風光明媚なロケ地の風景を楽しんだりするだけでも、楽しいよね。
あと、色んな人が言っているように、このコロナ禍において映画館に人を戻す、そして同時期に同じ映画の話題で盛り上がれるという体験を作ってくれたことは大きいなと思っています。
とうことで、以上TENET考察・解説のまとめのまとめでした。
みなさまの理解の助けになりますように。