小説家チャレンジ17日目。
あることがキッカケで、去年ぐうぜん知り合ったりーちゃん。東京出身の20代の女子。彼女は別の州でカナダの大学を卒業したあと、キャンパスのあった街を離れて、ウチに引っ越してくることになった。わたしたち家族4人と、りーちゃんと、彼女のネコと同じ屋根の下で暮らすようになって、もう1年ちょっとになる。
りーちゃんは2019年の11月に、就活のため私たちの住む州に引っ越してきた。たまたま私の知人に、彼女の専門分野の仕事をしている日本人女性がいて、2人がどう会社にアプローチするか話しあっているさなかに、コロナウィルス拡大のニュースが入ってきた。そこでいったん仕事探しは全てホールド状態になってしまい、彼女はカナダで状況の経過を見守るしかなくなった。
事態は思ったように回復せず、そのうちカナダから日本に帰るのもむずかしくなった。飲食店やモールが閉鎖され、りーちゃんは家で編み物をしたり、オンラインで勉強していることが多くなる。
昨年末に、コロナ感染予防対策で、外食・来客・パーティーすべてが禁止になってからは、家族以外の人とまったく交流できなくなり、私たち一家も、同居人のりーちゃんとすごす時間がしぜんとふえた。
サンクスギビングやクリスマスなどイベントはもちろん、いっしょに晩ごはんを食べて映画を見たり、自閉症のJJの子育ての相談にのってもらったり、りーちゃんのおかげでゆううつなステイホーム期間も、和やかにすごすことができた。
これだけいっしょにいると、もう家族の一員、まるで娘みたいになって、上の息子タラちゃんは彼女といっしょにゲームして遊んだり、私たち夫婦が急な用事で出かけるときは、彼女に子どものベビーシッターをたのんだりしている。
そのりーちゃんもこの1月いっぱいで、とうとう日本に帰ることになった。このままカナダにいても、専門分野での仕事はとうぶん募集がない。いったん実家にもどって、今後の人生設計を練り直す時期がきたようだった。
彼女の帰国の日が近づくにつれて、私はだんだん元気がなくなっていった。自分がお茶を飲むときはいつも2人分いれて、部屋にいるりーちゃんにもっていったり「いいにおいがしてるな」と思ったら、焼いたチーズケーキをふるまってくれたり、タラちゃんが元気ない時は、彼女のネコちゃんと遊ばせてもらったり、日々の何気ないたのしいひと時がもうなくなってしまう。
リビングにりーちゃんのスーツケースが用意され、とうとう今日の朝、帰国の日がきてしまった。子ども2人を学校におくったあと、夫とふたりで彼女の見送りに空港まで行く。カウンターでチェックインが終わるのを待って、セキュリティまでいっしょに歩いた。事前に用意すると悲しくなっちゃうので、わざと送別会もせず手紙も書かなかった。
りーちゃんもエモーショナルな展開にならないように「最後までいろいろありがとうございました」と挨拶をすると、クルッと前を向いてゲートの方へ歩いて行った。帰宅すると、誰もいない家がいつもよりガランとしており、キレイに片付いたりーちゃん部屋のベッドには、キチンとたたまれた寝具がポツンと置かれていた。