だと思った。
2010年1月30日の朝。
私たちは新宿ピカデリーにいた。
その日は映画『ゴールデンスランバー』の公開日だった。
その当時の私たちといえば、1月末に学部4年生の卒計提出があり、プレゼンがあり、それが落ち着いた2月から修士の卒論がはじまるのだ。
2010年は私が卒論を書く年だった。
2010年1月30日は、午後から手伝いをしてくれる後輩たちが来て、そこからはスケジュールと思考と“何か見えないもの”に追われる日々がはじまる。
さながら『ゴールデンスランバー』の青柳雅春のように。
そんなタイミングでなぜ朝イチから映画を観に行ったのか?
どうしても確かめたいものがあったのだ。
竹内結子演じる樋口晴子の「だと思った。」だ。
原作小説を読んだときにどうしても忘れられなくなった「だと思った。」を竹内結子が言うというじゃないか!
当時、合コンでメンズに「好きなタイプは?」と聞けば、必ず1人は名前を挙げる、あの、竹内結子が!
ニノが共演したくないほど好きな、あの、竹内結子が!
何を隠そう、伊坂幸太郎の小説に出てくる女の人がすごく好きである。
少ない出番にも関わらず、すべてをかっさらっていくほど魅力的な「だと思った。」をぶち込んでくる主人公の元カノ。それが竹内結子演じる樋口晴子だった。
伊坂幸太郎の小説には、そういう衝撃的に“いい!”女の人が多い。
『魔王』と『モダンタイムス』の安藤詩織、
『ホワイトラビット 』の綿子ちゃんも『アヒルと鴨のコインロッカー』の琴美もよかった。
そして、最近読んだ『フーガはユーガ』のワタボコリの妻。小玉も後半いい。
内助の功的な夫を支える妻って感じじゃなくて、信頼してるとか、分かり合ってるとかって表現ともちょっと違う。
あたふたバタバタしてる主人公を、気づいてるような気づいていないような顔をして、人差し指一本で軽くチョンっとする感じで導く。
そんでもって、「だと思った。」ってふふふん♪としている感じ。すんごく清々しい。
そんな女の人にたまに会いたくなって、私は今日も小説を手に取る。
「だと思った。」って言ってもらって、チョンっと背中押してもらうために。