令和13年度建造護衛艦を考える
23中期防、26中期防であさひ型DDが要求・建造されて以降、海上自衛隊の汎用護衛艦(DD)は一隻も要求されていません。これはもがみ型FFM12隻の建造を優先したからであると同時に、近年の中国海軍の急速な能力向上によってDDの運用のみならず、護衛艦隊の運用について再考する必要があったためと考えることもできます。そんな中、2023年に公開された「令和5年度事前の事業評価」において令和13年度(2031年度)に新型護衛艦が建造されることが明らかになりました。順当にいけばこの令和13年度建造艦がむらさめ型・たかなみ型DDの後継艦ということになるでしょう。本記事ではこの令和13年度建造艦がどのような艦になるかを現時点での情報から推測したいと思います。
船体
もがみ型FFMと同じくステルス性を意識して高度な低シグネチャ船体となるでしょう。
艦首形状に関して、艦艇装備研究所においてバウソナーの雑音の原因となる砕波を低減するために米ズムウォルト級DDGや仏FDIのようなタンブル・ホーム船型が研究されており、採用される可能性もありますが、現時点では将来護衛艦の船体設計に関する調査研究の動きはありません。
船体の規模としては、世界の艦船2023年1月号で武居元海幕長が従来のDDから小型・低シグネチャのFFGへの転換を低減しており、従来DDよりも小型化する可能性もありますが、従来よりも対空・対艦・対潜共に高い能力を求められ、また敵基地攻撃という新たな任務も与えられたことで、要請されるレーダリソースや演算性能、弾薬の大きさやVLSのセル数は増大するため、小型化は難しいのではないかと考えます。しかし、世界各国でフリゲートという艦種の定義は曖昧であり、海自における「FF」の定義も不明であるため、令和13年度建造護衛艦の艦種記号がFFGとなる可能性もあります。
また、もがみ型FFMで導入された省人化技術も取り込まれ、従来型DDよりも少人数で運用することができるようになると思われます。
武装
近年の中国海軍の驚異的な飛躍や、中東の武装勢力が民間船相手にASBMを乱れ撃ちするような世界情勢でありながら、VLSの洋上再補給に目処が立っていない以上、VLSのセル数増加は避けられないと思われます。そのため現行DDや新型FFMの32セルより多い48セル、あるいは64セルになるのではないでしょうか。
対空兵装
誘導弾としては、艦隊防空としては令和6年に装備化予定の新艦対空誘導弾、「令和5年度事前の事業評価」で開発が明らかになった新艦対空誘導弾(能力向上型)、近接防空としてはCIWSやSeaRAMの装備が見込まれます。個艦防空としてESSM Block2を装備するかはわかりません(対応はさせると思います)。
SeaRAMに関してはRAM Block2で大幅に性能が向上しており、艦のFCSに依存しないスタンドアロンなミサイルシステムであり、もがみ型FFMでも採用されているため本級でも採用される可能性は高いです。
新艦対空誘導弾は陸自の03式中距離地対空誘導弾(改)に海自の07式垂直発射魚雷投射ロケットのブースターをくっつけ、レドームの変更とデータリンクが追加された艦隊防空ミサイルです。開発中のFCネットワーク(後述)を用いたネットワーク戦前提のSAMで、運用方法としてはCECを用いたSM-6と近いものです。
新艦対空誘導弾(能力向上型)は、前述の新艦対空誘導弾に対艦弾道ミサイルや極超音速兵器に対処する能力を付与するもので、新艦対空誘導弾にサイドスラスタを追加し、シーカーを改良します。令和6年度から開発が開始され、令和13年度に開発完了の予定です。
対艦兵装
