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♯09 モラハラ夫との関係にテコ入れ。不妊治療を8年でやめた「そねちゃん」の話

あの時耐えてよかったと
今は思ってる


泣き寝入りすることなく、周りの助けを使ってそねちゃんは、ストレスフルな生活にテコ入れをした。正直、初めて聞くケースだった。DVやモラハラを受けたという知人、友人は、自分の知る限りではほぼ全員が別れたり、離婚したりしている。驚いた。そんなそねちゃんは、こう言う。

「辛い思いもさせられたんだけど、救われたこともたくさんあるの。」

「私がバリバリ稼いでいた頃、持病が悪化して土日は寝てばかりって日々だった時にさ、『そんなに休みごとに寝てるだけってさ、どうなの? もうそんなに頑張んなくていいんじゃない? 辞めたらいいよ。』ってある日サラッと言われて。なんというか旦那さんは基本的に、深く深く考えるタイプじゃないっていうかね。傍から見ると自分勝手な発言に聞こえるかもなんだけど、そこが自分と違うから、こういうカラリとした物言いに結構私は救われてて。」

そねちゃんのその言い方から、決して無理して旦那さんをかばうような発言ではない事がわかった。

「不妊治療もね、二人共が深く考えてのめり込むようなタイプだったら、もっともっと苦しかったかもしれない。協力はちゃんとしてくれてたけど、絶対に子どもを産んでくれ!というタイプでもなかったし、『自分たちのために、自分たちの楽しいことのためにお金使おうよ。』って言ってくれて、踏ん切りがついたと思う。」

聞くと、旦那さんの方はご家族もみんな同じような空気感とのことで。いい意味で楽観的というか、嫁への子を産めというプレッシャーもなく、カラリとしている感じが楽なんだそうだ。

「だからね、まあ、不思議なバランスだよね。
今はね、あの時耐えて良かったなぁ〜って思ってる。」

次にこれを言ったら離婚だ、とメモしていたワードを具体的に聞きたかったが、しみじみと言うそねちゃんの顔を見て、それは敢えて控えておいた。



そねちゃんの笑顔の秘密


いま目の前にいるそねちゃんが「あの時耐えてよかった」と言っているので、第三者の私がどうこう言う話ではないし、そねちゃんがいま笑顔でいるのなら、それでよいとは思うものの、もし当時苦しんでいるそねちゃんに会っていたら、私は絶対に離婚を勧めていたと思うのだ。どうしてここまでたどり着いたのか、まだ何か秘密がある気がしてならなかったので、もう少し取材を続けた。

「泣きながら踊っていたって話。もう少し聞いてもいい? 
ダンススタジオは辛い時の発散の場になってたってことかな。」

「うん、そうだね。そにはお子さんのいない女性もたくさんいて、仲間もできたの。今もずーっと通ってる。私、あそこに逃げてたんだと思う。逃げ場所だった。」

夫もいない、不妊治療の事も忘れられる。
ダンスの習い事がそねちゃんのシェルターだった。

「そうそう、その時そこで好きな⼈もできて。」

なぬっ!?!? 

「だから、すごく楽しくて。好きな人いるといいよ。
私、常にたくさんいる。恋するのは、いい♪」

それこそカラリと可愛く、そねちゃがん言い放った。常に好きな人が “たくさん”いる。と! なんだか突然話題の色味が華やいで、正直驚いた。

「え、それって、付き合ってる?ってこと?」

「いやいや、一線は超えない、ようにしてる。そうなると、大変じゃない? 超えてる人もいるけどね、フツーに。でも、私はそれはしない。周りからは好きだってバレバレだって言われているけど。もう、目がキラキラしてね、好きが溢れちゃってるんだって♡」

そねちゃんが文字通り、キラキラし出した。
女性は何歳になっても、恋すると可愛く笑うのだ。

「プログラムの終わりにおしゃべりしたり、旅行のお土産渡したりとか、
もう、そういう可愛いやつだよ。先生にキャーキャーする女子高生みたいな感じ。でもね、すっごく楽しい。」

そこからは、前半の重苦しい空気が嘘のように、たくさんの恋バナを聞かせてもらい、『あいみちゃんも好きな人作るといいよ♡』と背中まで押してもらった。


不妊治療を終えた後の幸せは。


取材を終え、そねちゃんとは心置きなくランチを楽しんだ。我慢していた学生時代のあれやこれやを話して、そこでも知らなかったそねちゃんの一面を知り、多いに驚かされた。

そねちゃんはきちんと、自らの力で人生のテコ入れをして来た。旦那さんのキツイ言葉は減り、今では逆に頼られているような関係性だそうだ。今の居心地の良い関係を、そねちゃんが自分で作り上げたのだと思う。自身の持病にとっても暮らし易いマイホーム、毎年高級温泉宿にも行ける経済的な安定感、時々ケンカもするけど、旅に出れば仲良くなって帰ってくるパートナーもちゃんいる。それでいて、そねちゃんは、決して相手に依存はしていない。手に職も付けているし、自分で稼げる術も知っている。そして何より恋するチカラも持っている。

この先、もしもそねちゃんが
「あ、ちがうわ。」と思う事が起きたら、
潔く大胆に、道を変える決断力も持っていると感じた。

取材の後、教えてくれたのだけど、そねちゃんは元々子どもが好きで、やっぱり子どもと暮らしてみたかったそうだ。里子を迎えることも提案したけど、それに対して旦那さんの答えは「絶対にNO」だった。「いつか辛く当たってしまいそうな気がする」という理由には、そねちゃんも頷いてしまい、こればかりは夫婦ふたりの意思が合わなくては無理だからと、すっぱりと諦めたのだそうだ。

「あの時子どもを授からなくてよかった。2人の人生最高!」なんて空気は決してなく、そねちゃんからは「やっぱり私は子どもが欲しかった」という空気の方を圧倒的に感じたけれど、そんなそねちゃんも、ちゃんと自分に素直で、自然体だった。

心配していた録音は、私の声がそねちゃんの倍くらい大きくてうるさかったけれど、ちゃんと聞き取れた。小柄でフフフと笑う、小さな声のそねちゃんだけど、中身は男気があって、かっこよかったな。
女性の外見や雰囲気に騙される男ってのは、ほんっと馬鹿だなと思いつつ、
私自身、そねちゃんの纏う雰囲気にまんまと騙されていた1人なのかもしれないなと、反省。

不妊治療をどのように終えても、結局自分を幸せにするかどうかは、
本人にかかっているのだと、そねちゃんの姿を見て、強く感じた。

そねちゃんはきっとこれからも、自由だ。

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