時を刻んだ指輪が教えてくれた新たな時
バキ、グキ、ゴリッ
???
骨が折れたか、何が割れたか、一瞬見当がつかなかった。
机についてノートを広げ、初めて一人で作るおせちの計画立ていた私は、しばらく考えあぐねながら、なんとなく肌寒く感じる手をお尻の下に敷くようにして、いつにない体勢を取っていた。
割れたのは指輪だった。
セレモニーで交換した結婚指輪。
そういえば、当日の朝に間一髪ギリギリ届いた、時を得た代物だった。
あれから毎日、私の薬指と一体化して時を過ごしていた。
真っ二つどころか、4つの破片となってしまった。
一瞬、私は時が止まったまま、叫ぶほか動けなかった。
隣の部屋で運動していた夫が私の大きな声を聞きつけて顔を出してくれ、ショッキングな事実を説明。
"Oh!"と一言発して、形を変えた指輪をジーッと見つめる彼。
私が森を、彼が海を愛することから、彼が選んだのは輝く金属の指輪ではなく、木と石からできた素朴なユニークなものだった。
固まる私の横で、ポジティブで定評がある彼がいろいろと言葉をかけてくれる。
▷ 何をする時もずっとはめてたもんね
▷ ベストなクオリティじゃなかったね(そんなことない)
▷ 僕のをはめたらいいよw(彼はサイズが合わないと言って付けてない)
▷ 形あるものはいつか壊れる、そういう時だったンダ
▷ New Stageってことじゃないかな、良いしるしだよ
▷ こんな風になるなんて知らなかったよ!ごめんね
▷ よくあることだよ(一個しかない指輪でよくあるとは言わないのでは)
ひと通り言葉を尽くしてくれて、最終的に壊したのは私なのに、なぜか彼が謝って、そして、エクササイズを続けてもいいかなと、隣の部屋にまた消えていった。
なんと言っても壊れてしまったものはしょうがないので、私は彼を見送ったあと、欠片たちをそっと引き出しにしまった。
一晩たって、キーボードを叩く私の指に、いつもあったものがない。
軽いような、寒いような、不思議な感覚。
「New Stage」
結婚して2年半、コロナ禍で不本意とはいえ住む場所もようやく一旦落ち着いて、改めて未来を考えているタイミングに思し召し的なメッセージを読むのも悪くない。
指輪が壊れたという事実に何を読むか、解釈は自由だ。
小さな指輪が壊れたことくらい、書き留めるほどのことでもないかもしれないとも思った。
でも、取るに足らないような小さないろいろで日常は彩られている。
それが、どんな色に見えるのか。
私なりの日々を書き綴っていこうとしている今、出来事とそこに見るストーリーの「フレーム」を思い起こさせてくれる小さくて大きな存在だった。
日々を共にした左手の一部が去って、また新しい日々が始まる。
しばらく書けずにいたこの頃、小さなことでも書いておこうと思った今朝の一ページ。
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