小説家チャレンジ20日目。
まゆみが受かったのは県内の大学だった。静岡との県境にある実家から、ほぼ東京にちかい横浜まで通うことになる。毎朝通学に2時間かかった。
地元の高校に通った3年間は、家から40分の電車通学がキツくて、まいにち遅刻していた人間が、大学に受かったとたん毎朝早起きして、通学するようになった。高校は決められた制服をきて刑期を全うする囚人のような気持ちで学校に行っていた。まゆみが高校に行けなくなった理由のひとつが服装で、規則どおり、毎日おなじユニフォームを着させられていることが耐えられなかった。
朝の通学時に高校の正門のところに、教師が2人たっていて、服装をこまかくチェックする。女子は中に白いシャツを着ることになっていたが、それが少し茶色がかっているとダメだったり、靴下の色までうるさく言われた。別に髪を染めたいわけでも、スカートを短くしたくもなかったけど、学校で勉強することと、服装に何が関係あるのか、全く理解できなかった。心の底からナンセンスだと思っていたし、強制されたお仕着せをきていることで、じぶん本来のエネルギーが出せず、とにかく気分が悪い。まるで拘束服を着せられてるのと、全く同じ感覚だったのをおぼえている。けっきょくそれに3年間あまんじた。
それに比べて大学はまず何を着ていってもよかった。それだけでカゴから放たれた鳥のような開放感。きらいな数学も物理もない。自分の好きな文系の教科だけ勉強すればよく、しかも自分で講義を選べるのもうれしい。まゆみは小学校いらい、はじめて学校生活がたのしくなった。
まゆみにとって「選択できる」ことはすごく重要だった。いちばん苦手なのが「だまって皆と同じことを同じようにやる」こと。それはそのまま昭和の日本の常識、システムの根本になっていて、そういうカルチャーに自分がぜんぜんハマってないことは、自分が一番よく分かっていた。そしてその世間とのギャップは、大学在学中にどんどん大きくなっていった。