まや型DDG2番艦「はぐろ」、もがみ型FFMが装備する17式艦隊艦誘導弾に代わって、現在開発中の12式地対艦誘導弾能力向上型(艦発型)(以下、12SSM-ER)を装備すると思われます。12SSM-ERは、みなさんもご存知のとおり2020年12月に閣議決定された「新たなミサイル防衛システムの整備等及びスタンド・オフ防衛能力の強化」により開発されているステルスASCMです。射程は900km+で、ポスト・ハープーンとして西側海軍の主力SSMになりつつあるNSM(コングスベルグ社製)の185kmと比べて大幅な長射程ですが、広大な南西諸島海域で戦うにはこのくらいの射程が必要ということでしょう。
対潜兵装
ソナーシステムとしてあさひ型DDに採用されたOQQ-24を発展させたバウソナーが装備されると思われますが、詳細は不明です。
VLSには07式垂直発射魚雷投射ロケットが、両舷には魚雷発射管が1基ずつ装備されるでしょう。魚雷発射管については順当にいけばHOS-303ですが、2023年にMHIと「能力向上型水上発射管に関する技術調査」を契約しており、新型の魚雷発射管になる可能性もあります。
魚雷発射管で運用する短魚雷は12式魚雷ですが、令和6年度から令和11年度まで12式魚雷にハード・キルによる魚雷防御機能を付与し対魚雷魚雷(ATT)化する開発事業が行われます。この開発事業では敵長魚雷の探知能力を向上させるソナー側へのアプローチと、ハード・キルで敵長魚雷を無力化させる12式魚雷側へのアプローチを行います。
また、ソフト・キル手段として自走式ジャマー(MOD)や、投射型静止式ジャマー(FAJ)の装備もあり得るでしょう。
砲熕兵装
従来どおり62口径5インチ単装砲(Mk.45 Mod4)を主砲として装備すると考えられます。世間からも注目されているレールガンに関しては後述します。
レーダ
FCS-3が開発されて以降、あきづき型DDでFCS-3の改良型であるFCS-3Aが、あさひ型DDではFCS-3Aの発展型であるOPY-1が、もがみ型FFMではFCS-3のXバンドアレイを多機能レーダ(MFR)に発展させたOPY-2が採用されるなど海自の非イージス護衛艦ではFCS-3系列のレーダが採用されてきました。しかし、開発開始から40年が経ち、レーダ素子のGaN化や空中線のブロック化などの改良が施されましたが、経空脅威の高度化(ASBMやHCM等の出現)によりレーダの新規開発が必要となりました。
令和5年度事前の事業評価で示された「高速高機動目標対応レーダの開発」では、令和13年度建造護衛艦への装備と既存艦へのバックフィットを前提に、SバンドとXバンドを併用するデュアルバンドレーダとして開発されます。かつてのAMDR-S(後のAN/SPY-6)とAMDR-Xの関係のように帯域ごとに空中線を分けた上で一つのレーダシステムとするのか、それとも両帯域で空中線を共用するのかは不明です。
レーダ素子としてはおそらくGaNになると思われますが、ダイヤモンド基盤の上にGaN-HEMTを載せることで高出力・高効率化する技術(三菱電機)や、GaN-HEMTの表面にダイヤモンド膜を形成してGaN-HEMTを使ったレーダシステムを小型化する技術(富士通、ATLAの安全保障技術研究推進制度を利用)などがあり、それらが採用される可能性もあります。
「新たな重要装備品の選定について」で本レーダの量産単価が481億円とされましたが、これはFCS-3Aの66億円/1セット、効果な取得費用で有名な「ガメラレーダー」ことJ/FPS-5の180億円/1基を優に上回る金額で、いくらS/Xデュアルバンドであるからといえども桁外れの金額です。
もしかするとエレメントレベルDBFを導入しそれにより必要となった膨大な演算能力をカバーする計算機の整備額が含まれている、という可能性もないわけではありません。
戦闘指揮システム
従来DD、DDH、FFMに装備されてきたACDSに代わって令和13年度建造護衛艦への装備と既存艦へのバックフィットを前提に「護衛艦用新戦闘指揮システムの研究」が行われます。新CDSはさらなるオープンアーキテクチャ化を推進しつつ、将来の装備品(高出力レーザー、高出力マイクロ波、レールガン等)への拡張性の確保し、ドローンスウォームや自爆ボートなどの小型船舶、極超音速兵器などの新たな脅威への対処能力向上とAIの活用が目玉です。
