優しさの勝ち
「とっと、雪見だいふく一緒に食べよう」
夕食後、風呂から上がった8歳の息子が持ってきた。雪見だいふくは、1つのパッケージの中に大きなアイスが2つ入っている。それを1個ずつ分けて食べようという息子からの提案だ。
「あー…うん」
パックを開けようと、隣に座る息子。
着々と食べる準備が整っていく中でも、僕は少し迷っていた。
実は、雪見だいふくを食べると僕は高確率でお腹を壊す。なぜだか分からない。味は好き。でも個人的に、食べ物として相性が良くないのかもしれない。だから、基本的に自分から買って食べることはない。
「俺はいいから、全部食べなよ」
そう言ってしまうのは簡単だ。
だけど、息子の優しさを突き返してしまうようで何だかためらってしまう。
今日、およそ2ヶ月ぶりに会社に顔を出した。IgA血管炎を患って以降、ちゃんとした出社は初めて。今朝は紫斑がある程度引いていたことと、関節痛などの痛みが無かったのが出勤しようと思った理由だ。
基本的に今日の仕事はミーティング中心。
ずっと座った状態で過ごすことになった。これは現状の病気では最善の策。医師からの話では、直立した状態で長時間過ごしたり、動き回ったりすると良くないという話だった。
…でも。
それなのに、家に帰ってみると紫斑が増悪していた。広がっていたのは腰や太もも中心。このことは、僕のテンションを著しく下げた。
…マジかよ。ほとんど動いていない座りの仕事で紫斑が出るなら、もう何も出来ないじゃん。
多分、無意識に軽くぼやいていたんだと思う。
これに反応したのが息子だった。風呂から上がって脱衣所で着替えている時から母親に「とっとと一緒に雪見だいふくを食べたい」と言っている声が聞こえていた。
「はい!」
パッケージのフタを開けて息子が雪見だいふくを差し出してくる。きっと「元気になってほしい」という気持ちが込められているのだろう。
息子自身が食べる前に、こちらにひとつ取るように促してくる。その目は優しい。
…まぁ、いっか。
色々考えた末に、フォークでひとつ刺して頬張った。
「どう?」
息子が聞いてくる。
「うん、うまい」
僕が食べる様子をみると、息子は満足げに自分の雪見だいふくを食べ始めた。