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グラデーション【ショートショート】
いつだって、本当に幸せを感じる時は一瞬だ。
宮崎の街中、とあるビルの7階。
部屋のベランダから眺める街の様子は、時間が経つにつれてその表情を変える。一番好きなのは、朝日が昇り町が光で色付いていく瞬間。暗い夜を抜け、新しい一日が始まる時に生まれるグラデーションがたまらなく好きで、それを見ているだけで幸せな気持ちになる。
今いるビルは築40年らしい。建物としては所々に綻びがあるが、ビルの上部が斜めに切り出されていることで、日の光が取り込みやすい造りになっていると聞いた。
たまたまだが、今住んでいる7階とその下の6階の住人はその恩恵を受けていた。
「ここなら、嫌なことがあっても全部忘れられそう」
彼女がここに住むことを決めた時、そんなことをポツリと呟いたのを聞いた。
出会った当時は、仕事から帰ってきたら泣いてばかりだった。職場の人間関係に苦労している様子だったが、自分には何も力になれずそばに寄り添うことしかできなかった。だから彼女が引っ越すことを決めた時、それで気持ちが晴れるならと賛成だった。
引越しを終えて半年。
この家からの景色のおかげか、最近は笑顔でいることが多くてホッとしている。
「あ、またそこにいたんだ。そろそろ、ご飯にしよっか」
窓からひょっこりと顔を出した彼女は、ゆっくりとこちらに歩いてくる。言われてみれば、たしかにお腹が空いてきた。
「そうだね、ご飯食べたい」
そんな声を出した時だった。
「お、綺麗な朝日じゃん」
彼女の後ろから、知らない男の声がした。
「…え、誰?コイツ」
思わず、身体がこわばる。
「あはは、警戒してんじゃん」
男はヘラヘラと笑いながら近付いてくる。
こちらに手を伸ばしてきたので、思わず払い除けた。
「痛てっ!いきなりネコパンチ食らったんだけど」
男は怪訝そうな顔をしている。
「コラ、ムギ!ダメでしょ。乱暴したら」
慌てて彼女がやってきて、そっと抱きかかえてくれた。
あぁ、やっぱりこの人の腕の中は落ち着く。
それにしても、この男は馴れ馴れしくて腹が立つ。
「俺、嫌われちゃったかな」
男は少し肩を落としている。
「ううん。ムギもこれから少しずつ慣れると思うよ」
そう言う彼女は何だか嬉しそうだ。
「これから、よろしくね」
彼女が男に声をかける。
「こちらこそ」
男も笑顔でそれに答えている。
…なんだよ、これ。
全然納得いかないんですけど。
新しい朝の光が、2人と1匹を照らしていた。
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初めて「ショートショート」というジャンルを書いてみました。どういうものがショートショートなのかが、完全に手探り。というか、まだ明確には掴めてないですが…。自分なりの解釈で書いてみたのが今回の「グラデーション」でした。
お粗末様でした。
読んでいただいたみなさま、ありがとうございました。