口先だけでも軽やかに泳いでいたくて湯を沸かすうすいくちびる
「あなたが時々、何を考えているのかわからなくなる。それは魅力でもあるし、困ることでもあるよ」
中学時代のクラスメイトも、大学時代の恋人も、今の職場の上司も、口を揃えてわたしにそう言った。
ここ一年ほど「嬉しい」「悔しい」「楽しい」「哀しい」感情が一つずつ順番にフツフツ沸いては沈み、また浮き上がり、を繰り返しているのを強く感じている。
たとえば眼が冴えたまま部屋に射し込んでくる朝陽に絶望して、
夜明け前の些細な短いやりとりに少しだけ救われて、
イヤホンが手放せなくなったかと思えば歌詞のある音楽が聴けなくなって、
好きな服を着て通勤できることが嬉しくて、
空腹なのにコンビニで食べたいものがわからなくなって、
駅前の花屋でラナンキュラスを買って帰って、
わたしは何がしたいんだかわからなくなった。
普段はこういうことを誰かに話すでもなく、けれどどこかに残してはおきたくて、粛々とスマートフォンのカメラやメモに吐き出しては、仕舞っておく。
すっかりそういう癖がついているから、未完成の下書きなんて人様に見せられるわけがない。
きちんと自分のなかで咀嚼して、わかりやすく変換して、さらさらと清書したものを何食わぬ顔で伝えたいとか思ってしまう。
当たり前だが、そんなことをしているから考えひとつ伝えるのにも時間がかかる。
そうして逃したであろうタイミングなんて数知れず。
感情の赴くままに泣いて、笑って、怒って、嫉妬できるまっすぐな人が羨ましい。けれど今のわたしにはできないだろうなと思う。
ゴボゴボと流れ続ける渦のなかに身を任せていればさらりと簡単に忘れられることほど、そっと拾い上げて思い出すのって案外難しい。
だからいっそ、キュルリと透き通った上澄みも、沈殿した泥も、少し凪いだ今のうちに覚えていたくなった。
そういえば、わたしは西加奈子さんの作中の一節が好きだ。
結局何が言いたいんだかわからない感じになってしまったが。
わたしもたくさん恥をかいて、それで、しなやかでキュートな大人になりたいと思うのだ。
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