見出し画像

ドクターヘリを追いかける

午前11時30分。
撮影クルーに持たされているPHSがけたたましく鳴った。担当が通話ボタンを押して状況を聞き取る。

「野尻だって」

野尻町は、宮崎県の中央からやや西に位置する。
連絡を受けて前にいたドクターが走り出す。僕ら撮影クルーも慌てて追いかけていく。ヘリポートへ行くためのエレベーターには、僕らの他に新人フライトドクター、ベテランフライトドクター、看護師が乗っている。
なんとも言えない緊迫感が辺りを包む。

今日は、救急救命センターで1日張り込みの取材だった。「新人のフライトドクターに密着して、その成長を追う」というのが、制作する動画の目的だ。
「救急救命センター」「フライトドクター」といえば、ドラマや映画で話題なった「コードブルー」が頭に浮かぶと思う。
取材してみて分かったのは、現場は本当にあのドラマのような感じだということだった。宮崎県内で起こる事故の程度によっては、ドクターヘリが出動して患者を処置・搬送する。
僕らが追いかけるフライトドクターは、今年4月からドクターヘリに乗れるようになった新人医師だ。

ヘリポートへつながるエレベーターを降りると、防護服が用意してあり、皆がそれを素早く身につけた。
ヘリポートにいる整備士が、こちらに向かってオッケーの合図を出し、自動ドアが開く。
ドクターヘリのエンジン音とプロペラが回る音が辺りに響いた。
医師達がドクターヘリへ向かって走り出す。僕ら撮影クルーの内、カメラマン一人だけがヘリに乗ることを許されている。彼は医師達と一緒にヘリへと向かう。

全員が乗り込むと、ヘリのプロペラが回る音がさらに大きくなった。地上での待機組は、カメラでドクターヘリが飛び立つ瞬間を狙う。ドクターヘリの中に一人、地上待機組でもカメラを構え、万全の体制だ。

「…?」

そんな中、なかなかヘリが飛び立たない。
しばらくすると、中に乗り込んだ医師達が窓越しにこちらに向かって手で「バツ」のサインを送ってきた。

飛ばないってことか。

その場のスタッフ達もすぐに状況を理解し、カメラのRecボタンを止める。エンジンが止まり降りてきた医師達からは、「オーバートリアージ」でヘリが飛び立つ直前に出動がキャンセルされたという説明がされた。

今回の場合は、出動の要請があり先に救急隊が駆けつけて症状を診てみたところ、ドクターヘリを呼ぶレベルではないと判断されたとのことだった。

朝から夕方まで張り込んだが、今日出動の要請がかかったのはこの一件だけ。
張り込み初日は、ドクターヘリ絡みの画は撮影できなかったが、フライトドクターのインタビューや日々の努力の様子を抑えることができた。

これから期間的には飛び飛びではあるが、2ヶ月くらいをかけて取材をしていく中での初日。
まずまずのスタートだった。


(note更新212日目)


いいなと思ったら応援しよう!