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made in Japanが消える。空想移民読本第3章「もし、工場から移民が消えたら」
「空想移民読本」第三章!製造業から移民が消えた世界は一体どうなってしまうのか?
食品や自動車など、私達の日々の生活を支える商品をつくる日本の工場では多くの移民が働いています。
産業別に見てみると、日本で働く移民の中で製造業の現場で働く移民の数は最も多いです。
そんな製造業から移民が消えてしまうと一体どうなってしまうのでしょうか?
▼【空想移民読本序章】わたしたち日本人は、どれくらい移民に助けられているのかデータから現状を知ろう。
働く移民の26.6%が製造業で働いている
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「外国人雇用状況」の届出状況まとめによると、2022年10月末の時点で製造業で働く移民の数は485,128人です。産業全体で働く移民の数は1,822,725人なので全体の26.6%を占め、構成比は全産業の中で最大です。
製造業の中でも特に「食品工場」と「自動車工場」で活躍
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製造業と一口に言ってもネジのような部品を始め様々な金属を加工する「金属製品製造業」や、「繊維工業」のようにその種類は多岐にわたります。特に移民の活躍が目立つのは「食料品製造業」と、「輸送用機械器具製造業」つまり自動車工場の2つです。
食料品製造業では147,910人の移民が働いており、製造業で働く移民の30%にも上ります。次いで多い輸送用機械器具製造業では84,232人が働いていて、全体の17%を占めます。
製造業で働く移民は技能実習の他に日系人が多いのが特徴
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製造業では技能実習の在留資格で働く移民が最も多く、全体の約1/3にあたる167,702人が技能実習生です。その他特筆すべきこととして「定住者」という在留資格で38,367人の移民が働いています。定住者とは主に歴史的に南米の比率が高い「日系人」のための在留資格です。
日本はかつて移民の送り出し国だった。
歴史的な背景として、日露戦争後の不況で働き口に困った日本人がペルーやブラジルに渡ったことに端を発して、第二次世界大戦後までで約72万人を超える日本人が南米に移住しました。実は以前の日本は政府主導で「移民の送り出し国」だった歴史があるのです。
経済成長と南米諸国のインフレにより日系人を受け入れる
一方戦後の経済成長によって南米と日本の経済状況は逆転し、インフレで職がなくなり苦しむ南米諸国に対して日本は労働力不足という需給が合致したことで、1990年に入管法が一部改正されて日系人はその配偶者及び未婚未成年の子供までが「定住者」として日本に滞在できるようになりました。
その結果ブラジル、ペルー、ボリビア、アルゼンチンを中心とした日系南米人がたくさん日本にやってきたのです。
群馬県大泉町の工場では多くの日系人が活躍
味の素社やパナソニック社の工場がある群馬県の大泉町は、人口の約20%が外国籍の方で占められています。
これは日系人受け入れを政府が推進していた当時、町長の提案により町主導で外国人労働者の受け入れ態勢を作り上げたことに由来します。2023年時点で、味の素社の工場ではなんと従業員の3割が移民のようです。※注1
製造業の就業者数は20年間で157万人も減少。有効求人倍率は2.06倍と非常に深刻
これまでの連載で見てきたように、少子高齢化による労働人口の減少によって多くの産業が人手不足に苦しんでいます。製造業も例外ではなく、厚生労働省の「2022年版ものづくり白書」によれば2002年に1202万人いた製造業の就業者数は2022年には1045万人に落ち込みました。
さらに、厚生労働省が発表している全国平均有効求人倍率によれば、2023年9月時点で製造業の有効求人倍率は1.73倍です。有効求人倍率は1倍を超えると求人数が求職者を上回っているということを意味します。全産業の平均が1.36倍ですので、その深刻さがよくわかります。
製造業における日本人就業者数は減少の一途。2060年には500万人を割りこむ
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また、国勢調査によると製造業で働く日本人の数は2015年から2020年の5年間で637,848人減少しており、5年累計で約7%のペースで日本人就労者が減っています。
今後同様のペースで日本人の働き手が減少していくと仮定すると、2060年には製造業の日本人就労者数は500万人を割ってしまい、現在の半分以下の人数となってしまいます。
ではそんな働き手不足が深刻な製造業から移民がいなくなってしまうと、一体どうなってしまうのでしょうか?
