元Netflix最高人事責任者 Patty McCord (パティ・マッコード)氏によるキーノート「企業文化の改革は次なる経営戦略の切り札になり得るのか」の全貌
この記事はなにか
NewsPicksが主催する、人事・経営企画向けカンファレンス「Next Culture Summit 2019〜企業文化を経営戦略として問い直す〜」が12/10に虎ノ門ヒルズフォーラムにて開催されました。本記事は元Netflix最高人事責任者のPatty McCord氏によるキーノートセッションをまとめたものです。英語でのスピーチを和訳しているので、途中意訳の部分があるむね、ご了承ください。間違っている箇所ありましたら、TwitterでDM頂けると嬉しいです!
「Next Culture Summit 2019〜企業文化を経営戦略として問い直す〜」カンファレンスについて
エンタープライズ企業の組織活性化・人材育成といった課題解決を、テクノロジーとコンテンツの力でサポートするNewsPicks for Business主催のもと、「企業文化を経営戦略として問い直す」ことをコンセプトとしています。
経歴について
Netflixに創業当初から参画し、人事制度や企業文化づくりを進めたパティ・マッコード氏が、この不確実な時代に求められる人事としての視座について語られました。モデレーターは佐々木 裕子氏が行いました。
Patty McCord (パティ・マッコード)氏 元Netflix最高人事責任者で、「NETFLIX CULTURE DECK」の共同執筆者。サン・マイクロシステムズで人事のキャリアを始め、Netflixに創業時から参画。時価総額15兆円、世界190カ国で展開するNetflix社の企業文化づくり、人事戦略を牽引。現在は企業文化やリーダーシップについて複数の企業や起業家へのコンサルテーションをしながら、世界中で講演活動を行っている。著書には、「NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く」がある。
NetflixのカルチャーDeck
Netflixの企業文化や社員の行動規範を定めたカルチャーガイドのこと
ここからKeynoteセッションのまとめ
会社は家族というけれど、実際は違う。会社はチームだ
Netflixはアメリカで1997年に創業され、当時はシリコンバレーには多くのスタートアップが誕生し、景気がよく、顧客が増え、社員が増えるそうした時代だった。極めて資本主義的なやり方で大きくなった。その後、資金繰りに窮し、最も有能な社員80人を残して、その他の人材、技術畑に明るくない人を含めた当時の人材の30%を解雇しなければならない経験をした。
その大量解雇の後、2001年のクリスマスにビデオショップでDVDが安くなるキャンペーンの際にNetflixが無料で楽しめるクーポンを入れたらどうかという案が出た。
「会社は家族ではない。チームで勝たなければならない。」
覚悟を持って、戦略に打って出ないといけない。99ドルでDVDを売って、そこにNetflixのクーポンを入れて販売した。そのあと、Netflixは急成長した。
当時、大量解雇の後で人材が少ない中、仕事量は2倍になったが、優秀でパッションをもった人たちで仕事を回すことができた。
その時に、気づいたことが、次のことだ。
「適切な人材、情熱を持った人たちがいて、お客様のために我々は勝たなければならない」
「事業の目的はお客様に役立つもの、お客様に仕えるものでなければならない」
「組織のためだけに注力してはいけない。勝つためにどうしたら良いのかを考えなければならない」
カナダのアイスホッケーのチームの伝説的な選手と話したときに、彼は試合の前に統計的なデータを使って、相手の分析をしてから戦うことを知った。彼に、年に一度の人事考課が嫌いなんだという話しをしたら、従業員の業務成績や能力・業務への取り組みの評価のような大事なことはもっと定期的にやり、その場でフィードバックするべきだと言った。
改めて認識したことが、「チームに関わっているのは大人であること。貢献できる才能豊かな大人が会社に入ってきているのだから、人々に権限をあげて、一人の大人として扱う」そう決めた。
そして、組織として成功するために、10年かけて、企業文化を文章化したカルチャーデックを作った。
これは、文化を文章化してNetflixみたいになったらいいというわけではない、イノベーティブでスピードのある会社になりたければ、今まで当たり前だと思っていることを再度考え直さなければならない。
勝つ文化をつくるためのタレントと配置
チームとして考えなければならないことは、6ヶ月後にはどうなるのか、6ヶ月後の姿をいつも考えることだ。
