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向日葵の咲かない夏【#レビュー #道尾秀介】

はじめに

文色みちがnoteで書くレビュー(考察ではなく、作品の感想)は、あくまでも個人的な意見です。基本的には「スキ」と感じた作品をレビューするため、批判的な内容を書くつもりは一切ございません。冒頭に書くレビューはネタバレ無しです。ネタバレになるような内容は有料記事として下記に書きます。もしご覧になって、続きが気になると思っていただけたら購入していただけると大変嬉しく思います。
以上のことを踏まえ、ご覧いただければ幸いです。

作品のあらすじ

夏休みを迎える終業式の日。先生に頼まれ、欠席した級友の家を訪れた。きい、きい。妙な音が聞こえる。S君は首を吊って死んでいた。だがその衝撃もつかの間、彼の死体は忽然と消えてしまう。一週間後、S君はあるものに姿を変えて現れた。「僕は殺されたんだ」と訴えながら。僕は妹のミカと、彼の無念を晴らすため、事件を追いはじめた。あなたの目の前に広がる、もう一つの夏休み。

出典:Amazon

著者の紹介

1975年東京生まれ。04年『背の眼』で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、デビュー。07年『シャドウ』で本格ミステリ大賞、09年『カラスの親指』で日本推理作家協会賞、10年には『龍神の雨』で大藪春彦賞、『光媒の花』で山本周五郎賞を受賞。『向日葵の咲かない夏』は、オリコン調べによる“09年度で最も売れた本”となる。最近では、月9ドラマ『月の恋人~Moon Lovers~』(CX系)の原作を書いたことでも話題に。

出典:Amazon

レビュー(ネタバレ無し)

この作品に出会ったのは、高校生のころ。初めて読んだときの衝撃は、「こんなのあり!?」というものでした。正直当時はそこまでミステリー小説に対する経験値が少なかったのもあるのですが、小説でここまで驚きと興奮を覚えたのは初めてでした。
他の方の書評などを見ると賛否両論ある作品ではあるのですが、賛しかないような作品って逆にあり得ないとも思っているし、それだけ読まれている作品ということ自体が、この作品の評価となっていると考えてます。

賛否の否の理由の多くは、この物語が悲惨で残酷な描写があることがひとつの理由とも言えます。もちろんハッピーなお話がスキで、暗い話が苦手という方にはあまりオススメできない作品かもしれません。
ただ、それでもオススメしたいのは、悲しい話でも見方(捉え方)を柔軟にすることでそこに救いを感じられる作品でもあるのです。

少し内容に触れますが、『向日葵の咲かない夏』の物語は一人称の「僕」ことミチオという少年の視点で話が進んでいきます。
あらすじにもあるように、クラスメイトで友人のS君の家を訪れたとき、首を吊って死んでいるS君を見つけたのも束の間、S君が別の姿になって現れ自分を殺した犯人を探すことになります。

正直、あらすじを読んだだけでは、「はて?」というように思うかもしれません。友人が死んで、別の姿になって現れる。もしこの物語がSFやファンタジーといったカテゴリーであるという前提なら、特に疑問を持たないのかもしれません。しかし今作品は、強引にカテゴライズするならミステリーやホラーとも言えます。

とはいえ、この物語は「妙」です。通常のミステリーとは何かが違う。そう途中途中で違和感を覚えながら読み進めます。登場人物が皆、何かがおかしい。
私はこの物語を読みながら、「これはいったいどういうことなのだろう」と首を傾げながら思っていました。よくミステリーでは謎が謎を呼ぶといった展開もありますが、この物語は違います。私の言葉で表現するなら、違和感が違和感を生むといった感じでしょうか。
ミチオ少年の視点で語られる物語。だからこそ、その違和感が本当に違和感なのかさえ疑問を抱いてしまう。

読者によっては、先の展開を予測しながら読む方もいると思います。その予測を裏切られることや的中すること、そういったワクワク感も味わえます。
ただ、私は見事に裏切られ、裏切られ、裏切られまくりました。

この物語のテーマとして「生まれ変わり」があります。詳しく話すとネタバレになってしまうのですが、あらすじにあるようにミチオの友人S君が別の姿になって現れることで展開が進んでいきます。
一般的なミステリーで死んだ人間が、自分を殺した犯人を捕まえて欲しいという話はあまり聞かない展開ではあります。そのため、あらすじを読んだ段階ですら「どうゆうこと?」と思うのです。しかし、この違和感というか疑問も最後まで読み進めることで、衝撃とともに理解できるようになります。

『向日葵の咲かない夏』は、100万部を突破したミリオンセラー作品です。
個人的にはこの作品が多くの人に知ってもらいたいという気持ちが強いです。そのためにはメディア化などの期待をしたいところですが、恐らくこの作品は映像化は不可能小説だからこ価値のある作品だと思います。
著者の道尾秀介さんは、小説にしかできないことに挑んでいる作家さんです。小説が好きな方は道尾さんの他の作品を読んでみることをおすすめします。どの作品も私は好きです。

最後にYouTuberのヨビノリさんがこの作品を3分で紹介している動画のリンクを共有しておきます。

以下はネタバレ有のレビューとなります。気になった方や読後の方のみ、読んでいただけたら幸いです。

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