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【レポート】UXリサーチ初学者の壁とは~樽本徹也さんをかこむ会
6月30日に行われたイベント『UXリサーチ初学者の壁とは~樽本徹也さんをかこむ会』に参加しました。
■内容
経験が少ないリサーチへのポイント
・樽本さんが執筆した『ユーザビリティエンジニアリング』の使い方
・初心者に陥りがちな課題と解決方法を紹介
リサーチ協業者へのポイント
・リサーチに依頼できる範囲がわかる
■登壇者
樽本 徹也 さん
利用品質ラボ 代表
和田 あずみ さん
株式会社グラグリッド デザインストラテジスト/リサーチャー
松薗 美帆 さん
株式会社メルペイ デザインチーム/UXリサーチャー
■モデレーター
岡 昌樹
株式会社ポップインサイト CX/UXストラテジスト
松薗さん(メルペイ)
Twitterやnoteで有名なみほぞのさんです。
▶︎当日の資料はこちら
『ユーザビリティエンジニアリング』の使い方がメインの内容です。本の中にはリサーチ手法からリサーチで使用する設計シートが載っています。松薗さんが初めてリサーチをしたときは、掲載していた設計シートをそのまま使ったそうです。イベントの内容をみほぞのさんのnoteでも掲載中。
■はじめてリサーチをする場合
・『ユーザビリティエンジニアリング』の通りにやってみる
・実際に行う時は必要箇所から読んでいくのが◎
■ユーザーテストのプロセス(資料を参照 / P=本のページ)
調査全体の計画:Chapter8(P157〜)
リクルーティング:リクルート(P186〜)
設計:ユーザーテストの準備(P195〜)
実査:Chapter10
分析:Chapter11
■もっと実践を知るには
樽本さんの講座に参加すると、本では学べない実践方法が学べる
和田さん(グラグリッド )
DeNAからグリグラッドへ転職しリサーチャーになった方です。
▶︎当日の資料はこちら
転職して初めてリサーチを行うことになった和田さんは、『ユーザビリティエンジニアリング』を読んで学んだそうです。初心者が陥りがちな課題と解決方法の紹介が中心とした内容でした。
上記にリンクした当日の資料は図もあり読みやすいです。
■初心者が陥りがちな課題
1:「インタビュー怖い」石化モンスター
2:「聞いてるのに・・・」空気フリーズモンスター
3:迷いの森モンスター「役に立つの?」
<解決方法>
1:「インタビュー怖い」石化モンスター
■課題
聞くことが多すぎて1時間の中では、重要なことが聞けなかった。
■解決方法
チーム全員でモデレーターを行い、被験者なりきりや観察を実施。
・インタビューガイドの使うツールをブラッシュアップ
・モデレーターの関わり方について相互でアドバイスを行う
2:「聞いてるのに・・・」空気フリーズモンスター
■課題
質疑をしても台本通りの質問しか聞くことができない。
■解決方法
ガイド中心のインタビューをやめた。まず体験から起点を作り掘り下げた。
・一つの体験から起点をつくり「その次は」「その前は」と深掘る
・最後にガイドで聞けていないポイントがないか確認する
3:迷いの森モンスター「役に立つの?」
■課題
聞いた後に具体的にどうやって使うのかわからない。
■解決方法
What/Howではなく、Whyを捉えるようにした。
「LPをつくりたい」「9月にリリースしたい」といった、
WhatやHowの要件から依頼されることがある。
要件が膨らむとPJが炎上しやすいため、
「どうして必要なのか?」の潜在的な部分を捉える。
1:どんな仮説検証・体験価値や本質的ニーズ探索?
2:どんな形なら要件定義に生きる?
3:どうやってサービスをどんな形にして評価する?
上記を逆算してみんなで決めておく。
樽本さん(利用品質ラボ)
『ユーザビリティエンジニアリング』の著者です。
▶︎当日の資料は手書き(スライドはなし)
<20年間でのUXリサーチャーの仕事の変化>
20年前:ユーザビリティエンジニアと呼ばれていた
10年前:UXリサーチャーと呼ばれるようになった
ユーザビリティがUXに置き換わったが変わらない。
■UXリサーチャーとしての業務
・ユーザー調査
・プロトタイプ設計
・ユーザービリティ評価
この3つの中からだと、調査と評価を実施する比率が高い。
一般的には調査と評価は使い分けることは少ないが、
ユーザー中心設計の方法論では、調査と評価は全く違うと言われている。
※調査:ユーザビリティ調査とユーザー調査は別物
※ユーザー中心設計=UCD/以下、UCDと表記
■手順
調査:ユーザーに話を聞きにいく
分析:ペルソナ作成+要件定義
設計(デザイン):課題を見つけて解決案を出す
評価:解決案を評価する
■UCDのプロセス
UCDのプロセスでは、「調査」「評価」で分かれていて、
「設計」と「評価」を繰り返し「改善」していく。
調査・分析:デザイン前=調査
設計・評価:デザイン後=評価活動
<樽本さんのUXリサーチの歩み方>
■20年前
IT専門のITプロフェッショナルコースに在籍
.comバブルが訪れており、テクノロジーの知識を得て一攫千金を目指すため
ソフトウェア工学を専攻していた。
しかしWEBサイトを作ることはできなかった。
あるとき同級生が「情報アーキテクチャ入門」というオライリーの本を貸してくれた。これまで知りたかったことは全て書いてあった。
参考文献の本も読んだ。「ユーザビリティエンジニアリング言論」ヤコブ・ニールセン、「実践Webデザイン論」。
これらすべて篠原さんが訳していた。調べるとソシオメディアの人だった。
<学びの経歴>
ソフトウェア工学
▼
情報アーキテクチャ
▼
ユーザビリティ工学
▼
UCD/HCD
▼
デザイン思考
こうして、正しい作り方を学んだ。正しい作り方とは、デザインのプロセスとリサーチのプロセスを、いったりきたりしていること。
Q:初学者にありがちな、UXリサーチをめぐっての誤解や勘違いに、どのようなものがありますか?もしくは学習を進めていく上で息詰まりやすいポイントは?
