こまめに苛立つ。Gamesir T4Pro

きわめて冗長な前書き

私はゲームが好きだ。FPSで敵の臓物を撒き散らす時に、工業ゲームで勝手に増えていくリソースとアイテムの走る輸送経路をぢっと眺めている時に、そして最近は何より格闘ゲームで相手を裏切っておもむろにコマンド投げをねじ込む時に絶頂を覚える。
そして普段はそれらをマウスとキーボードで、格闘ゲームはアーケードコントローラー(以下アケコン)でプレイしているのだが、やはりアケコンというものは敷居が高い。
ネットオークションや中古の類で購入すれば高品質なものが5000円程度で手に入るものの保証はなく、基本的に手頃な価格帯の新品となると得体の知れない中華メーカーのものばかりであり、埋まっているボタンのメーカーも当然得体の知れないものであれば、レビュー欄には遅延が大きいだレバーの質がどうこうと購買意欲を減退させる語句の羅列が目白押しだ。「遅延は大きいけど初心者なら良いんじゃないか」と言われて買いたくなる初心者は居ないだろうし、実際に遅延が大きいのであれば、それは初心者であれど買ってはいけない。いや寧ろ「尚更」かも知れない。
おまけに図体も闇雲に大きければ叩く度に騒音を鳴らす。静音ボタンなどは大抵の場合は換装して取り付けるオプションパーツであるし、レバーがない分コンパクトで尚且つキーボード用軸を転用していたりで静音性とサイズ感に優れている事の多いレバーレスは体感的とは程遠い操作性である事は否めず、同様にキーボードであったりのプレイもまた初心者には非現実的だ。右手の置き場に迷い指が攣る。

つまり、時代というものは、格闘ゲームという文化は、今正に「格闘ゲーマーによる手頃なゲームパッドのレビュー」を求めているのだ。やみくもな正義感に駆られた私は凄惨な退廃の具現と化した自室を掘り起こし、その隅で死蔵状態であったゲームパッドを掘り起こした。

コスパの鬼

Gamesirというメーカーはコストパフォーマンスに振り切ったゲームパッドを量産する事に命を賭けている。商品ごとの差異はラインナップを見ていてもあまり掴めないものが大半だが、どれもこれも兎に角見栄えが良く、その上価格からは考え難い多機能であるのが特色だ。

このように大量の機能が記載されているゲームパッドというものは大抵が中国のノーブランド品であったり、表記上の機能の三割以上が未実装であったり、他社でも使用されている汎用の金型や有名メーカー品のクローンであったりを用いたオリジナリティの対極に位置する大陸的合理化の結晶である事が往々にしてあるのだが、この価格でありながら独自のデザインを持ち表記上の機能を全て実装しているという点においてこのメーカーは明確に評価できる点を持つ。尤も、それは人間で喩えるのならば「ご飯を残さなくて偉い」という程度の話でしかない訳だが。

実際、この製品「Gamesir T4Pro」は手に取ってみても、価格帯を感じさせないビルドクオリティの高さと質感を持っているのは確かだ。

チープな薄さなどを感じない梨地加工のプラスチックは肌触りも良く、XboxコントローラーとSwitch Proコントローラーの中間のような形状を持つそれは手に握ってみても実にしっくりと来るものがあるし、半透明で印字に奥行きのあるABXYボタンも中々に格好が良い。
暗めの半透明のシェルからバイブレーター部の錘が覗く格好も、あの日のゲーム少年の魂を宿した者としてはグッと来るものがある。ワンダースワンカラーのスケルトンボディに心奪われる我々は往々にしてこういったデザインに弱い。
スティックも独特な形状ながらグリップ感と質感に秀でていてとても良いのだが、一方でLRボタンや背面ボタン、スティックの根元部分のピアノブラック的な質感は少々ミスマッチかつ浅い色味に見えてしまうというか、ここもABXYと同様の半透明であれば質感に関しては非の打ち所が無かったのにと少々悔やまれる所だ。

