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煙を文字にする

 学生の頃は、授業を聞かず、机の中に本を隠して読んでいた。今となってはそれらの内容を全く覚えてないけれど、文章を書けるのは、あの時間のおかげだと思う。

 文章を書き始めたときから、題材は決まっている。葉巻のことだ。

 新卒で入った飲食店の設計施工会社をやめてフラフラしていたとき、知り合いに、銀座でシガーバーをつくっているから手伝いに来い、と言われ、その世界に初めて足を踏み入れた。
暗めの色調でまとめられた、革張りの大きなソファ、木のカウンター。それに合わせる赤いビロードのカーテンを選び、お酒やグラスが映えるように縫ったものが、カウンターの内側にかかる。

 スタッフが足りていないからと、そのまま働くことになった。ちなみにそれまで私はタバコすら吸ったことがない。
 時給よりも高い葉っぱに火をつけて、煙を口の中に入れて、そのまま出す。形も残らず、栄養にもならない。けど店員になったからには、私は喫煙者じゃありません、ではお話にならない。
 吸うたびに細かくノートを書いた。味のことだけじゃなく、食後だったのか食前だったのか、合わせた飲み物や自分の体調のこと、その場の雰囲気。
葉巻は、その時の気分や体調、時間、飲んでいるお酒に合わせて吸う銘柄を変える。人によって好みも違うので、私がおいしいと思うものを、お客様がおいしく感じるとは限らない。
100種類以上の葉巻を吸い終わる頃には、喫煙の世界にはまっていた。

 働いていたバーはもうないし、当時よりも吸う機会はがくんと減った。
けれど葉巻が好きで、なんとか関わる方法を考えて、ブログを書くことを思いつた。

 素人の文を誰が読むんだと自問自答して恥ずかしくなることもある。うまく書けなくてイライラもする。
 そんなときは、色々な葉巻が入った箱の中から、お気に入りの1本を取り出し、マッチでじわじわと火をつける。おいしいはずなのに、口の中に変な苦みを感じるのは、頭の中がグルグルしているせいだ。
 燃えている先や、口から出る煙を眺めながら、頭の中を整理する。葉巻の匂いを思いっきり吸い込んで、文字を書き出す。
 思考が整うにつれて、葉巻がおいしくなっていく。

 私の文章を読んで、葉巻にハマりましたと言う人が、世の中に増えたらいい。本か雑誌かウェブか分からないけれど、葉巻を吸って文章を書いて生きたい。
 煙と文字がお金になるのが、私の理想のかたち。

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