そして、現状を正しく把握(お客様データ、売上、現状できていることなど)したうえで、6ヶ月後の姿になるためにどのように意思決定ができるかを考える。目的を達成するためには6ヶ月で何をしなければならないのか。一歩下がって、具体的にこれをしなければならないために何をするのか。成功するために何をするべきなのか。
Netflixでは、財務の人が売上などすべての数字を見ていて、経営戦略で売上の向上を話し合う。およそ10年前に、HBOより大きくなる、それが自分たちが生きている間に達成できるという話しになった。そうなるとアメリカのインターネットトラフィックの1/3をNetflixが占めることになる。それだけのトラフィックを処理するためにどうしようという話しになったっときに、優秀なエンジニアに会いに行ったところ、クラウドを作ればいいと言った。10年前はクラウドは斬新な発想で、今いるチームだけではできないから、できるならやってくれとその優秀なエンジニアを採用したのだ。
ここから学んだことは、適切な人が適切な場所で適切にやるべきということだ。才能というのは、実績をあげている人だけではなくて、人が適切な場所で適切な仕事をしたときに発揮される。
1週間に1度何か大きなチャレンジをすれば良い
世界中でイノベーションを起したいという企業はたくさんいる。日本は過去に様々な革新的なことをしてきた。これからは急速に変化していかなければならない、小さなチームでスピーディーに変わっていかなければならないと考え方を変えていく必要がある
以前、アメリカの大手銀行(7人の取締役に25万人の社員)の戦略会議に参加したときに、今後若い人向けに銀行の旧来の体質を変えていくためにどういう戦略を打つべきかという議論になった。銀行は旧体質だとみられていたので、大きな文化の変革をしないといけない。
当時、私は35歳で、どうすれば社員が喜ぶか、どうすればいいチームを作れるか、どうすればチームを変革できるか分かるから、それを実行するために権限移譲をしてほしいと頼んだ所、CFO・CEOができないといった。それには、30人からの承認が必要だからだ。
変わるために(Transformationするために)越えなければならないブロッカーはたくさんある。
そこに対して、一歩下がって、「なんでこれ、そもそもやっているのだっけ」というのを考えなさないといけない。
人事考課でチーム変革を提案すれば受けれいてくれるだろう、でも直感的にシステムを作ったり、今まで通り1年分のパフォーマンスを1年に一度の人事考課で振り返っても本質的にはかわらない。
経営を動かすためには、そもそも何をやりたいのか、その予算の上限が正しいのか、組織においてどういう影響があるのか、それがビジネスにどれだけの良い影響を及ぼせるのかを考えて動かすことが大事だ。
大切なことはコンテキストをあわせること
会社には頭がいい人、大人が集まっているのだから、自由を与えたときに最適解が導ける。
みんな、お客様が何を欲していて、市場で勝たなければならないこと、自分たちがどこまでできるか分かっている。だから、どういうふうに考えないといけないよというのを教える必要はない。良い決定をするためには、共通したコンテキストが与えられている必要がある。
失敗を喜ぶのではなく、実験することが大事
何かチャレンジをするときは、仮説の正しさを検証するといい。
様々な人の取り組みがあり、なぜそのやり方を選んでいるのか、別のやり方があるのではを考えることが大事だ。
一回目やって上手くいかないことはいい。上手くいかなかった理由を分析し、そこから学ぶことが大事。学びを抽象化して、組織に導入していけばいい、それが組織の筋肉になるのだ。
前回ダメで、今回を恐れるのではなく、分析して、再度仮説をたてて実験をして上手くいったら、成功を喜ぶ。良い判断をするためにはコンテキストはトップダウンで提供し社員の認識をあわせる必要がある。その上で、社員は時間を最大限に活用し、勇気をもってあたらしいものに取り込むこと、それが最善のやり方だと思います。
後半の対談**
企業文化が経営に大事だと認識していても、なかなか成功している企業が日本にはない。Netflixはどう企業文化を築いていったのか。
数千人の人たちが変化に取り組んでいくために、アメリカ以外でどう実現していくのかをNetflixは考えている。いつも先をみつめて、どうしたらもっと一歩先をいけるのかと考え続けられている。
カルチャーデックも10年かけて、少しずつ一歩一歩作ってきた。
一番最初に踏み出したきっかけは、CEOが書き留め、それの考え方をみんなにシェアして、意見を求めた。
オフサイトミーティングをやって、ミッション・バリューの話ではなく、それとは別に具体的にどういう行動をお互いに期待しているかを話し合った。