A:勉強しても実践をしないと身につかない。調査と評価が混ざりやすい。ユーザビリティテストか?UXリサーチか?わからなくなりやすい。
■未来をリサーチしてほしいという依頼
よくある事例として、ユーザーに対して「こうだったら使いますか?」と質問しようとすることがある。
現状/あるべき姿があるとき、リサーチはAs-Is(現状)しかわからない。あるべき姿=どうやって?を形式化しているのがデザイン。
リサーチをしたらいい製品になる、と思われることがあるが、リサーチの対象はAs-IsなのでTo-Beはみつからない。
リサーチではTo-Beはわからないことが大原則。
As-Isをリサーチできても、To-Beのデザインまではかなりでかい壁がある。
Q:ご自身がUXリサーチャーとして活動しはじめて、ユーザーインタビューをするなかでの失敗や印象に残っているものは?
A:インタビューしたことに満足してしまい、結局なんの役に立つのか理解できていなかった。他にも、こうであってほしいという願望を元に分析をしてしまったが、愚直に実践を重ねて改善した。
■インタビュー前に行うラポールの重要性
ユーザーインタビューでラポールが大事だといわれる。ラポールはインタビューされる側だけではなく、インタビューを行う側にも効果がある。
ラポールとは?:相互を信頼し合い、安心して自由に振る舞ったり感情の交流を行える関係が成立している状態を表す。
ラポールは時間の経過も関係しているため、インタビューが始まる前に会ってコミュニケーションをとることでお互いの緊張感をほぐすことができる。
Q:昨今のUXリサーチの盛り上がりについてどう感じていますか?
A:ワードの注目度が上がって、リサーチですぐに通じるようになった。デザインプロセス自体も変化し、PRや広報活動にも使えるようになったことで社会の広がりを感じる。手法などが目立つものの、リサーチは方法論の一つであるという認識が必要。
■20年の間のブーム
20年の中でブームはいくつかあったが、リサーチは何も変わってはいない。
2000年代:WEBユーザビリティ
2006年代:ペルソナ
2000年前半:カスタマージャーニーマップ
2010年代:UXリサーチ
■よくあるペルソナの誤認
ペルソナには2種類ある。
・データに基づいたペルソナ
・データに基づいていないプロトペルソナ
仮装ペルソナを作成している場合は研修に出ると良い。
Q:UXリサーチ実践者のメッセージ
A:楽しくやる。一冊勉強して実践して、見えなかったことをまた勉強して、再び実践する。
■机の上ではわからない、生の人間
本は重要。ただし、UXリサーチにおいては机の上では終わらない。いつも生の人間を相手にしている。生の人間をインタビューする。生の人間を扱うから練習相手がいないとできない。本を読んで知識を身に着けるのはいいが、誰か練習相手をみつけてお互いにインタビューを行うことが大事。
Q:アジャイル開発しながら調査を繰り返すとき、再度リサーチするときのインタビューについて、以下のどれになるでしょうか?
・意図的に、以前インタビューをしたユーザーに再度インタビューする
・意図的に、以前インタビューしたのとは別のユーザーにインタビューする
・同じかどうかは特に気にしない
A:松薗さん
私の場合はユーザーインタビューとユーザビリティテストを組み合わせて実施していたので、以下でした。
・意図的に、以前インタビューしたのとは別のユーザーにインタビューする
Q:これからUXリサーチを始めたいと思うのですが、まずは何から始めたらいいのでしょうか・・・?
また、皆さんのおすすめの本も他にありましたら教えていただきたいです!
A:松薗さん
以前noteにかきましたのでご参考まで
https://note.com/mihozono/n/ndc54dbaca07d
Q:自分が設計した調査や評価の内容が正しかったかどうか(良い調査だったのか、間違ったことをしてないか)実施するたびに思います。
パネラーのみなさんはそう感じたことはありますか?それに対して、どう対処・解釈したらよいでしょうか?
A:いろんな人のインタビューを見る。実践して調査結果が活きたか?調査結果が刺さっていないかを後で判断する。定量的なリサーチもあるが定性的なリサーチの場合はすこしづつ行う。一人インタビューしたら分析をして、次のインタビューで内容を変更してみる。
今回のイベントに参加してみて自分にとって新たな気づきが多くありました。今後リサーチの方と協業する際には、どの部分を頼ればいいのか?の判断がしやすくなりました。
■気づきのまとめ
・ペルソナ:データに基づく場合と想像で作る場合の2種
・リサーチの対象はAsIsで、ToBeはみつからない
・リサーチを学ぶには知識+実践(練習)
・UCDのプロセス:「設計」と「評価」を繰り返して「改善」