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人魚の肉

 人魚の肉をうっかり食べたら、人は死なないという。

 八百比丘尼の話を読んで、子供の頃あまりの恐怖に身悶えた。

 少なく見積もって八百年、お殿様に寿命を二百年分けてあげても八百年。人魚の肉を食べるのはこんなにも罪深いのか。

 私は、長生きをしたいと思ったことがない。

 不死と不老は違うから、短命はちっとも構わなくて老化は出来ればしたくない。短命ならば、歳をとらなくても何とか市井に紛れて(擬態っていうか)生きてゆけそうではないか。

 ところが、長生きしたとする!

 寿命が長くなっても、見た目は若い娘のままだとしたら、お節介、勘繰り、パワハラセクハラ諸々、それを八百年!ああ、頭が痛い。

 自分一人、姿変わらず生き永らえて、周囲の親しい人たちが一人もいなくなる世界なんて、想像するだに恐ろしい。未来の知らない人々の顔は皆、のっぺらぼうで意味のわからない言葉を交わす。その想像は非常にリアルな息遣いで私の脳裏に拡がるのだった。SFだすな。


 人魚の肉は、非常に美味だという。

 それはそうだろうなあ、長生きって苦痛だもの。味くらいよくしてくれなくちゃ、食べる甲斐がない。

 今流行り(流行り?)の「アマビエ」を見ると、何となく八百比丘尼の話を思い出すのだ。何処かで繋がっているのかな。寿命そんなに要らないから、このコロナ禍をどうぞどうぞよろしく頼みます。美味しくなくても頑張ります、って、食うのかい!

 一日も早く、誰もが安心して暮らせる世の中になりますように。


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