飛行機用掩体のいろいろ
掩体壕(えんたいごう)のある場所
今日の国内における戦争遺跡の内、軍用飛行場跡は私たちの生活圏にある身近な戦争遺跡と言えます。多くの場合が開けた土地、台地上にあり、主要な場所は現在でも空港としての機能を持っているからです。
飛行場跡における遺構の代表的な性格として捉えられるものには防空施設が特筆されるものと考えられます(人員用防空壕や掩体)。他には滑走路路盤、格納庫基礎、弾薬庫土塁、射場、貯水槽等々があり高耐久性・耐弾性を求めた構造物は撤去が難しく、図らずも当時を伝える戦争遺構として認識されるに至っています。
今回はその飛行場遺跡にみられる特徴的な遺構の一つとして飛行機用掩体を改めて認識しようと思います。
掩体壕とは
掩体壕(えんたいごう)とは防護、延焼防止、対象物の秘匿を目的とした軍事施設を指します。内部に格納されるものは「機銃、対空砲、飛行機、戦車、人員、弾薬、燃料など」です。また、掩体の用語は現在でも使用されています。
防護のために周囲を囲う施設の名称は複数存在し、「掩蔽部」や「掩蔽壕」、「掩体壕」、「待避壕」、「防空壕」、「タコツボ」など様々です。掩(エン、かばう、おおう)と体(タイ、躯体)は主に前線に設定される防弾施設名称に多く用いられ、個人用の塹壕陣地に築く土塁も掩体と称されていました(S14年 野戦築城教範)。壕は主に地形を掘りくぼめた横穴、竪穴のイメージが想起されます。
また、様々な史料を読むと「壕」を略し「掩体」を使用したり、「掩体壕」を使用したりと表記に揺らぎがあります。そのため、当記事では遺構の用途+通例的な遺構名(例 飛行機用掩体)を組み合わせた語句を使用します。
多種多様な飛行機用掩体
飛行機用掩体についての考古学的研究は郷土史や産業考古学の分野から進められており、各掩体の特徴差を構築方法、平面形状から考えられています。
分類を概括するのは天井の有無です。天井を造り耐弾性や隠蔽目的なら有蓋。土塁を巡らし安く造るなら無蓋と分けられます(土製でも天井を構築する例があります)。さらに材質の観点から攻めると鉄筋コンクリート(鉄網コンクリート)造りや木製、土製、その他(地形、現地資材を用いたもの)等様々に分けられます。工法についても海軍、陸軍で異なり(工法が共通する遺構も見られる)、工法別で遺構を分析することも可能です。
細かく見ると各遺構ごとにオリジナリティが見られるのがこの遺構の大きな特徴と言えます。
このような差異は築造前後の現場状況、戦局の推移、格納機種の違いに密接に関わっており、当時の様相をつまびらかにできる潜在的な能力を秘めていると言えるでしょう。
何故、掩体壕を調べるのか
近いようで遠い昔のことに思う戦争の痕跡が自分の生活圏内に今も残っていることを知ったとき、驚きと共に何故もっと知られないんだと疑問に思いました。学生は修学旅行等で広島、長崎、沖縄に行き、過去の戦争による惨禍を学びますが、それ以前に自分たちの住む土地で起こった戦争を学ぶ機会が地域によって大きく違います。
掩体壕は開発の影響を受けやすい遺構の一つですが、私たちの身近な場所にある活用しがいのある戦争遺構です。この古墳のような盛土は何なのか、このコンクリートの屋根は何なのかと興味関心のキッカケを生むには十分な要素を秘めています。
また、一口に掩体壕と言っても様々なものがあり、格納するものが違ったり、少しずつ質や形態に違いがあります。これらを情報化し、考古学的に見たとき、戦時下における戦局の変化、各飛行場の実相を改めて明らかにすることに繋がります(飛行機用掩体に限らず各地に築かれた戦争に関連する遺構も同様です)。