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初めての××キスがお兄ちゃんだった話

キスの思い出といえば、多くの人が思い浮かべるのはどんなキスなのだろう。
物語だとファーストキスってすごく印象的に扱われているけど、私な場合はファーストキスの記憶がない。母いわく、私のファーストキスは幼稚園の時だそうで、仲良かった男の子に私の方からチュッとしてたそう。
当然そんな小さな頃のことなんてよく覚えてないし、その感覚も何も記憶には残っていない。

だから私が初めてのキスは?と聞かれて思い出すのはいつもお兄ちゃんのこと。
近所に住んでいた年上の男の子とか、優しくしてくれた従兄とかじゃなくて、正真正銘血の繋がった実の兄。
兄とのそれは人生で一番ドキドキして、一番心から感じたキスだったと思う。

どうして兄と妹でこんな事になってしまったのか。
多分、私と兄の距離が近すぎたんだと思う。
小さい頃からいつも側にいて、かまってくれて、優しい兄が私は大好きだった。
子供の頃の写真を改めて見返すと、私が兄にベッタリくっついてるものが多い。まるで、お兄ちゃんは私のモノ!と言わんばかりに。
私にはもう1人弟もいたけど、兄が弟をかまっていて私の相手が疎かになると、嫉妬して2人の間に割って入ろうとしたというのは親達からよく聞かされた話だ。

それでも小さな頃の私達はそれこそ普通の、ただ仲の良いだけの兄妹だった。
関係が変わったのは私が中学生、兄が高校生になってしばらくしてのことだ。

ある日兄が家に彼女を連れてきた。

ショックだった。
付き合って3ヶ月くらいだと紹介されて、ずっと黙ってたの?って驚いたし、私以外の女の子を大事にしている兄を見て何故かすごく裏切られたような気持ちになってしまった。
後からその子が初カノではなく、中学時代にも彼女がいた時期があることを知った時は心がぐちゃぐちゃになって思わず泣いてしまった。
両親も弟もその事を知っていて、私だけが知らされていない話だった。
いつまで経っても兄にべったりな、お兄ちゃんっ子の私がきっと嫌がるだろうと、そんな感じの理由で。
実際その通りだったのだけど、今思えば家族で1人だけ除け者にされていた事の寂しさもあったかもしれない。
でもやっぱり一番は、どこかで私はお兄ちゃんは私のモノだと勝手に感じていたんだと思う。

彼女にプレゼントを買うためにバイトを始めた兄を見て、私のためにはそんな事しないのに…と、当たり前なのにまた嫉妬して。
弟からこの前兄と彼女がキスしてるのを見たと聞かされてまた泣きたくなって。
一時期はずっとぐるぐると兄とその彼女のことで頭の中を掻き回されていた気がする。

そんな時に私は生まれて初めて男の子から告白された。
あまり話をしたことのない別のクラスの男子で、正直その時点で相手に恋愛感情はなかったけど付き合うかどうか本気で悩んだ。
私にも彼氏ができたら、もう兄とその彼女のことを考えないで済むかもしれない。そう考えたら、目の前のこの男の子のことを好きになった方がいいと思った。
――でもどうしても首を縦に振ることができなかった。違う男の子に思いを告げられたことで「お兄ちゃんがいい。」という気持ちが、漠然としたものから明確なものへと変わってしまった。

私はお兄ちゃんがいいんだ。

そう強く意識してからさらに月日が経ち、中1の冬が終わろうとしていた頃。
兄と彼女が別れたことを知った。

母によると彼女と別れて落ち込んでいるらしい兄の姿は普段ととくに違うようには私には見えなかった。
ただ彼女と登下校の待ち合わせがなくなったことで、家を出る時間や帰宅時間に多少の変化があったくらいだった。

久しぶりに家に兄と二人きり。

兄が借りてきたホラー映画をなんとなく一緒に観る事になって、私は兄と並んでソファーに座り、その腕にぴっとり身を寄せていた。
ホラー映画は恐くてあまり得意じゃなかったけど、それを口実に兄にひっつけるから、兄が一緒なら観るのは苦じゃなかった。
ただ、兄への想いを自覚した私にその映画はあまりにも刺激が強すぎるものだった。
何かというと、洋画ホラーあるあるのカップルの濃厚ないちゃいちゃシーンだ。
男と女が息も絶え絶えに舌と舌を絡ませあっている。家族で観ると気まずくなるようなラブシーン。
だけど私はただひたすら、隣の体温を意識しながら謎の高揚感に包まれていたように思う。
気がつけばほとんど無意識のうちに「彼女とこういうキスした事ある?」と兄に聞いていた。

私の方を驚いた顔で見ている兄と目が合った気がする。
何年も前の話だし、その時の私は気持ちがかなり昂っていたため細かいやり取り全てを覚えているわけではないけれど、兄が暫く考えた素振りを見せた後で「お前には内緒」と言ったことだけははっきりと覚えている。

それを聞いて私は(したんだ…。)と思って、無性に悲しくなった。
そして「映画のキスと同じやつを私にしてみてほしい」と、今度ははっきり自覚しながら兄に懇願した。

やっぱり驚いた顔の兄に、兄妹で駄目だろとか、無理だよとか色々言われたけれど、私は止まれなかった。ふいに前に私に告白してきた男の子のことを思い出して、そのことを兄に告げた。とっくに断った話なのに「もしかしたら付き合うかもしれない」と嘘をついた。
初めて男の子と付き合うけど何も知らないから恐くて不安。お兄ちゃんと先に経験しておけば怯えないで済むから。そんな無茶苦茶な作り話をして、私はもう一度兄に迫った。
兄に彼女ができた時の私のように、兄にも私に彼氏ができたら嫉妬してほしいという願望もあった。

結果的に私の作戦は大成功を納める。

兄の唇が私の唇に重なった。

観念したかのように兄は私の肩に手を回し、「一回だけな」と言って私にキスをした。

最初に軽く触れて、私が口を開けたらぬめっとした舌が入り込んできた。
兄の舌が私の中に入り込んで私の舌を舐めている。二人の舌が絡まり合ってピチャピチャと音を立てている。
その事に私は妙に興奮し兄にされるがままに己の舌を差し出し続けた。
兄の背中に手を回したら、兄も私を抱き締めてくれた。
その時はまるで本当に、大好きな兄の全てを手に入れたような気分だった。
テクニックもなにもないお互いの舌を擦り合わせているだけのような、がむしゃらなディープキス。
それでもこの時のキスは、私にとってずっと忘れられない最高のキスとして今も心に残っている。

一回限りの約束のはずだったキスは、それから家族の目を盗んで頻繁にするようになるのだけど…。
それはまた別の記事で。

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