多くのメーカーが製造拠点を海外に移すことで、made in Japanの製品が消える?
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製造業が深刻な人手不足に陥ると、日本のメーカーの需要を支えるだけの生産が国内で賄えなくなります。その場合、多くのメーカーが自動化によって生産効率を引き上げることで、必要な人員数の削減を目指すことでしょう。
これにはすでに多くのメーカーが取り組んでいて、例えばダイキン工業は生産工程において、従来目視で取り組んでいた検品をAIの画像解析技術を駆使して自動化・高精度化するなどして、生産効率の改善に取り組んでいます。※注2
他方、生産効率の改善を上回るペースで人手不足が深刻化する場合には、規模を縮小して事業継続するか、生産拠点を国外に移して生産コストを下げるといった選択を迫られるでしょう。
多くのメーカーはすでに海外の生産拠点を持っていますが、ここでいう「生産拠点を国外に移す」とは「日本のメーカーが日本市場向けの製品を海外で生産する」状態を指します。
例えば、中国や韓国を含む東アジア圏に輸出する製品を日本で製造していた企業が、中国に生産拠点を持ち、日本を含む東アジア圏に対して輸出をするようなイメージです。
海外生産による品質低下の問題
生産拠点を国外に移すことで多くの問題が発生します。
最も大きな問題の一つは品質低下の問題です。海外の生産拠点で”made in Japan”と同等の品質を保つことは容易ではありません。また、海外と一口に言ってもアジア圏だけでも中国から東南アジアま幅広く、管理の難易度も多様です
納期や品質に対する意識が異なる地域で、ゼロから教育して高品質な製品を作れる拠点を作り上げるのは並大抵のことではないと言えます。
コスト面のリスクも無視できない
更には関税や為替の関係から、コスト面の問題が発生します。現在日本円は歴史的な円安に直面していますが、海外に生産拠点を移すことで日本人が購入する様々な製品が為替の影響を受けやすくなります。
小規模企業では「人手不足倒産」も
また、メーカーと一口に言っても、生産拠点を海外に移す資金体力のある企業ばかりではありません。
むしろ製造業は中小企業の比率が圧倒的に多く、小規模企業が全体の約90%で大企業は全体の1%もありません。生産拠点を海外に移せない企業ではその多くが人手が集まらずに「人手不足倒産」に陥る可能性があります。
さらには、資金体力があるメーカーが海外に生産拠点を移すことで、国内工場の生産を支えている部品メーカーは納品先を失い大きな打撃を受けます。
背景には、海外生産では納期を安定させたり為替の影響を減らす目的で現地の部品を使うことが多いことがあります。
結果的に日本の製造業は、人手不足により産業自体が衰退してしまう危険性をはらんでいると言えます。
移民は人手不足の救世主になりうるのか?
ここまで「コンビニ」「農家」「製造業」から移民が消えたら日本はどうなるのかを考察してきましたが、業界をまたいで共通する課題が見えてきます。
少子高齢化を背景とした日本の人手不足は不可逆であり、今の移民政策の考え方の延長線上で移民の数が増加していく程度では立ち行かず、産業の構造が変わってしまうほどの打撃を受けうるということです。
今日本で働いている移民が居なくなってしまえば当然困りますが、試算を見る限り彼らが日本で働き続けてくれてもおそらく本シリーズで指摘している諸問題は遠くない未来に発生してしまうことでしょう。それほどまでに日本の人手不足は深刻だと言えます。
そこで次回は少し趣向を変えて、「移民が増えると日本はどうなるのか?」をテーマに検討していきます。