「モバイル」に暮らすということ#5:リノのスプロールへの大型解決策は「小さい」こと

リノのスプロールへの大型解決策は「小さい」こと

 この例はどちらかというと高級志向なタイニーハウスについてであり、家自体は物理的に動かない上に特に社会的な目的も表立ったものではないのだが、スプロール対策としての視点は面白いと思ったので、紹介したいと思う。

(記事:Reno's  big solution to sprawl is small

小さいけれどしっかりした家

 このネバダ州リノのタイニーハウスは、もともと駐車場だった場所に10つのタイニーハウスを建てて作られたコミュニティだ。そのコンセプトは、高級志向であることと、環境への負担を減らすことである。ここにある全ての家には立派な家具が完備されており、エネルギーが効率化されるようになっている。紹介されるのは一人暮らしの男性と、定年後に引っ越しを決めた女性だが、どちらも一人で住むには持て余すほどの広さがあるように見える。

 このコミュニティの始まりも、住宅供給危機である。(アメリカはサブプライムローン問題の影をまだまだ引きずっている。)この住宅は一般的な住宅価格の半分で、約2,300万($220,000)で購入できるという。…それでも半値なのか…とため息が出る価格だ。それでも、ある程度の収入や貯蓄があるのであろう彼らにとってはAffordableな家であるということだろう。ちなみに、この家にはそれぞれバックヤードとガレージがついてくる。

都市を埋めていく

 定年後にこれらの家の一つを購入した女性は、その理由として、「年をとって、より都心に近い場所で暮らしたいと思った」と述べている。年を取ると、移動は億劫になる。車の運転にも不安を感じるようになるだろう。となれば、近くでほとんどのものが揃う都市的な環境に住まうことは、大変合理的な選択だと言える。東京も、いずれ高齢者の移住者が増えるという説もある。日本語の「まちなか居住」のイメージに近いだろうか。少しゆとりのある郊外的なライフスタイルと、都市的な環境の利便性を享受することができるのなら、非常に理想的だ。

 ネバダ州としても、このように小さな家を都市的な空間の中に配置することに対して好意的であるようだ。これまでの「家を持つ」イメージは、やはり郊外で、庭付きの一軒家というイメージだが、タイニーハウスであれば、隣家との距離や用途のない庭を必要としない人々にとって効率的だ。動画の中では「Urban filling」という言葉で表現されている。都市の建物と建物の隙間を埋めていく(fill)というイメージだ。

 スプロールというのは、建築物が無秩序に広がっていってしまうことである。ざっくりとした流れは、静かな環境を求めて都市の周縁に住宅が建ち始める→商業施設などもできる→そこからまた派生的に周囲に住宅地が広がっていく という感じだろうか。このように薄く広くばらばらに開発が広がってしまうと、水道や電気などのインフラ等の管理にコストがかかってしまう。また、自然が切り開かれて環境が変わっていくことは言わずもがなだ。

 この点で、小さな家やそのコミュニティを都市に増やすということは、確かにスプロール対策の一つになりえるのかもしれない。通常もともと密集している主に大陸の都市においては、Urban boundary(都市の拡大境界線)という都市のリミットが決められている例もあるがこのように砂漠地帯の広いネバダ州では、郊外がどこまでも広がっていってしまう危険性がある。しかし、スポンジのように穴が空いた都市の中に小規模な家を配置すれば、人口も戻ってくるため、都市の経済としても活気を取り戻すことができるかもしれない。もちろん、余計な土地を開発する必要もなければ、非効率的な公共工事の必要もなくなる。行政にとっても、自然環境にとっても利益があることだろう。

都市と郊外のハイブリッド

 都市の暮らしはうるさい、ごみごみしているというネガティブなイメージが先行するが、あえて集合住宅を解体し、このような小さい家のコミュニティを配置するということで、ミニチュア郊外空間を生み出すこともできるのかもしれない。東京のような都市では想像しにくいが、地方都市やその衛星都市程度の規模なら無理も無いかもしれない。都市と郊外のハイブリッドのような形態だ。人口減少が進み、空き地や空き家が増えている日本にとっては、現実的で想像しやすい例かもしれない。

 以上、CURBEDの特集記事に紹介されているタイニーハウスのつくるコミュニティについて、3つのアメリカにおける実例を紹介してきた。次の最後の記事では、最初に挙げた疑問に対する考察をまとめたい。

>次の記事:「モバイル」に暮らすということ:まとめ


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