自閉症スペクトラムと服薬

「服薬も検討してみてもいいかもしれません。」

突然言われた。放課後等デイサービスの作業療法士さんに。
その日、自閉症スペクトラムの息子が放課後等デイサービスで暴れたそうだ。

さて。
私はいま、臨月の妊婦である。出産予定日まで2週間をきった。
怒涛の9月になるであろうことは、わかりきっていた。
私の出産もさることながら、9月から支援級の担任がかわることになっていること、運動会があること、かけ算が始まることに異常にビビっていること、、、等。
その為、対策のできることはしておこうと、療育センターでの定期受診を一ヶ月早め、各所関係機関との連携もはかり、すべてがうまくいくとはおもってなんていなかったけど、できる限りはやり尽くした。

ところがどっこい、である。

先月いったばかりで半年に一回の定期受診がルーティンになっている激混み療育センターへの受診予約の電話を、いまこの推定体重3500グラムを超えた胎児を抱えたドデカイ腹と豆腐メンタルの状態でかけることになるとは…。

療育センターに電話をし外来予約を無事取り終えた後、実は久々に泣いた。ぼろぼろと。鼻血がでるほど泣いた。
臨月のホルモンバランスのせいにしたいところだけれど。

初めて診断がついた時のドクターの言葉が、頭の中でエンドレスリピートしたのだ。
「子供の困り事に親が気づいていないところが問題」

今回、突如として服薬を勧められたことに動揺した。
結構激しく動揺した。
なぜなら、息子は家ではとっても穏やかでニコニコやさしくて、今のままの息子が息子であり、それになにも苦労や違和感や困り事を感じていなかったから。
もちろん、集団の中では自閉症スペクトラム特有の困りごとが本人を苦しめることがある。だからこそ支援級に在席し合理的配慮を受けれるようにしているし、放課後等デイサービスでは苦手を克服するべくトレーニングしたりしている。
周囲の理解と協力、配慮のおかげで、それがないのとは比べ物にならないほどに、うまく生活できている、、、

と思っていたのは私だけだったのか。…と泣いた。
また、私が勘違いしていたのだ、理解していなかったのだ、でも、わからないの、本当にわからないの、、、と泣いた。

「子供の困り事に親が気がついていないことが問題」

頭がぐおんぐおんとした。何度もこと言葉がリピートして。

さて、私の涙腺が崩壊した療育センターの相談窓口に電話したときのことだが、、、

外来予約の番号はまず繋がらないことを心得ている。ここは戦場最前線。そしてコロナウィルスの影響もあり電話が壊れてるんじゃないか?ってくらい繋がらないのだ。
なので以前、療育センターの掲示板に貼ってあった相談窓口の番号をメモしていたのでそこに電話をしてみた。
驚くほどすんなり繋がった。

一通り今回の経緯を話すと、相談窓口のナースと思われる方が「お母さん、突然服薬だなんて話になってビックリしたでしょう。大丈夫?お母さんはどう思っているの?」と優しく明るい声で言ってくれた。

その時、初めて気がついた。そうなの、わたし、びっくりしたの。動揺してるの。平静を装ってたけど、大丈夫なんかじゃない。私はどう思っているか??それすらわからないの…。と。

涙がこぼれそうになるのをこらえて、また冷静なふりをして私の思いを伝えた。

服薬に関しては先生に相談して決めていきたいけれど、9月は乱れるであろうことを7月の受診のときにすでに相談していたし、乱れる原因もわかっているから対処もできると思っていたこと。
服薬が必要だと感じることは家庭ではないこと。私自身は子育てに困っていないこと。緊急性もないと思うということ。学校でも療育でも順調に過ごせていたこと。
だって、先月までは「すごく落ち着いてていい感じだね。9月は大変だろうけど、対処していこう」とその作業療法士さんとも面談していたし。だからこそその後の療育センターでの受診でもその旨を話し、なんとかうまく乗り切っていこうって話になった。
服薬の話になんて1ミリも出なかったし、考えにも及ばなかった。
「環境の変化に弱いところがあるから、そこを服薬でうまくコントロールして本人がもう少し楽になれるなら、、、という意味合いでの服薬の提案です。」と作業療法士さんが言っていたけれど、申し訳ないが暴れるのはそこの放課後デイでだけなのだ…しかも毎回ではない。今回に限っては2学期初日であったことが大きなストレスだったのでは?と原因もわかっている。だからこそ放課後デイでの関わり方の工夫しだいで、服薬せずにいれるのでは…。

