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「文字を丁寧に書く時、それを印刷と呼ぶ」


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Title「For Gill」
Poster Design by Akane Tobisawa
Print by Miyajima Daiki

Envelop Design by Akane Tobisawa
Print by 明晃印刷 ( 高崎 健治 (Kenji Takasaki) )


昨年の4月30日から5月3日の4日間、名村造船所跡地にてarata pendants展 vol.06にこちらの自身の作品を出展させて致きました。グラフィックデザインでの初めての展示ということになりました。

今回の作品はシルクスクリーンでの四六版サイズのポスターと活版の封筒を制作し、展示をさせていただきました。テーマは「印刷とは」と「失われること」です。こちらの展示では実際にお客様にポスターを破いてもらい失うという事を、印刷というものを手で体験してもらおうというコンセプトになっており、実際にポスターを破いて封筒にいれて持ち帰っていただくという展示でした。


制作の意図

「文字を丁寧に書く時、それを印刷と呼ぶ」ーEric Gill

Eric GillはGill Sansというフォントを作ったことで有名な書体デザイナーです。そして偶然にも彼の執筆した本にあったこの言葉が私に改めて「印刷とは?」と向き合うきっかけをくれたのでした。印刷が大好きだと公言してはいるが、本当に私は「印刷が好きなのか?」と考えるようになりました。

印刷(いんさつ、英: printing)とは、インキにより、紙などの媒体に文字や絵、写真などの画像を再現することを指し、印刷された物を印刷物という。

情報を伝達するために用いられ発展を続けてきた印刷技術。
最初は木版などを作りそれらを用いて紙に情報などを刷ってきていました。
特に印刷物は書物とも密接に関連しており、手紙などとは違い、同じ情報・内容を大量に作り流布させるために活躍しました。この同一の情報を誰もが共有できる方法として「印刷」は大いに活躍しました。情報伝達の大事な要が「印刷」であったということです。

そんな「印刷」は時代によって姿や、方法が変わってきました。
大きな進化を遂げたのは金属活字を用いた活版印刷の登場ではないでしょうか?この活版印刷機の登場は主に聖書などを作るのに活躍したのですが、やがて一般的な印刷方法になっていきます。

ここでもう一つ、産業革命の真っ只中で生きていたEric Gillはまさに「失われていく仕事」に関して何度も本の中で苦悩を吐露していました。このもう一つのテーマ「失われること」という面から見てみると、活版印刷は現在の主流の印刷ではもうなく、本当に一部のものになってしまっています。活版印刷をすると、あまりないのでそういった希少価値としての価値はあるのですが主流であった印刷技術の舞台からおりてしまった技術なのです。

私はデザイナーという職業がいつか完全に失われるとまでは思っていませんが、果たして現在のグラフィック・ウェブデザイナーがこのままの形でいていいのか、やがてその姿を失うのではないかと常々考えています。どうやって私は新しく出てくる技術に飲み込まれずデザイナーとしてお金を稼いでいくことができるのだろうと。そんな中に出会ったEric Gillの苦悩はまるで自分の苦悩と重なり、時代を経たこの距離でも身近に感じたのでした。手工業がどんどん機械に取って代わられる。残したい技術と発展と共に規格化され失われていく技術。人間らしさとは一体?生きるとは何か?それは自分の中で無視できないほど大きくなっていきました。

そこで思い立ったのが、まず彼が最初に文字をタイプフェイス化するのに手がけたGolden cockerelという書体を本から手で描き起こしました。タイプフェイス化に乗り出したというのは彼の中でも失われる技術に向き合い始めた一面でもあります。手で作り出す、それが現代的には非合理な生産であること。そして文字をどうやって次の世代に託していけるか、そんな彼の気持ちにまず向き合いたいと思いこの文字を選びました。

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そしてこれらの書き上げた文字を敢えて手でスキャンして、手で並べポスターにまでしました。

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今回のポスターの題材ではロバート・フロストの「Fire and Ice」という詩を選ばさせてもらいました。

「Fire And Ice 」
Some say the world will end in fire,
Some say in ice.
From what I've tasted of desire
I hold with those who favor fire.
But if it had to perish twice,
I think I know enough of hate
To say that for destuction ice
Is also great
And would suffice.