電子戦装置
海自はまや型DDG以降、もがみ型FFM含め電子戦装置からオンボードEA(ECM)をオミットし、ESMのみ搭載しています(NOLQ-2C、NOLQ-3E)。EAオミットの理由については様々な議論がありますが、ECMアンテナが衛星通信アンテナと正対した場合衛星通信アンテナに焼損が生じる恐れがあるためという説があります。
しかし、米海軍は進化する中国海軍のASM能力への対抗策としてEAを重視しており、太平洋艦隊のアーレイバーク級DDGの電子戦装置をAN/ALQ-32(V)7 SEWIP BlockIIIに換装する改修を行っており、EAの必要性は低下するどころかますます増大しています。そのため令和13年度建造護衛艦ではESMだけでなくECMも備えた最新の電子戦装置が搭載されるかもしれません。それがNOLQ-3の改良型となるか、新規のNOLQ-4(仮)になるか、米国からSEWIPを輸入(厳しそう)するかは現時点ではわかりません。
機関・推進系
推進方式に関してはCOGLAGかIEPのどちらかになると思います。技術調査の契約動向的にはCOGLAGになる可能性が高い気がしますが、KHIのM7A-05開発に関する文書の中で、「『将来護衛艦はハイブリッド電気推進を経て統合電気推進化へ向かわせたい』との防衛省殿のご要望」と記載されており、IEPが採用される可能性もあります。
主機はもがみ型FFMや建造予定のイージス・システム搭載艦(ASEV)で採用されたロールス・ロイスのMT30ガスタービンエンジンが採用される可能性が高いです。「令和6年度MT30発電装置の小型化に関する技術資料の作成」という調査役務も出ています。しかし、2024年に「LM2500+G4発電装置の小型化に関する技術資料の作成」契約の公示も出されており海幕が最終的にどちらを選ぶかはわかりません。
戦術データリンク
現在開発中のFCネットワークの搭載が見込まれます。FCネットワークは米海軍のCECに近いシステムで、他艦のレーダー情報に基づいて自艦が探知していない標的に射撃するEOR射撃が可能になります。
FCネットワークにより防空エリア内に飛来する脅威に対して適切な対処艦を選定することで撃ち漏らしやオーバーキルを局限し、各艦の防空能力を最大限に引き出し艦隊全体の防空能力向上に寄与します。
また、FCネットワークは妨害電波に対しnull波を形成することでカットしたり、通信経路を変更・迂回することで対妨害性を担保しています。
FCネットワークには現時点ではエアボーンセンサが欠けていますが、今後かつてのASW勉強会で提唱されたP-1FOSのようなAEW機が導入されれば艦隊の最外縁のセンサ艦の見通し線外の目標も探知・射撃ができるようになります。空自E-2DにFCネットワークを搭載するのはおそらく不可能でしょうし、SH-60K/Lではエアフレームから言って不足だと思われます。
個人的にはDDHでも運用可能なMQ-9B STOLを導入してFCネットワークのエアボーンセンサとするのが最良な気がしますが、これはいずも型DDHでのF-35B運用が始まってから進めていく話だと思います。
また、現在各種護衛艦に搭載が進んでいる洋上無線ルータORQ-2Bによるマルチスタティック対潜戦システムも搭載されると思われます。
航空機
艦載機は従来どおり哨戒ヘリとしてSH-60L/Kを搭載すると思われます。追加点として、新型FFMで装備される飛翔型センサが令和13年度建造護衛艦にも搭載されると思われます。飛翔型センサは、RFIによれば非全通甲板の護衛艦の艦上にて発着艦する洋上監視用の小型UAVです。「令和4・5年度における飛翔型センサ性能試験等」の契約希望者募集要項によれば、飛翔型センサの候補としては、V-BAT 128とScanEagle 2があります。