機能面も過剰なまでに優秀で、多彩なアサインが可能な背面ボタンを持つ上に連射機能とジャイロセンサー(Switch接続時のみだが)に対応し、USBドングルによる2.4Ghz接続と有線接続、そしてSwitch、iOS、Android、Windowsとかなり広い範囲のハードに対応する。
無いものはといえばPlaystationとXboxへの接続、Amiibo接続等に用いられるNFC程度といったところか。機能面だけを見れば大概のゲームは快適に遊べそうに見えるし、実際その点は高く評価している。無駄に多くのコントローラーを持たない生き方、実にスマートじゃあないか。

苛立ちの始まり

さて、電源を入れ、まずはSwitchに接続しよう。この時点で既に戦いは始まっている。全くどういった身分のつもりだろうか、厄介な事に此奴は毎回の起動の度にペアリングからやり直す事を我々に要求してくる。
もし仮に君がSwitchを携帯モードで持ち運ぶか、すぐにドックから外せる状態にしているのであれば、タッチ操作でログインしては設定画面を開きペアリングして初めてコントローラー操作が可能になる……という手順を毎回のように要求される事になる。
もし携帯モード状態にする事が困難な環境なのであれば、最悪だ。もう一本のコントローラーをまず用意し、そちらでペアリング操作をする必要がある。先に私は「無駄に多くのコントローラーを持たない生き方」と言ったが、コントローラー側が別のコントローラーの常備を要求してくる仕様は中々に斬新だと言えるだろう。
この点はどうやら他のハードでも同じ様で、久々にAndroid端末でプレイしようとしてもBluetooth画面からペアリング操作を再度行う必要性が生じていた。

「軽いがしかし毎回は御免被る一手間」を超えると、次はキー配列に関して少々面倒くさい思いをする。
接続するハードと接続手段によって認識が変わってくるのが億劫で、例えば君がSwitchに接続したのであれば君はこのコントローラーを本来のSwitchの配列……即ちボタンに印字されたAとBが逆であり、XとYが逆であるものとして見る必要性が生じるし、PCやスマートフォンにワイヤレスで接続すればそれは表記通りのものとして扱われることになる。スマートフォンに有線で接続してやった時なんかはまた話が変わってきて、Minecraftをプレイしている時であれば画面上のガイドにおいて右ボタン、即ち任天堂配列におけるAボタンと示された時には、下ボタン即ちXbox配列におけるAボタンを押す羽目になる。XYに関しても同様に反転しており、十字キーやジョイスティックに関してはそういった問題は無いのだが、億劫であることに間違いはない。

果たして一つのコントローラーを複数のハードで使う為だけにこれらの不便を被る価値があるのだろうか?という事に関しては一考の余地があるだろうし、ここから先もそのつもりでレビューを読んでいて欲しい。

真っ直ぐ走れない車はいらない

さて、しかしここまでの問題に関しては、運用と慣れでどうにでもなる領域だろう。仮にここから先のプレイフィールが、このコントローラーの質感や握り心地同様に素晴らしいものであったのならば、それらは十分に乗り越えるべき価値のあるものだと断言できる筈だ。

しかしプレイヤーがまず真っ先に体感する物は、どういう訳か第一に莫大な遅延である。
例えばそれは大乱闘スマッシュブラザーズSPであるとする。私は今だけはマルス使いで(実際Xforの二作においては私のメインであった)、先端当ての間合いを狙って立ち回る。
間合い調整にしろ、その間合いを活かす技振りにしろ、それはタイミングというものが非常に重要になってくるのだが、近づきながら先端の間合いでボタンを押してしまってはいけない。剣先は敵の背後をすり抜けるか、ちょうど柄の辺りで殴打するような具合になってしまう。

兎に角このコントローラーは遅延が洒落にならない。Androidに接続してMinecraftをプレイすれば石炭鉱石をいち鉱脈分掘り切るだけでも「今日はこのくらいにしておきます」といった気持ちになるし、Retroarch上のFinalBurn Neo環境でストリートファイター3 3rd strikeをプレイしようものなら(無論ROMデータは合法的な手段で調達している)パワーボムを空振る事さえ億劫だ。
3rd strikeというゲームでは相手の技を読んでブロッキング、即ちレバー前入れを「置く」事が重要になってくる訳だが、この操作性では「置く」というより「おもむろに妙なタイミングでガードを解く」といった感覚に近しい。