あ…「子供の困り事に親が気がついていないことが問題」

…そうだ、私がわかっていないだけかもしれないから、やはり先生の判断にまかせたほうがいい。そうだ、そうに決まってる…。

相談窓口のナースと思われる方は、「うん、うん。」と話を聞いてくれて外来予約に電話を繋いでくれた。
外来予約のナースの方も「うん、うん。」と話を聞いてくれて、担当医にも相談してから折り返し電話すると言ってくれた。
ちゃんと「産後すぐの受診になってしまうけれど、お母さんは大丈夫?赤ちゃん預けたりできる人いる??」と私を最大限に気遣ってくれ、これまた涙腺が崩壊する原因のひとつに加わった。

電話を切ったあと、ぼろぼろぼろぼろ泣けてきて止まらなかった。
でもある有名な教授の講演で「人って十分くらいしか泣けないから」って聞いたのをふと思い出し、とりあえず泣くだけ泣いちゃえなんて考えてる冷静な自分もいた。
でも、「子供の困り事に親が気がついていないことが問題」というあの冷たい医師の視線と言葉が頭を駆け巡り、心をえぐり、結局泣き止むのに十分以上かかってしまった。
 

でも、ありがたいことに、私には心の支えとなる同じく発達障害児の子育てをしているママ友がいる。いや、ママ友を超えている。どんなカウンセラーより信頼している素晴らしき理解者。
その人にラインをした。
服薬についての情報を教えてくれ、自分の子の体験談を話してくれ、わたしの状況に寄り添い共感してくれた。

救われた。
心から救われた。感謝してもしきれないほどに。
おかげで心に冷静を取り戻すことができた。
最後には、今回の出来事で親としての経験値アップするな!くらい前向きになれていた。

そしてさらには、放課後等デイの別の作業療法士さんが電話をくれた。
“同業者の批判はしない”
これがセオリーであるにもかかわらず、オブラートに包みながらではあるが、服薬でどうこうということではないような…ドクターも薬をだす判断はしないような…なんで服薬の話になったのか…うーん、うーん、と唸りながら、要するに「出産直前にこんな動揺させるような事態になってしまったけれど、とにかく心穏やかに無事に出産してくれ!子供のフォローはしていくから!」というような私に寄り添うフォローをしてくれた。

私も息子も、環境に恵まれている。
みんなに助けられてここまできた。
感謝だ。

服薬を勧めてくれた作業療法士さんももちろん、息子を想ってのこと。そういう選択肢もあるんだよって教えてくれただけ。
その方の経験からみて、それもありなんじゃないかって思ってのことだろう。(提案してくれたタイミングが私には酷であったことは間違いないのだが。そんなんより子供優先で考えてくれていることに感謝しなければいけない、と今なら思える。)

さて、息子は服薬をするのかしないのか。 
この怒涛の9月をどう乗り越えていくのか。
壁を越えた先に、どんな景色が待っているのか…。

私の中で、服薬することについては今はまだなんとも言えない心境であるし、専門家の意見を聞いて、納得してから決めていきたいと思っている。

発達障害児の子育てをしていると、多くの親子がぶつかる壁だと思う“服薬”という、おおきな壁。
子供にとって最善の選択をしていきたい。
私にできることはそれしかない。

今回は結構なストレスがかかったのか、夜、前駆陣痛や張りで眠れないっていう臨月特有の症状がスパッと消え、なぜかとても眠くなり2晩爆睡した。
完全にホルモンバランス乱れた感触が…ある。笑

とりあえず目の前のことを一つ一つクリアしていこうと思った。
そう、まずは無事に出産しなければ。
 

話はそれからだ。 

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