日本の食卓からお米が消える?空想移民読本第2章「もし、農家から移民が消えたら」
「空想移民読本」第二章!農家から移民が消えた世界は一体どうなってしまうのか?
私たち日本人が毎日おいしく食べているお米や野菜。
それらを生産する日本の農家は、長年深刻な人手不足に悩まされています。そんな農業の現場でもまた移民が活躍しています。
空想移民読本では「もしも移民がいなくなってしまったら、日本はどうなるのか?」という切り口で各産業の課題を考察していきます。農業から移民が消えてしまうと一体どうなってしまうのでしょうか?
【空想移民読本序章】わたしたち日本人は、どれくらい移民に助けられているのかデータから現状を知ろう。はこちらから
農業の就業者数は10年間で38万人が減少
まずは日本の農業が抱える課題を見ていきましょう。
農業の人手不足は年々その深刻さを増しており、国勢調査の結果によると2010年から2020年までの10年間で就業者人口が38万人減少しました。
さらに、就業者人口の減少率は年々加速していて、2010年→2015年では約7%の134,805人が減少、2015年→2020年の5年間では約12.5%の247,039人が減少しています。
就業者人口減少の背景にあるのは少子高齢化です。出生率が大幅に改善するなどしない限り、今後もこの傾向は顕著になっていくのではないかと思われます。
20〜39歳の若い世代では8人に1人が移民
そして、そんな農業の分野では約3.3万人の移民が働いています。
特徴的な点は、特に20歳~39歳の若い層で移民への依存度が高い点です。
上記は2020年の国勢調査の結果をもとに世代別の依存度をまとめた表です。
特に働き盛りの若い世代で移民の依存度が高い点が見て取れると思います。20~39歳では12.5%(8人に1人)が移民です。
これは、農家で働く移民の9割が技能実習生なので若い人が多い点や、農業の就業者は大半が高齢世代で相対的に若い世代の人数が少ない点が要因として挙げられます。
「後継者不足による高齢世代の閉業」が深刻
以下は世代別の就業者減少率を表した表です。
若者の農業離れが叫ばれていますが、実は全体の減少率の平均と比較すると若い世代の減少率は相対的に高くはなく、むしろ増加している年代もあります。一方で、高齢世代の減少率が顕著に高いことが見て取れます。
これは日本の多くの農家が一般企業等と異なり、個人もしくは家族の運営によって成り立っていることが理由として挙げられます。
上記は2020年の国勢調査の労働状態調査を独自に抜粋してグラフ化したものですが、農業就業者のうち約7割は雇用者を持たない業主もしくは家族のみで運営している農家です。
この構成比と高齢世代の就業者数の減少から推察すると、代々農業を営んできた家系で後継者が見つからずに、ひっそりと閉業していく農家が増えているということが想像できます。
移民は増加傾向。人手不足の農家で貴重な働き手に
働き手が減少し続ける農業分野で、逆に増え続けているのが「移民」です。
以下は国勢調査の結果から独自に集計した農業分野で就業する移民の推移を表したグラフです。
冒頭で述べたように全体の就業者数が2015年から2020年の5年間で12.5%減少したのに対し、農家で働く移民の数は65.8%増加しています。
農業は特定技能の対象業種にも指定され、2024年までに最大36,500人の受け入れを目指しています。そんな農業からもし移民が消えてしまったら、日本は一体どうなってしまうのでしょうか?
2060年には就業者数が10万人以下に
まず、農業分野で就業者数の減少に歯止めが効かずに働き手が減り続けてしまうケースの試算をしてみましょう。2015年~2020年の就業者の減少率(12.5%)が今後も続くと仮定して就業者数の推移を算出したのが以下のグラフです。
このグラフによると2035年には農業の就業者数は100万人を割り、2060年には10万人を割り込んでしまうという衝撃的な数字となっています。
技能実習の若い働き手がいることで閉業を免れている農家も多くいるでしょうから、移民がいなくなってしまうと特に高齢の就業者数は更に顕著に減少する可能性もあります。
これはあくまで単純計算ですが、若者が減り続けて後継者問題を抱える高齢の農家が閉業していく構図は不可逆です。そのため、移民の活躍やその他の手段によって抜本的な人材不足問題の解消がされない限り、現実になる可能性は高いと考えられます。
食卓から日本のお米が消える
それでは、日本国内で農家の数が減少することでわたしたちの生活はどのような影響を受けるのでしょうか?
元々食料自給率が低い品目(豆腐の原料となる大豆や、牛肉、豚肉など)は、相対的に影響が薄く、すぐには実感が湧きにくいかもしれません。
私達の生活で直接的に実感として影響が出るものは食料自給率が高い食品でしょう。自給率が97%にも上る米や、79%の野菜は顕著に影響を受けるはずです。
日本産のお米が手に入らなくなったり、国産の野菜の値段が高騰するなどが考えられます。「和定食にパン」がついてくる未来もないとは言い切れませんね。
自給率の低下や農地荒廃で有事のリスクが増大
さらに、自給率の低下は国際的な有事の際のリスクとも隣り合わせです。世界的な不況に陥った際には歴史的にも自国優先の政策が取られることがあり、自給率が低い品目は価格が高騰したりする可能性が高いです。
そして、農家が減少することで耕作放棄地が増えるでしょう。
耕作放棄地が増えて元々農地だった土地が一度荒廃してしまうと、すぐには農地として活用することができなくなります。そのため、深刻な不作などで食料危機に陥るなどの緊急時に政策で農業従事者を増やしても、作物を収穫するまでにある程度の時間がかかってしまいます。
それだけではなく、耕作放棄地は不法投棄の温床となったり雑草や害虫が発生して近隣住民に悪影響を及ぼす可能性もあります。
在留期限の定められた移民が増えても本質的な課題解決にはならない?
ここまで記事を読んでいただいて、「人手不足がここまで深刻だと、移民の数を増やすだけでは追いつかないのでは?」と感じた読者の方も多いのではないでしょうか。
これまで見てきたように「家族経営」「雇人のいない業主」の農家が中心で、後継ぎのいない高齢な世代の閉業によって農業人口の減少は引き起こされています。技能実習を始め、ほとんどの在留資格には在留期限が定められているため、現状のまま移民の数が増えることは「後継者の育成」には繋がらず、今のままでは本質的な解決には繋がりません。
少子高齢化という不可逆な流れの中で、移民を「若い働き手」としてではなく、日本の将来を一緒に支えるパートナーとして長期的な目線で迎え入れていくことが必要なのではないでしょうか。
次回テーマは「もし、製造業から移民が消えたら」
今回は一次産業の農業から移民がいなくなったら、というテーマで考察してきました。次回は製造業から移民がいなくなったら日本はどうなってしまうのか考察していきます。
最も多くの移民が活躍する製造業では、どのような変化が予測されるのでしょうか。次回もご期待ください。