将来の装備品
防衛装備庁(ATLA)が開発している将来装備品の中で明確に艦載の可能性が示されているのは高出力マイクロ波(HPM)、高出力レーザー、レールガンが挙げられます。
HPMは小型UAVの迎撃に有効で、いずれはミサイル迎撃も視野に入れて開発が進められています。艦載する場合は空中線を新設するか、既存のXバンドフェーズドアレイレーダの空中線を共用するなどして搭載すると思われます。(ATLAによるHPM研究のスライド)
高出力レーザーは現時点では100kW級の試作品がATLAに納入され、迫撃砲弾の破壊試験などが行われています。また、高出力レーザーシステムの艦載適合性に関する技術調査も契約されています。現在の100kW級では現行CIWSの機能の内、小型UAVや自爆ボートなどの小型目標への対処等は代替できますが、大型航空機やミサイル等の目標に対処するには更に出力を高める必要性があります。
レールガンは現在40mm口径の試作品で試験が行われており、試験艦「あすか」による洋上試験も行われました(動画)。ATLAの「取得戦略計画(将来レールガン)」の中で、「令和9年時点で、見通し内距離での対艦用の小口径レールガンシステムは、艦載又は固定砲として開発に移行できるレベル、本研究終了時点で、対空用の中口径レールガンシステムは、固定又は車載・艦載システムとして開発に移行できるレベルとなることを目指す」とあり、用途によって口径を変えているということになります。対空用の方が対艦用より口径が大きいのは、小口径ではエリコンのAHEAD弾やボフォースの3P弾のようなエアバースト弾の運用が難しいからといった理由が考えられます。
また、ATLAが開発を進めているスタンド・オフミサイル(SoM)群の中で明確に艦載(潜水艦を除く)の方針が示されているのは12式地対艦誘導弾能力向上型(12SSM-ER)だけですが、12SSM-ERは対地モードが実装されるとしてもあくまで対艦ミサイルの延長に過ぎず、国産対地スタンド・オフミサイルの本命は島嶼防衛用高速滑空弾や極超音速誘導弾、新地対艦・地対地精密誘導弾などになるでしょう。
これらの国産SoMが海自護衛艦に搭載されるかどうかは海自が対地攻撃という新たな任務とどう向き合っていくのかが定まらなければわからないことです。水上艦は陸上アセットと違い光学的な隠蔽や穴を掘っての退避などが不可能で、脅威に対して極めて脆弱であり生存性が低いアセットです。そのようなアセットに反撃能力に一翼を担わせるよりかは、潜水艦(SS)という極めて隠密性が高いアセットの方が反撃能力担保には有効で、実際にSSでSoMを運用するべくKHIと次期SSのトータルシップ検討の契約やMHIと潜水艦用VLSの調査研究役務を契約しています。
その上で護衛艦にも搭載するということになれば既存のMk.41 VLSでは国産SoMは大きさが不適合ですので、建造段階での装備か後日装備かは別として米国で開発中のG-VLSをFMSで調達するか、韓国のKVLS-IIのように国産ミサイル向けの大型VLSを開発して搭載することになるでしょう。
おわりに
有事が起きれば数千発のミサイルが飛び交うであろう南西諸島海域で、元来脆弱である水上艦がいかにして生き残り、与えられた任務を果たすかということを追求していく必要があり、海自護衛艦、ひいては護衛艦隊のの在り方に大きな変化が生じようとしています。そうした新しい状況、そして反撃能力という政治の要請による新しい任務の中で、将来の護衛艦隊のワークホースを担うであろう令和13年度建造護衛艦がどのような艦になるのかは、海自が2030年代の世界でどうやって本願を成し遂げたいのかを読み解く鍵になるでしょう。今後も続報はこちらに追記していくつもりです。