カルチャーデックはオンボーディングで配るもの、我々がこういう仕事をしていると記すものとして記載されている。
書き止めて、共有して、意見のやりとりをする、これがいいやり方の一つだと思う。カルチャーを構築したいと思ったときに、何が強みなのかを話し合っていくことが大切。企業にはすでに機能しているものがあるから、具体的に何が強みなのかを考えて、全てを180度変えようとすることではない。
現場の意識を含めたうえで、具体的にはこうなんだというのをドキュメント化して、書き留めて、配布し、全体でコンセプトをあわせていく。新しいものをやるとき、どうしたらいいのか分からない、正しいことしていることは分かる。ただそこにコンテキストがあるということが無かったりする。つまり根拠がなかったりする。
私の場合は、プロダクトづくりをやっている人から学んだ。人事もアジャイルプロセスと同じ。プロダクトづくりと同じ。
例えば、映像の話しでいうと、ストリーミングできるようになるのも5年かかっている。人事も同じ、ここに行きたいというのを立てて、逆算して今どこにいるから、どれくらいかかると認識して、徐々に一歩一歩イノベーションを重ねていく。それが大事だ。
社員はみんないい仕事したいって思っているから、信頼すれば、みんな正しい判断をして、正しい行動をしてくれる、変なことをする人はいない。
ネットフリックスで企業文化を作るときに、注意したこととしては、Googleみたいにはならないように意図的にした。Googleは時間の20%を自分のやりたいプロジェクトをやっていいという自由がある、それでGoogleにはイノベーションがたくさん起きた。それは、Googleの会社の目的というのが、世界の問題を解決するという事業だからだ。
ネットフリックスは映画の会社、業界を絞り込んだ会社。
特定のこの問題を解決したいということであれば、その問題にフォーカスしている人を雇っている。
Googleも今では、Netflixを真似したかは分からないけれど、特定の領域に絞り込んだ小さい会社をどんどんつくっている。こうして企業文化も変化していく。ただ、逆に自由を与えすぎて失敗するケースもある。
例えば、Uberは企業文化として規制に注力しなかったため、自由を謳歌するドライバーをコントロールしきれなかった。グローバル企業としての振る舞いができなかったのだ。
日本はスタートアップで始まって大きな企業に成長している会社がたくさんある。企業文化をスピード感もって変えていくための前提はあるか?
Spark、ひらめきをみつけることは大事。過去はどうだったのか、グローバル企業になる前はどうだったのか、最初の日々を覚えている人がいることはとても大切。
そして、ボトムアップとトップダウンの両方が大事。
トップダウンは明確に何を変革するのか示す必要がある。
ボトムアップはお互いに意見が違うことがあったうえで、これまでやったことないことを実験をしてやってみることが大事。
もし、2万人の大企業の中間管理職だったとしたら文化を変えていかなければならないとき、トップマネジメントは何をすればいいのか?
ビジネスケースを用いて、社員がこれだけハッピーでない、その理由として具体的に競合他社からこれだけ遅れているからだ、なぜなのかという調査をし、根本原因を見つける。データをもとに実験をして、全く違うことをするとこれだけ変わるというビジネス・ケースを作っていくことが大切。
(おわり)
感想
メルカリでは、企業文化を創業間もない頃から意識して作られていて、オープンで信頼をするカルチャーが自然と醸成されています。Googleを成功事例としてベンチマークすることが多いのですが、なぜそれをやる必要があるのか、それがメルカリにとって本当に意味があることなのか、を個々が考える習慣があることはメルカリの強みだと思いました。
カルチャーの醸成やその言語化は数年でできるものではなくて、徐々にアップデートをして、みんなと意見交換して作られるものです。経営やコーポレートのマネジメント層だけで作るのではなく、プロダクトをつくる現場の社員みんなと意見交換しながら作っていくことが、カルチャーの言語化で、それを先導するのが人事なのだと思います。
ネットフリックスも試行錯誤しながら、皆んなで一歩一歩少しずつ作ってきたというのを聞いて勇気が湧きました。人を信じて権限移譲することはとても覚悟がいることです。覚悟もって勝つために、会社がチーム一丸となって考え続けて、誰かの真似をするのではなく少しずつ作っていく、それが大事なことなんだと学びでした。
私もまだまだですが、頑張っていきたいです!
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