人が人のコンテクストを含めて人を測るということ
前回,ものさしを作った人が人を測っているというお話をしました。
人が人を測るということには,それ以外にも,検査を施行する人が人を測っている,という面もあります。今回はそのお話をしてみます。
検査には,回答者ひとりで行えるものもあります。たとえば,インターネットなどを通して,画面に出てくる選択肢を自分でポチポチと選ぶだけのような検査です。
しかし,ほとんどの正式な心理検査では,「テスター」という役割の人が存在します。テスターが,検査を施行する人です。
複雑な心理検査ほど,テスターの存在が重要になります。
テスターは,検査の説明をし,適切な方法で質問項目を見せたり読み上げたりし,そして回答者(受検者)の回答を回収し,検査結果を数値化します。
さらに多くの場合,テスターは,受検者の態度などを観察し,生育歴や家庭状況などさまざまな情報も踏まえながら,結果を「解釈」します。
特に知能検査は,いろいろな種類の問題で作られています。
選択回答式で,4択のどれか1つに必ず正解があるような問題もあります。これは,回答者の回答が正答なのか誤答なのかが明確であり,すぐに判断できます。
一方で,自由回答式の問題もあります。回答者が自由に,自分の言葉で答えます。この回答が正答なのか誤答なのかは,テスターが,あらかじめ用意されている採点基準と照らし合わせながら判断します。
さまざまな能力の人がいるので,回答者の回答も実にさまざまです。用意された基準から簡単に正誤を判断できるものばかりではありません。
そして,回答というのは,言葉そのものだけでなく,言葉以外の文脈によっても意味が変わることがあります。
意外と知られていないかもしれませんが,知能検査は決して表面的な回答だけで人を仕分けている訳ではありません。目の前の回答者の表情,態度,回答の文脈,そしてその人が背負っている背景などさまざまなコンテクストを含めて,その人の真の能力を見定めようとしています。
これが,もう一つの,人が人を測っている実態です。
そのため,どうしても,テスターによって検査の得点そのものにバラつきが出ます。
同じものさしを使っていても,使う人によって見え方が異なり,そして結果の値が変わることがあるということです。
人が人を測る以上,ある程度のバラつきは仕方がありませんが,もちろんこのバラつきは最小限にしなければいけません。
知能検査を作る側としては,なるべくバラつきがでないように工夫をしています。自由回答の問題を可能な限り減らしたり,採点基準を分かりやすくすることを努めています。そして,施行に慣れた人の間での採点の一致率が0.9以上など十分であることを確認したうえで,商品化しています。(最新版ほど改良されているので,最新版のご使用を強くお勧めします)
あとは何より,テスター自身が施行と採点の練習を重ねることが,本当に大切です。
現状では皆様各自工夫して練習されているようですが,この施行と採点を練習できる場所が少ない現状は,少し問題かもしれません。
心理士は職場にひとりだけということ往々にしてありますので,職場の同僚同士で練習できる機会もあまりないかもしれません。テスター同士で練習できる仕組みを作れるなら作りたいので・・・どのような形が望ましいか,ぜひテスターの皆様,コメント等で,ご意見ください!