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ショートショート:宇宙船エピック 97天文単位の旅

若田8世は、宇宙船エピックに乗って、オールトの雲を実際に観測及び調査するための任務の旅だ。
科学が発展した現代、ケンタウロス座α星系の探査も進められているが、それよりも近くにあるオールトの雲の調査はほとんど進められていなかった。
ケンタウロス座α星系は宇宙船の最大出力で進み、星系内の惑星を上手く利用すれば減速が容易だが、オールトの雲は適切なタイミングで減速して停止するのが非常に難しいからだ。
しかし、綿密な観測やシミュレーションの結果、ヘリオポーズ到達したタイミングで減速の勢いを確定されると、地球から97天文単位付近、オールトの雲中で加速度0の静止状態にできることと推定された。

若田8世はすでにヘリオポーズを通過し、その場で得られた各種情報を元に、エピックの減速を行なっている。
オールトの雲まではあと1時間のところまで来ている。
若田8世は待ちきれず、オールトの雲の観測準備を始めた。

予定通り、オールトの雲と思われる場所で加速度が0になる。
準備万端の若田8世は、早速周囲の観測を始めた。
マイクロ波で観測すると、太陽を中心に同心球状に塵のようなものが広がっているのがわかるが、それは既に判明していることだ。
今回の目的である、可視光での観測を始める。
秘密兵器としてエピックに搭載した、瞬間的に太陽並の光を発する装置を起動する。
これで反射した光を分析し、人間の目で見たオールトの雲の映像を作るわけだ。
何度か繰り返し、十分なデータが得られたと予想する。
鮮明な映像は地球に戻ってからしか見れないが、若田8世は待ちきれず、撮影したての映像を見ることにした。


はじめに感じたのは氷の宮殿だった。
反射率の関係なのか、最も近くが青々としており、太陽のエピックから離れていくほどに紅蓮に輝いていた。
地球並の大きさの彗星もあれば、宇宙船よりも小さい氷の粒がある。
それ以外にも、多種多様なガスの雲があった。
ガスは彗星や氷の粒と明確に分断されておらず、ある部分では海王星の群れのような模様を作っていた。
オールトの雲の中だと思っていたが、どうやら少し内側に到達していたようだ。
鮮明じゃなくてもこれだけ美しいのならば、地球に戻って見るとどれほどなのだろう?
はやる気持ちを抑えつつ、若田8世は次に予定している、ケンタウルスα星接近時の彗星の観測に移った。

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