MoonlightによるPCゲームのリモートプレイを試みると、PC画面とスマートフォンの画面に殆ど遅延は見て取れないにも関わらず「リモートだから仕方ないのだろうな、やはりゲームはネイティブ環境に限る」等と頓珍漢な結論に辿り着いてしまう所だった。無論、断じてMoonlightに罪はない。むしろこれは素晴らしいツールだ。本当に。
ここまで遅延が大きいと、アクションゲームはおろかターン制RPGの類であっても億劫だ。ポケットモンスターをプレイしている時に、自分が思った技にカーソルを置けているかと常に疑心暗鬼になる体験は相当にストレスフルなものだ。

格闘ゲームとの相性は最悪の一言だ。まずレバーガイドが完全に円形ということが頂けない。格闘ゲームという八方向が重要になるジャンルであれば、例えばPDP Wired fight pad proのような八方向ガイド仕様になっているべきであり、そうでないという事はそれだけでデメリットであると言える。尤もこれは一般的な仕様に過ぎないが。
遅延の大きさが致命傷である事は言わずもがな、L2R2がアナログ仕様である点も厄介だ。特に最近の格闘ゲームであれば、同時押しを余剰なキーにアサインする事でタイトルによって異なる独自システムの類をオフコラボであったりVシフトであったりドライブインパクトであったりと起動する事が当たり前になっているものだが、そのアサイン先の筆頭候補とも言えるL2R2が入力タイミングの不明瞭なものになるアナログ形式であるという点が相当な邪魔になる。
所謂スマブラ勢がゲームキューブコントローラーのアナログトリガーに文句を言っている光景を目にした事があるゲーマーはそう珍しくないだろう。それと全く同じ現象だ。何分トリガーの深さが割と深めなもので、Minecraftの初期キーアサインではブロック破壊やインタラクトが左右トリガーに割り当てられている訳だが、これらの基本操作がまた中々億劫に思えてくる。

この程度では終わらない。ジャイロ操作にも欠陥を抱えている。
そもそものジャイロ操作の感度と精度自体にも難がある訳だが、更に私の環境の個体ではこれが徐々に徐々に左側へと向いていく挙動をした。
個体差であることを祈りたいが、精度の低さは恐らく個体差ではなく仕様だろうと考えられ、何れにせよ薦める事のできたものではないと感じてしまう。
ポケモンレジェンズアルセウスをプレイしている時には咄嗟の奇襲への対応が遅れる原因になり、スプラトゥーン3をプレイしている時にはAIMという行為自体に極めて強い苦痛が伴い、しばしばPCでのTPSゲームプレイ時の力まないAIM感覚が恋しくて仕方ないという感情に駆られる事になる。

バイブレーションも凄まじい。あまり質感というものを感じられない、常に0か1かの強度で震えるだけという体感で、質感表現を重視した振動の多いSwitchタイトルの魅力を損ねるように感じられる。発表当初、HD振動なる売り文句をしきりに宣伝していたハードである事を私は未だに昨日の事であるかのように思い出せるのだが、このコントローラーの開発者にとっては歴史上の出来事か何かであるように思えているのだろう。
更には強度設定で最大にしてやると気の狂ったような強度で震えだす。振動の強度はAmazonでアダルト用品として販売されていた小型のハンディマッサージャーと殆ど同格だ。ゲームパッドで自慰行為を行いたい人にはちょうど良いプロダクトに思えるかもしれないが、そうであればPlaystation moveコントローラーかWiiリモコン辺りがより適任だと言えるだろう。

