マウスウォッシュの新型コロナウィルス抑制効果:無作為化比較試験結果
今回取り上げた題材はマウスウォッシュは新型コロナウィルス抑制に役立つか?という無作為化比較試験の論文です.
「唾液中のSARS-CoV-2に対するクロルヘキシジンとポビドンヨードマウスウォッシュの対ウイルス効果:人での無作為化対照臨床試験」
昨年,大阪府知事の発言をきっかけにイソジンうがい薬が店頭から消えました.
こんな時,私たちはその根拠となった研究は信頼性があるのか?を判断します.当時は,根拠となる研究はありませんでした.
私たちが信頼してよい研究は,例えば今,新型コロナに対するワクチンや,治療薬で行われている人を対象とした無作為化比較試験以上の研究です.
考えられる限りのバイアスを取り除き,世界の人に対して一般化,結果を適応してもよい,といえるような厳密なデザインで行われた研究結果だけが信頼に値するのです.
この研究のエビデンスの強さ
無作為化比較試験のエビデンスの強度(情報の信頼性の高さ)についてはこちらの図の通り,一次研究では最高位(4番目のRCT:Randomised controlled trialが無作為化比較試験)で,こういったRCTをまとめたもの(2次研究)がその上位にきます.
この研究は4番目,一次研究のトップですね.無作為化比較試験は,お金も人も能力も労力すべての面で巨大なため,研究者の中でもデザイン,実施できる人が限られています.
この研究はちゃんと人を対象とし,唾液中のSARS-CoV-2の量が,クロルヘキシジンとポビドンヨードマウスウォッシュと水によるうがいで減るのか?を無作為化対照臨床試験したものです.
無作為化は,バイアスができないよう,グループに参加者を組み入れるときに誰がどのグループに入るかわからないようにするという方法です.これに加えて盲検化(どの薬を使っているか参加者がわからない)という方法を加えるとよいバイアスのない研究になります.
実験内容
全文はこちらで見ることができます.
クロルヘキシジンとポビドンヨード,どちらも市販のうがい薬として手に入るものです.どういったものに含まれているかは後程記載します.
ポピドンヨードはイソジンです.
この研究は,歯医者さんたちが行いました.マウスウォッシュの研究は歯医者さんたちが行ったものが多いです.
歯科のフィールドの研究は無作為化比較試験でも少し解釈に注意を要するものも多い印象です.研究デザインに弱みがあり,バイアスがある可能性があり,本件も同様です.しかしながら,今後,もっとよい研究がされ確証に変わるとよいなと思います.
クリスタルワリスってなんだろう??って最初思いましたが,原文ははっきりそう書いています(笑)正しくはクラスカルワリスです.著者が間違えて,共同著者も気づかずに,査読者も気づかなかったのでしょうか,ザルだな(笑)でも,ハゲタカジャーナルではない査読有の雑誌ですのでそれなりに信頼性はあると思いながら読み進めました.
実験結果
以下クロルヘキシジンとポビドンヨードが含まれる洗口剤の例です.
実験フロー図を示します.
最初参加者は77名いましたが,参加できる人の選択基準を設けていたり参加しようと思ったけどやめた,という人がいたりして,参加者は最終的に61名となっています.
水うがいをしたグループは9名,0.2%クロルヘキシジンは27名,1%ポピドンヨードは25名と偏りがあるのと人数が少ないのが気になりますが,結果は下記の通り,グループ間で有意な差が出ています!
水うがいと比べてポピドンヨードもクロルヘキシジンも有意にウィルス量が減りました.ポピドンヨードとクロルヘキシジンではややクロルヘキシジンで減るように見えますが,有意差はありませんでした.しかし,人数を増やした実験をすれば有意差はでるかもしれません.
下の図でもグループ内比較でも有意にウィルス量が減っていることがわかり
ます.
結果は下記のとおりです.
クロルヘキシジンうがい,よいですね.イソジンは細胞毒性もあるので,頻回にはできないですが,ほかの研究では6時間くらいは効果が持ちそうなので一日4回くらいすると人にうつさない可能性が高まるのではないでしょうか.
というわけで,ジャーナルクラブでご紹介した今回の論文の結果をわたしも活用し,マウスウォッシュを行っております.
近いうちに,よりよいデザインの研究で確証が得られることを望みます.