[アイロボ]4章2 孤独 優介2
こうして俺の隣にばあさんがいてもうばあさんの声を聞く事も出来ないと思ったらさもう涙を止められなかった。
道行く人も驚いていたさ。
こんな老いぼれじじぃが涙を流しているんだからさ。
それでも涙を止める事が出来なかったんだ。
それから俺は公園にいかなくなった。
だってばあさんを思い出して辛いんだ。
俺にとってはやっぱりばあさんは大きな存在だったんだよ。
辛かったさ。
感情を出せるようになってから悲しみや寂しさや色んな感情が湧いてきてもう俺はどういきていけばわかんなかった。
1人で生きていく事が辛いんじゃない、ばあさんがいない事が辛いんだ。
俺はきっと幸せだったんだな。
ばあさんはいつも陽気で明るくて強かったよ。
子供がいなくなって、ばあさんと2人だけの生活だったけど、ばあさんと2人で世間話をしたり孫の事を話したりさ、散歩してばあさんと過ごす日々がさ。
気が強いばあさんとはそりゃよく喧嘩もしたさ。
でも思い出すのはそんな当たり前で幸せな日常だけなんだよな。
それから1年くらいしてからかな。
俺はここにきていた。
そん時に思ったよ。
俺にはまだ子供も孫もいるってさ。
俺にはまだ大切なものがあるんだってさ。
その中で優介はいつかの俺みたいな目をしていたのさ。
俺は思ったよ。
優介は何をなくしてしまったんだろうって。
小さい子供だ。
そんなに多くのものを抱えちゃいないさ。
きっと親の事なんだろうと思ったよ。
アイロボ。よく聞くんだ。
優介には見守ってやる大人が必要なんだ。
優介だけじゃない。
すべての子供は沢山の大人に守られて育てられるべきなんだ。
何かをしようとなんて思わなくていいんだ。
ただ傍にいるだけでいい。
それだけでいいんだよ。
俺も一応親だったからな。
おまえならわかるはずだ。
なぁアイロボ。
おまえは、人の心に寄り添えるそういうロボットだろ?」
俊夫はそう言った。
僕は俊夫から視線を優介に移した。
無邪気に遊ぶ優介をみて僕はこのまま優介の笑顔をみていたい強く思った。
俊夫がその時託した思いを僕はその時知るはずもなかった。
それから暫く俊夫は公園に姿を見せる事はなかった。
いつも俊夫が座るベンチは空虚で気配も感じなかった。
俊夫がこない事に優介は落胆していたが、それでも公園で仲良くなった子供達と遊んでいた。
優介が保育園に行ってる間に覗いても俊夫はいなかった。
そんな日が3ヶ月続いた。
僕は本当は気付いていた。
最後に会った時にはじめの雇い主の美山幸彦が死ぬ前に嗅いだ匂いを俊夫からも嗅いだからだ。
俊夫はまだ60歳くらいで寿命までにはまだ早い。
だけど確かにあの匂いを嗅いだ。
だけど、その事を確認するすべもなく僕はただただ公園に俊夫の存在を探した。
そんなある日、優介と公園にきてる時だった。
1人の女性が僕に声をかけてきた。
「アイロボさんね?」
歳は、30歳半ばくらいだろうか?
僕の名前を呼ぶ女性を不信に思いながらもこの女性が俊夫の娘である事を確信していた。
俊夫に似た優しい目。
でも何処か寂しそうな目をしていた。
女性は、鞄の中から何かを取り出し僕に手渡した。
「これあの男の子に渡してください」
そう言って手渡されたのは金の古びた懐中時計だった。
「ガンだったんです」
女性は上を向いてボソリと呟いた。
「父は最後まで母の思い出の中にいたかったんだと思います」
俊夫の娘は今にも泣き出しそうな瞳で僕を見つめた。
何か救いを求めるような何処か悲しみを共有したいようなそんな目をしていた。
僕はそっと女性の目をみつめた。
娘は何かを感じ取り僕の隣に腰をおろし静かに語り始めた。
「ガンが再発したのを知ったのは半年前でした。
もう手遅れでした。
父はきっと不調に気付きながら病院にいかなかったんだと思います。
父は手術を拒否しました。
何度説得しても駄目でした。
最後まで自分の意思を曲げようとしなかった。
その頃、母は既に亡くなっていて父は1人で暮らしていたんです。
私と兄は仕事の関係で傍にはいてやれなくて1人取り残された父を呼び寄せようとしました。
だけど父は1人でも残るといいました。
今更新しい街には住めないよって。
だけど父は…。
母の思い出が残るこの街にいたかったんだと思います。
数少ない遺品からは母との思い出だけがありました。
母と撮った写真。
この公園で撮ったんだと思います。
父も母もまだ若くて古びた写真でした。
桜の木の下ではにかむように笑う2人はこの街で生きてきたんだと思いました。
私もこの街でうまれこの街で育ってきた。
この公園にも父とよくきていました。
父に肩車してもらってみる景色は本当に好きだった。
父の大きな背中が大好きだった。
私がそうだったように父と母の間にも私の知らない時間があったのだと思います。
この懐中時計は結婚する時に母が父に送ったものだと聞いています。
古くなっただけの思い出がこの時計に刻まれている。
父と母の思いがこの時計に刻まれているんです。
どうして父がこの時計をあの子に託そうとしたのかはわかりません。
だけど父もちゃんとこの街で生きていたんだなって。
見ず知らずの子供に何か託そうとした父に複雑な気持ちになったのも確かだけど、何故父がそういう思いを託したか知りたかったんです。
この公園に来たのは本当に久しぶりだったんです。
それで私思い出したんです。