ついでにスマートフォンを保持するブラケットが付属しているので、これについても紹介しておこう。
見てくれは悪くない。余分なピアノブラック部分の色味は安っぽいものの、ラバー部の材質や加工は非常に上質に感じられ、外側から見える面には梨地加工が施されているし、伸ばした際に軋むような音がする事もない。
しかしまず伸ばした時に非常に柔らかく、触っていて折れるのではないかという危機感を抱く仕上がりになっている。素材に柔軟性があるのではなく、折れ曲がり耐性を持たせるような工夫を何一つしていない時の柔らかさだ。
そしてこのブラケット、角度に難がある。だいたい110°くらいまでしか開かない為、いまいち遊んでいて見やすい画面の角度ではないというか、ゲームパッドを奥に向かってかなり極端に傾けるような構え方をしてようやく画面がこちらをまっすぐ向いてくれる。
上部の画面を見ながら下部のコントローラーを操作するハードと言うとニンテンドーDSが代表格だろうが、恐らく殆どのDSユーザーは画面を最大限に開くか、その一段階手前くらいまでは開いて使っていただろう。そんなユーザー心理をあざ笑うかのような設計に耐えると、先述の遅延に満ちたゲームプレイを体感する権利が得られるという訳だ。

総評:二兎を追うものは一兎をも得ぬのなら、四兎を追うものの末路は明白だ

確かに、この価格でありながらノーブランド品や使い捨ての出品者ではない、明確に名の知れたブランドによるここまで多機能なものを入手できるという点は非常に魅力的だ。
質感も良好で、節々が発光するデザインにはゲーミングデバイスらしい魅力が感じられる。

しかし、思い出して欲しい。それらは全てただの表層に過ぎず、結局のところゲームコントローラーというものはまず先んじて「快適なプレイフィールが得られるか」という点によって語られるべきなのである。
そういった点において、これは劣悪であると言わざるを得ない。多様なジャンルにおいて劣悪なプレイフィールを幅広く発揮できるコントローラーに価値を見出す事は困難であり、例えそれが格闘ゲームとシューティングゲームにしか威力を発揮しないアーケードコントローラーであったり、レースゲームにしか威力を発揮しないハンドルコントローラーであっても、そのシングルイシューで優れたプレイフィールを得られるのであれば、少なくともこれには明確に勝る。

もし仮に用途が大乱闘スマッシュブラザーズSPなのであれば君はまずPDP Wired fight pad proを試すべきだし(これはスマブラ用に特化したコントローラーとして限りなく理想に近い性能を持ち、特に低遅延性能に関しては全Switch用コントローラー中で純正にさえ勝りトップを独走する至高そのもののコントローラーだ)、低価格帯でPC用ゲームパッドを求めているのであればLogicool F310はワイヤレス機能こそ持たず、L2R2がアナログであったり格闘ゲームにおいて丸型スティックが障害になるなど一部の問題は共有するものの、最低価格帯で安定したパフォーマンスを得る事ができる非常に優れた選択肢になるだろう。
それらより上のコントローラーを購入するのであれば、それはその時ジャンルに特化した物を選ぶなり、王道にして至高とも言われるXbox純正コントローラーを買うという手も中々に良いだろう。何れにせよ、これを避ける道を選んで損をする事はない。
全てのジャンルにおいて完璧なパフォーマンスを発揮するコントローラーなど存在しないのだから、好むジャンルによって購入するコントローラーを選ぶ生き方は、きっと劣悪なプレイ感覚を提供するコントローラーを一台のみ持って苦難に喘ぎながら生きる道より遥かにスマートであると言えるだろう。

余談だが、レビューのサクラ率を分析するツール「Fakespot」の商品ページ分析結果は、メーカーの明確なプロダクトでは中々見られないD評価だ。このFakespotというものは中々に信憑性が高く、サクラチェッカーと違って出品者の国籍で決めつけるような差別的な真似をやらかさずにフラットな視点から判断してくれる点が素晴らしい。
中国系メーカーのイヤホンを愛し、中国系メーカーの担当者と仲良くなる事もあるような身にとっては、サクラチェッカーのような中国出品というだけで非常に危険との評価を出すツールは流石に肯定する事ができないのだ。


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