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自由の校庭で 第4章

第4章 - 壁に向き合う

偶然の再会
フリースクールに通い始めて数か月。七海は少しずつ自分の居場所を見つけ、イベントの成功を機にさらなる自信を得ていた。しかし、そんな日々に思わぬ出来事が訪れる。
ある土曜日、七海が商店街で買い物をしていると、かつて同じ中学校だったクラスメイト、原田咲良(はらだ さくら)と偶然再会した。咲良は七海を見つけて驚いた顔をした後、気まずそうに目をそらした。
「七海…?」
咲良の声を聞いた瞬間、七海の胸の中にあの嫌な記憶が蘇った。教室での冷たい視線、無視される日々、そして誰も助けてくれなかった孤独感。咲良は直接的ないじめには加担しなかったが、何もせず見て見ぬふりをしていた一人だった。

七海は思わず足を止めたが、何も言わずその場を立ち去った。家に戻る途中、心臓が早鐘を打つように鼓動し、呼吸が浅くなる。「どうしてあの子がここにいるの?」という疑問と、再び過去と向き合わなければならない恐怖が七海を襲った。

フリースクールでの相談
翌日、フリースクールで七海は元気がない様子だった。悠斗が心配そうに声をかけた。
「どうした?最近調子良さそうだったのに。」
七海は最初、何も話す気になれなかったが、紗英が「もし話せるなら、聞くよ」と優しく言ってくれたことで、少しずつ昨日の出来事を打ち明けた。
「…私、昨日、中学校の時のクラスメイトに会ったの。あの頃のこと、思い出しちゃって…どうして私だけ、あんな目に遭わなきゃいけなかったのかな。」
涙をこらえながら語る七海に、紗英はそっと寄り添いながら言った。
「七海ちゃん、その気持ちを抱えてここまで来たんだね。でもね、もう少しだけ自分の心と向き合ってみてもいいんじゃないかな。」
悠斗も続けて「無理する必要はないけど、なんか手伝えることがあったら言ってよ」と励ました。

再びの遭遇
その数日後、七海は再び咲良と出会う。今度は近くの公園だった。咲良は七海を見ると気まずそうに笑みを浮かべ、言った。
「久しぶりだね、七海。」
七海は言葉に詰まりながらも「久しぶり…」と答えた。咲良はしばらく黙っていたが、意を決したように切り出した。
「私、ずっと気になってたんだ。あの頃のこと。何もできなくて、ごめん。」

咲良の言葉に、七海は複雑な感情を抱いた。謝罪を聞いても心が軽くなるわけではなかった。むしろ、これまでの苦しみが押し寄せてくるようだった。七海は震える声で言った。
「なんで、あのとき助けてくれなかったの?」
咲良は俯きながら「怖かったんだ。自分が同じ目に遭うのが…。でも、それでも言い訳だよね。本当にごめん」と謝った。

七海はその場を去ったが、咲良の言葉が頭から離れなかった。

山田先生との対話
フリースクールで七海は山田先生に相談した。
「謝られても、なんかスッキリしなくて…。どうしていいかわからないんです。」
山田は七海の話を聞きながら、静かに言った。
「謝罪って、相手がしてくれるものだけど、それをどう受け取るかは七海さん次第だよ。相手を許すことも、許さないことも自由。でもね、何より大事なのは、七海さんが自分自身をどう見つめるかだと思う。」

山田の言葉に七海は少し考え込んだ。「自分自身をどう見つめるか」。それはまだわからない答えだったが、心のどこかに小さな光が灯ったようだった。

葛藤と決意
咲良との再会を機に、七海は中学校への復帰について考え始めた。学校に戻ることで過去と決別できるのではないかという気持ちと、再び同じ目に遭うのではないかという恐怖の間で揺れ動く。

紗英や悠斗と話し合う中で、紗英がこう言った。
「七海ちゃん、学校に戻ることだけが正解じゃないよ。自分がどこで安心できるかが一番大事だから。」
悠斗も「俺は、ここで七海が楽しそうにしてるのが好きだな」と軽く言い、七海を和ませた。

最終的に七海は、「今は無理に学校に戻らなくてもいい」と考えるようになる。それよりも、フリースクールで自分を見つめ直し、新しい目標を持つことに集中することを選んだ。

未来への一歩
咲良とはもう一度会い、七海は正直な気持ちを伝えた。
「まだ完全に許せたわけじゃない。でも、あなたが謝ってくれたことは、私にとって意味があったと思う。」
咲良は涙ぐみながら「ありがとう」と答えた。

七海は少しずつ過去の重荷を下ろし始め、未来への第一歩を踏み出す準備が整った。フリースクールでの時間は、彼女にとってかけがえのないものになりつつあった。

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