チェジュ航空事故の疑問と解説
2024年12月29日ムアン空港におけるチェジュ航空の事故についてですが、いくつか疑問が残る点と、現時点でも解説できる点があるので、noteに書いていこうと思います。
Q. なぜランディングギアを下ろさずに、滑走路のなかほどに着陸しオーバランしたか。
なぜギアを下さなかったのか、フラップを使用しなかったのか、体制を立て直してから進入をやり直さなかったのか、なぜ壁があったのか多くの疑問が残る事故です。
不時着に備えて、十分な準備ができない状況は何だったかを推測すると、
両エンジンの推力を喪失して、非常時の手順に対応するまもなく、不時着に適した場所を探し、滑走路の中ほどに着けたのではないかと考えられます。
Q. ムアン空港の滑走路は短いか?
滑走路は2800mの長さがあります。通常であればボーイング737にとっては十分な滑走路です。
建設工事の影響で使用可能な長さは2500mになっていたという情報がありますが、2500mは羽田空港のRUNWAY22, 23と同じです。
ちなみにボーイング787が使用するような石垣空港でも2000mの長さです。
Q. 空港周辺には鳥が多い?
ムアン空港の鳥の活動は活発なようです。
KOCA(韓国国家航空局)による空港チャートによると、下記の丸く囲まれたエリアが鳥が活発に活動しているエリアです。
空港周辺を囲むように、餌場や巣があるようです。
Q.バードストライクで油圧系統が使えなくなる?
可能性は低いですが、起こり得ることもあります。
油圧は飛行機の操縦に使う動翼を動かしたり、ランディングギア(タイヤ)を降ろしたりするために使用します。油圧は3系統(わかり易くA,B,Cとします)あり、それぞれが独立し、かつ一部が喪失した際には補完できるように設計されています。
油圧系統には加圧するためのポンプが必要です。
左のエンジンはAを、右のエンジンはBを、Cは非常用で電気ポンプで加圧しています。バードストライクでエンジンが破損した場合、エンジン停止による油圧の低下や、油圧系統そのものを破損しオイルが漏れ出すことも考えられます。
もちろん両エンジンが停止し推力を完全に失っても、C系統が使用可能な限りグライダー状態で飛行機のコントロールは可能です。
Q.油圧系統がなくなるとランディングギアやフラップは使えない?
AとB系統を失った場合では、ランディングギアは非常用の手動装置で下ろすことができます。フラップは前縁フラップという限られた一部を除いで使用できません。
そのため、通常よりも着陸準備に時間がかかります。また、着陸速度が通常より速くなり着陸距離が長くなります。
Q.両エンジン喪失で飛んでいられる?
巡航高度くらいの高さがあれば、東京〜名古屋ぐらいはグライダー状態で飛行可能です。
空港周辺の低高度で起きた場合は、限られた選択肢しかありません。ハドソン川の奇跡のような状態を想像していただけるとわかりやすいです。
Q.海に降りたほうが良いのでは?
海と滑走路が両方見えた時、おそらく全てのパイロットは滑走路に降りようとすると思います。平らで障害物もなく、救助体制も整っているためです。
海への着水は、着水時の機体破壊や、脱出の難しさ、海での低体温症を考えると難しい選択肢と考えられます。
Q.衝突した滑走路先の壁は何か?日本にもあるのか?
ローカライザーと呼ばれる着陸のための無線設備を設置するための土台のようです。
日本で土手のように盛り土をして設置しているケースは私の知る限りありません。通常は鉄骨で足場のように設置してあります。
ムアン空港でなぜこのような設置方法が取られているかは疑問です。