「火と炎」
世界は燃え尽きて終わるという者もいれば
凍りついて終わるという者もいる。
私が欲望を経験した限りでは
火の説を説くものに賛同する。
しかし二度消滅する運命だとすれば、
私も憎悪についてはよく知っているつもりだから
破壊にとっては氷もまた
凄まじく
十分にそれに事足りるだろう。

この詩は滅びる、無くなるそれらについて語られています。人類は滅びるとなんども語られ、たくさんの職業がなくなってきました。人類は本能的に滅びる事を恐れています。また失うということはまるで悪のもののように捉えられています。かくいう私も、またEric Gillも失われることに対して悩みどう向き合えばいいのか苦悩しました。今回のテーマにぴったりだと思い彼の詩を拝借することになりました。

そしてこれらを手で印刷すること。最後にその手で印刷したものを、その人間の手で失くしてみてほしい。そんな思いで最後の思いを繋げる作業となります。

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印刷、展示まで

まず、ポスターは竹尾ペーパーのタブロというファインペーパーを使用しました。紙のメディアがどんどんなくなっていく中、敢えて新聞紙らしい紙を開発されたそうです。その失くなるものを新たな形でもう一度、手に取る人々の感性に訴えようという考えの紙を採用することにしました。

次にポスターの印刷方法としては手で刷るということでシルクスクリーン印刷という版を作り、インクをその版にのせてプリントをする方法を。

破いてもらったポスターを持ち帰る封筒は活版印刷という、金具(樹脂など)で版をつくりそこにインクを押し付けて印刷する方法を。

この3つに共通するものは「失われるものが、現代に新たな価値を見出してもう一度復活しているもの」ということです。少なくなったからこその希少価値を新たなものとしてこの現代に残していこうという前向きなものたちです。

最後に

こうして改めて展示までの道のり、全ての部分を見つめ直すと私としては失われるをテーマに作っていたものなのに、どれも「失われる」それらを見つめることで、新たな一歩を踏み出しているものばかりになりました。失われる恐怖は、見つめることで自分の中で新たな光となりました。

展示を行った初日はなんと、なかなか誰もが破くのに躊躇されたようで、
ずっと綺麗なままのポスターが展示されていたようです。やっぱり何かを失わさせるという行動は自然と人が恐れているのだなと改めて感じたりもしました。でもここまでの制作で気が付いたことは、失う恐怖があるから先の希望に繋がり進化していくのかもしれない。と

失われること、そこに向き合った時に残るものはきっと新たな希望なのかもしれません。そして私はまだきっとこの失われることに向き合い続けるのだと思います。人が人であるが故の悩み、そして人間であるからこそ作り出せるもの。そこに今後も向き合い作品を生み出し続けたいと思っています。


そして本当に最後に、フランスから日本という遠距離の中ここまで無事に展示まで進んで来れたのも、たくさんの人の協力があったからこそ成し遂げることができました。まずは展示のきっかけをくれ、制作までの悩みの相談に乗ってくれた平野新くん。彼の影響は私の人生に置いてもとても大きいです。どうもありがとう。

また印刷までのサポートをしてくれた、明晃印刷の高崎さん、Turu inc.代表ミヤジマくん。この二人がいなければ展示のきかっけがあっても展示することは出来ませんでした。活版印刷で手で実際に封筒を印刷して展示会場まで持って行ってくれた高崎さん、私が大阪でふらっと工房に遊びに行っても優しく迎え入れてくれた人。そして、実際に作ったデータを製版して、シルクスクリーンで刷ってくれ展示会場までポスターを送ってくれたミヤジマくん。この二人にもたくさんのたくさんの感謝を。

家でメソメソ、こんな展示できないと言っていた私を最後まで励ましてくれた私の旦那さん。どうもありがとう。

そして会場に実際に足を運んでくださったみなさま、この記事をこんなに長いのに最後まで読んでくださったあなた。本当にありがとうございました。

会場に足を運ぶことができなかった私の代わりに素敵なお写真を撮っていただきました。最後はそちらのお写真たちでのお別れとさせて頂きます。またみなさまと作品を通じて出会えますように。ありがとうございました。

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photo by 松本和史


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